05.10.戦利品

 「これはゆいそらの初めてを貰った羨ましい人」


 琴乃ことのAzusa来夢らむゆいを紹介する。そらは眠ったままだが、高校生たちの注目が集まる剣道場でそらの過去が次々と暴露されていく。


 「そらさんの初めての人……」


 初めてと聞いてAzusaが複雑な表情を浮かべる。もっとも、ゆいが居なかったとしてもAzusaそらの初めての相手になることはなかったのだが。


 「羨ましそうにゆいを見てるのはAzusa。女子高生、16歳、ゆいより10歳若い」


 「う、羨ましそうになんかしてないし、もう17になったし」


 「そうだった。ゆいより9歳若い。まだ手つかずだが嫁は嫁」


 今度はゆいAzusaを紹介するのだが、年齢差を認識させる必要はあるのだろうか。同じ高校生、しかも金髪美少女までもが嫁と聞いて高校生たちがざわついている。当然、ゆいの心もだ。


    女子高生って……

    キメ細かい肌……

    うううう、若い!


 「よ、宜しくね、Azusaさん」


 「こちらこそ……」


 「こっちは来夢らむAzusaの叔母で今朝嫁になったばかり。ギリギリ間に合った」


    叔母?

    しかも今朝って……


 「数合わせの為に無理やり……とか……」


 「そんな事はない。たまたま今朝だっただけで神月こうづきくん、いや、ダーリンの子を産む覚悟は出来ていた。初めて会った時からな」


 「ちなみに29歳。ゆいより年上、ちょっと焦ってる」


 「別に焦っているわけではないが、元気な子を産んでやりたいからな。今朝もたっぷりと仕込んでもらったところだ」


    私だって覚悟ぐらいできてる

    そらの赤ちゃん産みたい!

    そうよ、他の女の子たちはまだ学生

    今すぐ産めるのなんて私とこの人ぐらいじゃない!

    そして私の方が若い!!


 そう考えると自分が優位に思えてくるのだった。


 「そうよね。頑張りましょう、お互いに」


 「ああ。宜しくな、ゆい。私のことも来夢らむでいい」


 「わかったわ、来夢らむ


 「嫁は皆平等。子供を産んでも変わらない」


 二人の間に不思議な連帯感が芽生えたのだが、優位に立とうとするゆい琴乃ことのが釘を刺す。


 「わかってるわよ」


    なんだ、六人目だからって順位が下がるわけじゃないのね


 「神月こうづき家家訓。第一条……」


 最後に琴乃ことのが家訓を示し、順位を気にしていたゆいの不安を払拭したのだが、とんでもないものを聞かされた高校生たちはドン引きしたのだった。



    ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆



 神月こうづき家へと戻り、裸になってみればみつるに打たれた所は尽く内出血してしまっていた。腕も、足も、首も、紫色に変色しズキズキと痛む。


 「三日間冷やしてその後温めるのが基本的な治療方法みたいですよ」


 ネットで調べた真耶まやの言葉を頼りに全員で風呂場へと向かう。悪臭を放つそらの体を洗うついでに真水で冷やす為なのだが……


 「こここ、ここまでする必要……あ、あ、あるのかな……」


 真冬に冷水を浴びせられているそらは全身に鳥肌が立ち、震えが止まらない。本来なら幸せなはずのひと時のはずなのだが拷問でしかないのだ。


 「い、い痛み……」


 それは、浴びせている嫁たちも同じ。琴乃ことのに至っては言葉もまともに発せられない有様だ。


 「いいい、痛みっていうか……、さ、寒……寒くて……、寒さ以……外感じない……かな……」


 「だ、だ、だ、大丈夫なの、ア、アンタ……。ふふ、震えがととと、止まらないじゃない」


 「そういう、あ、Azusaだって……」


 「そ、そろそろ上がりましょうか……。綺麗になな、なったみたいですし」


 「そうだな。温め合いながら子作りだ」


 何故か平気そうな来夢らむ。だが、肝心なところが……


 「ち、縮んで……」


 琴乃ことのは縮みあがった姿に驚いているのだが、そら本人もここまで縮んだのを見るのは初めてだった。


 「みみ、皆んなはあた、温かいお風呂に。僕は先に――」


 「だったら……あたいも……。あたいの……為に……こんなに……なるまで頑……張ってくれ……たんだもんな」


 「そ……うね……。私も……」


 こうして、只打ちのめされただけなのにヒロインを救出したような扱いとなっているそらと、ヒロインの座を持って行かれてしまった絵梨菜えりな、そして持っていったゆいが先にそらの部屋へと向かう。

 遠慮したのか、単に寒さの限界だったのか、他の三人はしっかりと温まってから部屋へと向かうのだった。

 この日、神月こうずき家は両親が不在。妹の真琴まことも友人と出掛けていて留守だった。となれば当然……



    ◆◆◆◆◆ ❤♀♂♀♀❤ ◆◆◆◆◆



 そして、温まった三人も合流し……



    ◆◆◆◆◆ ❤♀♀♀♂♀♀ ♀❤ ◆◆◆◆◆



 昼前だというのに嫁六人と贅沢な時間を過ごしたそら。体もすっかり温まり、一時的に絵梨菜えりなを取り戻し、ゆいをも手中に収めた事で心も満たされていた。


 「行こうか、絵梨菜えりな


 「ああ、勿論だ。あんな奴らと縁を切る。ずっとそらと一緒だ」


 「うん。その為にも挨拶はしておかないとね」


 「挨拶って……、無駄だって。あいつらが認めるわけない。この一週間ずっと……」


 この一週間、絵梨菜えりなそらを諦めるよう説得を受けていた。味方だと言っていた母もそらとの関係を後押ししてくれるわけでもなく、絵梨菜えりなの幸せの為にとそらを別れることを望んだのだ。


 「それでも挨拶だけはしておきたい。認めてもらえなくても絵梨菜えりなは手放さないけどね。だから、挨拶というより宣言かな。絵梨菜えりなを貰っていきますってね」


 ここに絵梨菜えりなが居るのは一時的なものであり、剣道場からそのまま着いてきてしまっただけなのだ。絵梨菜えりなの父から言われた言葉、 “私と話がしたいなら、みつるを納得させてやってくれ。君の絵梨菜えりなへの思いを示してほしい” 、少なくとも、絵梨菜えりなへの思いは示したつもりだ。

 みつるが納得したかどうかはわからない。それを確認し、絵梨菜えりなの父と話す必要があるのだ。


 「わかった。だったらあたいも宣言する。一緒に宣言しようぜ、そら


 「ああ。皆んなも一緒に来てもらっていいかな。琴乃ことののご両親の時みたいに皆んなを紹介しておきたい」


 「勿論だ」


 琴乃ことのを筆頭に、他の嫁たちも頷く。


 「この前より増えてるからびっくりするだろうな、糞親父」


 「琴乃ことののご両親にも二人を紹介しないとね。それからゆいさんのご両親にも挨拶に行かないとです」


 「私はいいわよ。もう大人なんだから親にとやかく言われる筋合いもないし。そうだ、住所教えといて。流石にいきなりそらの所に転がり込むわけにもいかないから色々と整理が着いてから行くわね」


 「ゆいさん……」


 「そんな顔しなくてもちゃんと行くわよ。仕事ってそう簡単に辞められないのよ。次の仕事も探さないといけないし」


 「だったら迎えに来ます。その時に挨拶もさせてもらいますから」


 こうして絵梨菜えりなの実家へと向かうのだった。

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