名探偵の推理話すタイミングでみんな死んだらどうなるの?

ちびまるフォイ

生まれ変わっても悪人

「今日皆さんに集まってもらったのは他でもありません。

 この絶海の孤島で起きた恐るべき殺人事件の全貌を

 今ここでお話しようと思っています」


「本当なの名探偵ちゃん!?」


「今回も難事件だったが高校生探偵の俺の目は欺けなかった。

 みんな聞いてくれ。これが今回の事件のトリックだ!」


「待って名探偵ちゃん! 先に犯人を教えてくれない?」


「え? あ、はい」


名探偵は洋館の執事である男を最後に指差した。


「○○さん! あんたが犯人だ!」


「ぐっ……!」


「もう逃げることはできない。オペラ座の変人はあなただ、〇〇さん。自首してくれ」


「自首? 自首だって? そんなことすれば人生お先真っ暗だ。

 だったらいっそ死んでやる!」


「やめろ! バカなことをするんじゃない! 生きて罪をつぐなうんだ!」


「そして、お前らも一緒に道連れだ!!」


「ええ!? ちょっとまって!?」


犯人はスイッチを押すと仕掛けていた爆弾が大爆発。

古かった洋館はつぶれて、食堂に集められていた全員はぺしゃんこになった。


名探偵が次に目を覚ましたときには、ベビーベッドの中だった。


(俺は死んだはずじゃ……!?)


赤ちゃんになった名探偵は持ち前の頭のキレと尺の都合で、自分の置かれている状況を即座に理解した。

あのとき死んだ後に記憶を引き継いで生まれ変わったということに。


(生まれ変わりなんてことが本当に起きるなんて……!!)


感動と驚きを隠せなかった名探偵だったが、新しい体になってもまだ事件のことを考えていた。


(くそ……あのとき推理話せなかったなぁ……)


哺乳瓶を吸いながらも悔しさをにじませる。

さまざまな人の死を見てもなお名探偵を続けているのは、衆人環視のもとで自分の推理を話して犯人を追い詰める。

あの最後の瞬間を味わうためにやっているようなところがあった。


(俺が生まれ変わったのなら同じ環境にいた犯人たちも

 同じように生まれ変わっているにちがいない。

 かならず見つけ出して、俺の手で警察にぶちこんでやる!)


名探偵はふたたび犯人探しへとうって出た。

もう一度、犯人を名指しして推理を話す体で追い詰める快感を得るために……。


その後、なんやかんやあってかつての相棒であり幼馴染でもあった人を見つけた。


「まさか……名探偵ちゃんなの?」


「やっぱりか。お前も生まれ変わっていたんだな。

 犬猫に生まれ変わっていなくてよかった」


「そうみたい。私の学校の同級生には、あの事件にいたアイドルも生まれ変わっていたわ」


「本当か!? やはりみんな生まれ変わっていたのか。

 生まれ変わっても必ず見つけてやるぞ、オペラ座の変人!!」


名探偵はそれから必死の捜査を続けた。


生まれ変わったことで前の人間とは似ても似つかない身なりをしているため、

頭脳明晰な名探偵をもってしても探すのには非常に苦労した。


けれど、その類まれなる観察眼から逃れることはできなかった。


「待ってくれ、あんたはかつてオペラ座の変人だった執事だな!!」


「ははは。なにを言っているのかわかりませんな」


「小学2年生が手帳を持ち歩くなんておかしい!

 そして立ち振る舞いもあきらかに執事の職業病が出ている!

 生まれ変わっても染み付いた体のクセは抜けないようだな!」


「し、しまった!」


「さあ、今度はもう逃さないぞ!!」


オペラ座の変人は逃げようとするどころか、むしろ堂々としていた。


「逃げる? 何を言っているんだ。たしかに私は元オペラ座の変人かもしれない。

 しかし今はどうだ。生まれ変わってからはなんの罪もやってないじゃないか」


「なんだと……!?」


「私は無実なんだよ、名探偵くん。

 君がいくらトリックを明らかにして、私を犯人だと証明して見せても

 生まれ変わった私とは縁もゆかりもないんだ」


「ふふ、はははは!」


「なにがおかしい名探偵!!」


「お前はこの世界のことを何も知らないようだから教えてやる。

 この世界には精神犯罪者としてしょっぴける方法があるんだよ!!」


「精神犯罪者だって……!?」


「その人の心の持つ犯罪性を証明することができれば、

 実際に罪をおかしてなくとも逮捕することができるルールさ!!」


「そんなのめちゃくちゃだ!」


「そしてすでに心警察にも通報している。じきここに心警察がやってくるだろう。逃げ場はないぞ」


遠くからパトカーのサイレンが近づいてくるのが二人の耳にも聞こえた。


「ふ、ふざけるな! まだ何も悪いことをしてないし、

 私の精神だって前世のように汚れてない! 逮捕されるいわれはない!」


「いいや、悪い奴はどうあがいても悪い奴だ。

 警察にお前のかつての罪を洗いざらい話せば精神犯罪予備軍として逮捕されるだろう」


「……かつての殺人事件を立証することはできても、

 私がかつてのオペラ座の変人であったとどう証明するつもりかな」


「俺を誰だと思っている。かつてどんな難事件も解決した名探偵……の生まれ変わりだ!

 あらゆる犯罪者心理や行動パターン、隠蔽工作の手法も理解している。

 それらの情報をもってすればお雨がかつての犯人であることを証明できるさ!!」


名探偵はこれまでいくつもの殺人事件に関わってきた。

犯人たちのさまざまなトリックを目の当たりにしてきたことで、犯罪心理も熟知している。

かつての犯人と、生まれ変わった人間との心の一致を証明できる。


「観念して前世でできなかった自首するんだ。

 そして俺に達成感を味わせるんだ!」


犯人に逃げ場はなかった。

まもなく通報でかけつけた心警察がやってくる。


「心警察です! 精神犯罪者がここにいると聞きました。犯罪者はどこですか?」


犯人は、名探偵を指差すと心警察へ訴えた。




「あいつが精神犯罪者です! あらゆる犯罪知識があり、行動パターンを熟知し、隠蔽工作の方法すら知ってるんです! 危険な犯罪者予備軍です!! 早く逮捕してください!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

名探偵の推理話すタイミングでみんな死んだらどうなるの? ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ