2126年 状態:生存

паранойя

第1話 2126年 1月16日 10:24 状態:生存

 生き残るためのマニュアル


 食料は慎重に計画して食べて下さい。カロリー不足でも過多でもいけません。

 また、外の食料は安全が確認されるまで口にしてはいけません。


 ◇


 埋め込み型の液晶画面に映る録画のバラエティ番組を見ながら、温かいコンソメスープを一口啜る。所詮缶入りの質素な味だが、温かい食事が出来るというものはそれだけで幸せなのだ。少し前までは当たり前だった事実の何と幸福なことか。

 今日の朝食は缶詰パンに缶詰コンソメスープ、レトルトのスクランブルエッグだ。食料には限りがあるが、今日はスタミナを付けておかなければならない。


 今日は俺がコールドスリープから目覚めて三日目であり、核戦争以来初めて外へ出る日だ。


 二〇二六年、世界は破滅した。最初に核のスイッチを押したのが何処の馬鹿かは知らないが、一発の核ミサイルが白煙を引き天高く舞い上がった瞬間、世界は取り返しのつかない事態に陥った。報復が報復を呼び、最後に破滅がやって来た。


 当時俺は陸上自衛隊に所属していて、ある日運よく人類保存プロジェクトの参加権に当選した。プロジェクトの内容は名前から大体の想像が出来ると思うが、要は核戦争が起きる前に選抜した兵士の中から抽選に当選した者をコールドスリープし、地表が生存可能状態になったら覚醒させて人類を復興させようという試みだ。


 問題はいつになったら地表が生存可能状態になるか不明なことと、コールドスリープ技術が未発達で、そのまま永遠の眠りにつく可能性が高かったことだ。前者は高性能コンピューターが地表を絶えずに観測する事で解決したが、後者はどうにもならなかった。


 ここは第二シェルター。とあるマンホールに偽装された入り口の下に秘匿された施設だ。地表は三日前に生存可能状態になり、結果として俺だけがコールドスリープから目覚めた。


 俺に与えられた任務はただ一つ。生き残り、他の人類を見つける事だ。


 武器庫に向かった俺は、『生き残るためのマニュアル』を片手に準備を始めた。


 『生き残るためのマニュアル』とは、戦前のインテリ達が俺に行動を指図する為に作った本で、あらゆる状況に対する対処法が書き込まれていた。


 俺はそれに従い、市街地迷彩のACUを着て、プロテクターを着込む。右足のレッグホルスターにベレッタPx4を突っ込み、マガジンポーチやナイフが装着されたタクティカルベストを装備して、生存装備が詰まったバックパックを背負う。フルフェイス型ガスマスクを被り、武器庫からAK12を取り出してスリングで肩掛けして、最後に一番大事な健康管理デバイスを左腕に巻き付けた。


 これは俺の体内に埋め込まれたインプラントとリンクしており、また周囲の放射線強度なども測定してくれる優れものだ。


 いよいよだ。


 俺は呼吸を整え、エアロックへと向かった。

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