04.09.JKお散歩

 「そらも気になってるみたい。一時間だけ貸してやる。自分の気持ちを確かめろ」


 Azusaにそう言い放った琴乃ことのだったが、納得のいかない者が一人。


 「はあ? あたいの番はどうなるっ」


 「そっちは一時間後に再開。Azusaの連れは琴乃ことのたちが――」


 「私もまだ20分経っていませんけど」


 もう一人いた。


 「じゃあ、もう一度真耶まやから再開。で、Azusaの連れは――」


 「それだと真耶まやだけ長くなるだろう」


 「でもこうして途中で中断されているのですから、最初からやり直しして欲しいです」


 「だったら再開してあげない。最初に戻って琴乃ことのから」


 「なんでだよっ」


 「そうですよ」


 「兎に角、Azusaの連れは琴乃ことのたちが相手をしておく。せいぜい楽しめ」


 「しかたねえなぁ。一時間だけだからな。さっさとヤってこい」


 「ヤらないし。そんな場所ないし」


 「それもそうだな」


 「Azusa、行く前に一つだけ」


 「なによ」


 「(ごにょごにょごにょ)」


 「ええっ、そんな事……」


 「出来なかったら嫁失格」


 「わかったわよ、やればいいんでしょ、やれば」


 「何するつもりだ?」


 「アンタは黙ってされてればいいの。美鈴みずず玲美れみ、私ちょっと行ってくるからこの人たちといて」


 「や、止めときなよAzusa。嫁って意味わかんないんだけど……」


 「そうだよあずっち。こんな男――」


 「邪魔者はこっち」


 「ちょっと、引っ張んないでよ」


 Azusaの友人二人は琴乃ことのに手を引かれて遠ざかっていく。


 「行くわよっ」


 琴乃ことのに何やら耳打ちされたAzusaは気合の入った表情でそらの手を引っ張っていく。


 「にしても、よくそんな格好してきたわね。自慢したいのはわからなくもないけど」


 「一度言い出したら引かないからね、琴乃ことのは。面倒臭い事になるのは御免だから素直に従うしかないんだよ。僕だって好きでこんなことしてるわけじゃないからね」


    とはいえ……


 Azusaと二人きりになって身に染みたのだが、三人がそらにとってどれだけ大切な存在だったことか。

 Azusaはカチューシャを着けているだけの女子高生、一方のそらは王子の仮装をしている。どう見ても不釣り合いだし、セクシーな三人に分散していた周囲の視線がそらのもっこりした部分に注がれるようになってしまっている。


    人の少ないところ、ないかな……


 「ふーん、じゃ、じゃあ私とデー……、こうして歩いてるのも……」


 「そうだよ。琴乃ことのには逆らえないからね」


 「……」


 「それより、どこか人目に付かないところないかな」


 「人目に付かないとこ……」


 「あ、いや、変な意味じゃなくて、こんな格好だからさ。どこか落ち着いて話せるとことがあればと」


 「あっ、そう。こっちにあるわよ」


    何で怒ってる?


 Azusaが案内したのは亡霊たちが彷徨う館だった。


 「ここならいいんじゃない。こんな感じで暗いし、二人きり……みたいにもなれるから」


 「あんまりくっつかないでくれるかな」


 「しょうがないでしょっ、暗いんだから。だいたいから私と逸れたら彼女達のところに辿り着けないんじゃないの?」


 「それは……、そうだけど……」


 「だったらこれぐらい我慢しなさいよね」


 怒っているのか、ただの照れ隠しなのかはわからないが、なんだかんだとそらに胸を押し付けるAzusa


 「これって落っこちたり回転したりしないよね?」


 「何? 乗ったことないの?」


 「一人で来るような所でもないし」


 「彼女いるじゃないのよ、三人も」


 「最近付き合い始めたばかりなんだよ」


 「初めてでいきなり三人だなんて、おかしいんじゃないの、アンタ」


 「それは自分でも思うよ。でもそういう君はこんな頭のおかしな男と……」


 「う、うるさいわね。しょうがないじゃないの、好きになっちゃったんだから」


 「好きって……」


    はっきりと言われると結構な破壊力だな……


 そんな話をしているうちにライドの手前まで来た二人。黒い馬車に乗り込み、少し行くと周囲の視線も気にならなくなる。

 黒い馬車の中にはそらAzusaの二人だけ。何をしてても誰にも気付かれないだろう。


 「もう逸れる心配ないから、そんなにくっつかなくても」


 「いいじゃない。誰も見てないんだから。それから、私のことはAzusaって呼んで」


 Azusaから離れようとするそらなのだが、離れた分だけAzusaが詰め寄り、座席の端まで追い詰められてしまう。


 「ねえ、誰が本命なの?」


 「……全員だよ」


 「ふーん、優柔不断なんだ」


 「……」


    否定できない……

    でも実際誰かを選ぶなんてできそうにないよ


 「じゃあ、一番進んでるのは誰なの?」


 「……全員……同じ。一緒に暮らしてる」


 「四人で?」


 「そうだけど……」


    流石に引いたかな


 「碌でもないよね。だから僕なんかじゃなくてもっと真面な人を――」


 「イヤっ。言ったでしょ、一目ぼれだって。その顔を好きになっちゃったのよ。アンタの寝顔見てたら、胸がドキドキして朝まで眠れなかったんだから。あとは……」


 「あ、Azusa……」


 「ちょっとだけ。もうちょっとだけこのままでいさせて」


 「でも……」


 「これが終わったらアンタの事忘れてやってもいい」


    何で上から目線……


 「だから……、彼女たちに返すまでは私の好きにさせてよ」


 「……」


    そんな事言われても……

    確かに可愛いけどさ……


 そらが何も答えないのを了承とみなし、拒まないのをいいことにそらに抱きついてしまうAzusa


 「性格とかは気にしないの? DVするかもしれないし、ギャンブルにはまって貧乏になるかもしれない。見た目が気に入ったってだけで判断――」


 そらが全てを言い終える前に唇が重ねされた。


 「初めてなんだからね……」


 「……だから性格はいいのかって……訊いてるのに」


 「今のが答え」


 「……」


 「あんなに綺麗な人達がアンタに惹かれてる。別にお金持ちってわけでも無さそうなのにさ。同棲してるって事は、アンタの性格ある程度知った上で付き合ってるんでしょ? だったらそれで十分じゃない」


 「それは……あの三人が変わり者なだけかもしれないだろう」


    それにお金もそれなりに入ってくる予定だけどね……


 「私も変わり者よ? 彼女が三人も居る人を好きになっちゃうぐらいには。それに、三人共いがみ合ってるわけでもないのよね。ありかもね、そういう関係も……。おっ、やったあ」


 「何? えっ?」


 「これよ、これ。琴乃ことのさんと賭けをしたの。こうなったら私の勝ち。アンタの嫁にしてくれるって」


 「賭けって……、僕の意志は?」


 「琴乃ことのさんには逆らえないんでしょ? それに、ちゃんと意思表示してるじゃない。これって私に興味があるってことなのよね?」


    確かに逆らえない

    そうだとも、興味もあるし反応しちゃってるけど……

    増やしてどうするつもりなんだよ、琴乃ことの……


 「折角嫁になったんだし……、こ、このままここでしてもいいわよね」


 「流石にそれは……、正面見たほうがいいかな」


 そらのことばかり見ていたAzusaだったのだが、このアトラクションも間もなく終わりを迎える。正面の鏡に映し出されていたのはそらに抱きつくAzusaの姿と、その隣に申し訳なさそうに座っているゴーストの姿だった。

 隣の馬車が見えているということは、二人のそんな姿も他の馬車から丸見えだったに違いない。慌てて姿勢を正すが、もう遅いのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る