第126話 姫野の手下の残党
『皆、聞こえるか?』
エレベーターが昇っている途中無線からクレアの声が流れた。
「お前、どうやって通信を?」
『周波数を全て合わせて、私の回線で繋げた。今裏で調べている』
「何を?」
『上層階にいる人間だ。ざっと調べてみると、最上階に数人、その何階か下に複数反応があった。それから下は誰もいない。出払っているようだ』
「複数は恐らく私兵部隊だ。待ち構えてるな」
「エレベーターは恐らく途中で止まる。この建物の最高権限を持っているのは金野だから、エレベーターの操作もできる筈だ」
このスピードならあと少しで着くが、どこで止まるんだ?
しばらく上昇していると、急にエレベーターが止まった。
「止まったな。今どこだ?」
「47階だ」
『そこはオフィスエリアだ。社員が仕事するブースが数多くある。ちょうどそこに私兵が集まっている』
「真正面から私兵とやり合いますか?流石に時間がかかります」
「なら、二手に分かれよう。1つは私兵とこのまま戦う。もう1つは、」
俺は天井見上げて案を伝える。
「1つか2つ上の階に上がって、最上階へ向かう。クレア、最上階の扉の強度は?」
『そこは硬いシャッターで閉められてる。余程の爆発を起こせる物なら壊せるが、この建物が耐えられない』
「他はシャッターが閉められてないな?なら、俺ともう一人で別行動だ」
1つは私兵部隊と真面目に戦い、もう1つはその間に最上階まで移動する。
恐らくそこで紅蓮姉妹がそのどちらかが立ち塞がる。
敵の数は多い。金野はカードを切って俺達に差し向けるだろう。
で、誰を連れて行こうか……。誰でもいいんだが、父さんは私兵部隊と戦わせた方が良い。
となると……数的にエマは下だ。優子か響子か……うーん。
「私が行くわ」
俺が悩んでいると、響子が自ら志願した。
「行けるか?」
「ええ、いつからあなたと一緒だと思ってるの?」
確かにな。響子の戦い方は誰よりも知っている。
なら、響子を連れて行こう。
「エマ、まずは天井をぶち抜いてくれ」
エマはバレットライフルを出すと、天井に向けて連射した。
3発で人一人が通れる穴が開いた。思ったより銃声がでかくて耳が痛い。
ホッ、エレベーターを吊っているワイヤーは無事か。
俺はジャンプで穴を抜け、上から響子の手を掴んで上がらせた。
「さて、響子。クライミングは得意か?」
「久しぶりだけど、落ちない自信はある」
上を見上げ、2つ上の階の扉を見上げる。
登れる場所は多い。簡単に上がれるな。
「父さん。2人を任せた」
「あいよ。行ってこい」
俺は響子と壁をよじ登り、2階上まで上がった。
下ではエマが腕力で扉をこじ開けた。そしてエレベーターから皆がスムーズに出た。
うわ、やっぱりエマは怪力だ。久しぶりに見たわ。
ブラジルで初めて見たが、やっぱり仲間だと心強いな。
「侵入者は?」
『エレベーターを停止させ、俺達がいる階に何人か入らせましたが、2人はそっちに向かいました』
「了解。そっちの足止めをお願い。私は2人の方を殺る」
『分かりました。ご武運を』
優依は私兵部隊に指示を出した後、XM8アサルトライフルの装填レバーを引いた。
優依が立ち向かうつもりだったが、それを殺し屋達に止められた。
「あなた達は切り札でしょ?私達が止めるよ。二人共、行きましょ」
最年長の女性が2人の少女を連れて下の階に向かった。
2人は金野を見張り、他に侵入者がいないかチェックした。
エレベーターの扉をC4で爆破し、俺と響子は中に入る。
その階は彫刻やガラス細工などの作品が並ぶ美術館のような内装だった。
2人で銃を構えながら進む。ここは待ち伏せポイントが多い。
響子は機動力を重視していて、愛用のP30LとG26しか持ち込んでいない。
戦法としては響子が前衛で戦い、それを俺が援護する形だ。
上へと上がる階段を探しながら移動していると、背後から殺気を感じた。
「伏せろ!」
俺達が姿勢を低くすると後ろから銃弾が飛んできた。
響子がP30L拳銃を連射して、狙撃した人間を下がらせた。
撃退したと思ったら作品の影から2人の少女が現れ、短刀で襲ってきた。
俺はライフルで抵抗し、蹴りで1人を飛ばした。
もう1人は響子の銃撃で後退し、俺達はその後を追う。
中央のホールに出ると、3人の少女と女性が待ち受けていた。
何だ?武装したJSにJC、そしてJDか。
小学生女児は両手にMP5K、腰に拳銃、片手斧。
中学生はAKS-74Uアサルトライフル、コンバットナイフ、両腰のホルスターに357マグナムのリボルバー。
女性はFALセミオートライフル、トンファー2つ、スコーピオンVz61。
3人は明らかに殺気がむき出しで、特に響子に殺気が向いていた。
「ずいぶんなご挨拶だな。そんな風に育てた親を見てみたいな」
「私達に親はいない。殺し屋として生きる事を決めた屍よ!」
響子と似た境遇の殺し屋か。金野はそんなのを雇っていたのか。
しかし響子に殺気むき出しな辺り、俺達を前から知っているようだ。
俺が考えているのを察したのか、女性が教えてくれた。
「私達には師匠がいた。その師匠がいたから私達は生きていた。だけど、その人をお前が殺した!」
女性が叫んで指差したのは響子。
「姫野さんは私達の希望だった!殺しでしか役に立たない私達を救ってくれた!その人を殺したお前を、許さない!」
俺と響子は驚いた。コイツらは姫野の手下の残党だったのだ。
響子が姫野を殺してから組織は解散したと聞いたが、まだ復讐を考えていたとは。
まさかここで姫野の名前を聞くとはな。
響子も同じ心境だったが、すぐに冷静になった。
「あなた達、姫野の手下だったのね。雇われたのも金野が私が仇だと知ってたから?」
「そうよ!ここで師匠の無念を晴らしてやる!」
3人の殺し屋は銃を構える。
「そう。元殺し屋として、相手になるわ。殺し屋が相手に殺意を抱くのは殺し屋失格、だけど私が仇なら無理もない」
響子が拳銃と左手の拳を構える。
「あなた達に教えてやるわ。私が昔、人々が恐れた殺し屋だとね。授業料は、あなた達の体よ」
「やる気だな、響子。サポートする」
『私もだ。2人を死なせない』
俺とクレアは準備万端だ。いつでもいいぜ、響子!
俺はライフルのセレクターをフルオートにした。
そして、俺と響子は後ろに向かって全速力で走る。
少女達は意表を突かれて数秒呆然としたが、すぐに銃を撃ってきた。
その頃には絵画の壁で銃撃を避けていた。
「響子、左から撃て!援護する」
俺はライフルを発砲し、響子は左に移動しながら拳銃を連射する。
少女達は体を柔軟に動かして弾を避け、響子の方に向かった。
響子は壁に隠れると、拳銃をしまって両手を構える。
俺は撃つのを止め、もう1人の女を探す。
2人の少女が左右から響子を挟むが、小学生の少女は腹に蹴りを入れられ、中学生の方はAKを掴まれた。
お互いに体を壁にぶつけ、拮抗した肉弾戦を繰り広げる。
小学生の少女が立ち上がってMP5Kを撃とうとしたが、俺が狙撃して銃本体に弾を撃ち込んだ。
「うおっ!」
どこからか弾が飛んできて、素早く顔を引っ込める。
3時方向、数十メートル先にFALを構えた女性を見つけた。
俺は姿勢を低くしながら女性の狙撃の中を移動し、徐々に距離を詰める。
少しだけだが、響子と中学生の少女が銃を使わず、手や足を使って格闘していた。
響子が足払いで中学生の少女を倒し、そのまま押さえ込もうとするも反撃の蹴りを食らった。
援護したいが、敵の狙撃手を先に抑えないと。
背後から拳銃の射撃音。小学生の方が追ってきたな。
俺は近くの小さな壺を掴むと、後ろに投げた。
左に移動し、弾が当たらないように動き回る。
女性の左に回り込むと、そこからライフルを撃った。
しかし、女性はバック転で銃撃を避ける。そしてその後にセミオート射撃。
絵画の壁に隠れ、反撃するも隠れられてしまった。
「クソ。逃げ回られると厄介だな」
マガジンを交換し、女性が逃げた先へと向かう。
っ!?上から!
上から殺気を感じ、反射的にライフルを横に構えた。
ライフルに片手斧の刃が食い込む。小学生少女が奇襲してきた。
俺は少女を振り払い、ライフルをスリングで提げる。
少女は左手に拳銃を持ち、もう片手に斧を手にしている。
少女がネズミのような俊敏さであちこち動き回る。
俺はM19拳銃を数発撃って当てられないと判断してしまい、作品の刀を拝借する。
少女は作品を飾っている壁を伝って上から攻めてきた。
斧を刀で弾き、その後の少女の攻撃を刀で防ぐ。
そして壁まで後退し、少女が斧を振り下ろして壁に突き刺させる。
「終わりだ」
俺は刀で少女を切り刻んだ。ただ、切ったのはベルトと手足だけ。ベルトは数回切っただけで落ちた。
薄く切ったから出血は少ないが、それでも神経を傷つけたから動けないだろう。
小学生の方を制圧したと思ったら、背後から狙撃された。
しかし、シールド装置を作動させて弾を防いだ。
俺は次の相手の女性に向かって突っ走る。
女性はFALを連射するが、全てシールドで防がれる。
俺は女性のライフルを掴み、瞬時にマガジンと薬室の弾を抜いた。
「!?」
「悪いが、狙撃は止めてもらう」
俺はマガジンと弾を捨てる。女性はすぐにスコーピオンを持った。
俺も拳銃を持ち、相手に拳銃を刺すように突き出す。
すると女性はその腕を弾いて、俺の額にスコーピオンを向けた。
俺は伏せて銃撃を避け、そのまま足を振り上げて女性の射撃を外させる。
女性がお返しにとローキックを俺に食らわせる。
その蹴りが強くて少し下がると、女性が俺を押し倒した。
腰のトンファーを抜いて、トンファーを振るう。
俺は腕でトンファーの攻撃を防ぐと、腹を蹴って女性を下がらせる。
「その構え……フィリピンの武術か」
確か軍隊でも使われる棒などを用いる武術だ。
トンファー2丁は俺でもキツい。使い手の女性なら尚更だ。
「お前、あの女も仲間が殺す。諦めろ」
「嫌だ。だから諦めない」
俺が挑発すると、女性が挑発に乗って間合いを詰め、トンファーを振り下ろす。
シールド装置は弾以外は防げない。ナイフでトンファーを数回弾く。
そして片方のトンファーを弾くと、チョップで女性の腕からトンファーを離させる。
もう1つのトンファーで俺の頬を打つが、もう慣れた。
俺はナイフで彼女の関節を切り裂き、彼女を戦闘不能にさせた。
FALと拳銃とトンファーを奪い、遠くに捨てた。
「そこで寝てな」
俺は拳銃を片手に響子の方に向かった。
中央のホールで倒したり倒されたりの近接戦闘を繰り広げていた。
相手の少女のライフルは落としたのか持っていない。
響子が少女の脇に手刀を入れると、腕を持って少女を床に倒した。
そして、G26で彼女の両手両膝を撃ち抜く。
「ぐはっ!!」
俺が少女の武装を解除させる。
「結構殴られたか?」
響子の顔にある青い痣や血からそう聞いてみる。
「まあね。やっぱり腕が落ちたわ」
響子はG26をしまうと、P30Lに切り替えて少女の頭部に向ける。
「ちょ、ちょっと待って……!」
「殺す気で来たでしょ。なら、殺しで私も応えないと」
弱い声で響子にストップをかける少女を無視して、響子は拳銃で少女の頭部を撃ち、彼女を殺した。
「恨むなら、私を恨んで」
そう言うと、今度は絵画の壁の間から現れた女性を拳銃の速射で撃ち殺した。
最後に残った少女も俺達の前に現れたが、響子を恐れて慌てて逃げ出した。
「ぬるいわよ。せめて動けないようにしてよ」
「まだ子供だ。流石に無理だ」
「……優しいわね。さ、行こ」
殺し屋達を制圧した俺達は階段へと向かった。
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