第124話 新たな存在
金野は自室に里美と優依を招き入れる。
2人にジュースを与え、2人は挨拶して飲む。
「話は聞いているな?中部の連中向けのパーティーを開く事になった。それに俺も参加する」
「分かっています。既に計画を立ててますのでご安心を」
「安心だと?お前らの手下を殺した奴らがただ者だと?警察が優依の手下の遺体を見つけた。丁寧に並べられてた」
「申し訳ございません。私の作戦ミスです」
2人は頭を下げ、今回の失態を謝罪する。
金野は酒を飲み、2人に顔を上げるよう命じる。
「今は揉み消せるが、今後それが続けられるか分からない。あの"先生"に尽くしている限りは大丈夫だが、見放されたらそうはいかん。お前ら、これ以上失敗は許されないぞ」
『はい』
「今回の警備、俺が外部の人間を加える。殺し屋だ」
「殺し屋……ですか」
「"先生"が寄越してくれた凄腕の殺し屋だ。ターゲットの恨みがあるらしい。だから快く引き受けてくれた」
扉から黒服が現れ、金野に頭を下げてから3人組を中に入れた。
1人は10歳前後の黒髪少女、もう一人はブレザーを着た15歳の茶髪の少女、そして最後に入ってきたのは青いパーカーを着た20代の女性。
金野は彼女達がその殺し屋だと紹介した。
「初めまして。私はイーグルス。こっちはパンサー、そしてラビットよ」
女性がイーグルスと名乗り、茶髪の少女がパンサー、黒髪の10歳の少女がラビットだと紹介する。
紅蓮姉妹は3人と握手し、自分達の名前を教えた。
「コイツらはお前らの指揮下に入る。上手く使え」
「分かりました。お任せ下さい、必ずターゲットを始末します」
「待ってよ。そのターゲットの1人、響子は私達が殺る。邪魔しないで」
ラビットが里美に向かって強く言った。
ラビットの目には、復讐の炎が燃えている。
「……分かったわ。ただ、それまで指示に従って」
「了解」
里美は殺し屋達の条件を飲み、警備中にターゲットの響子が来たら事を大きくしない事を条件にした。
殺し屋達が3人に挨拶すると、準備と言って部屋から去った。
「大丈夫なんですか?外部の人間を雇って……」
「問題ない。"先生"の紹介で、しかも凄腕だ。ターゲットの始末も先生の指示だ。従うしかない」
金野は窓から御殿場の夜空を見る。
そして、過去の自分を思い浮かべた。
金野は学生時代、同期生からいじめを受けていた。
ただ気に入らないという理由でいじめられ、更に家の家計が苦しくなった事によりいじめが加速した。
金がない事で同期生や先生、周りから疎外される。
ある時母親が病気に罹ったが、金がなくて手術を受けられずに死亡した。
金野は色んな物を失って気づいた。この世は金がないと生きられないと。
だから必死になって勉強し、奨学金を貰って有名大学に入り、金についての学部を専攻した。
その時、偶然"先生"に出会い、自分を銀行という職場へと導いてくれた。
異例の早さで出世し、頭取になり、更には御殿場を支配した。
かつて自分を見下していた連中を破滅させ、裏社会を飼い慣らして債務者の住民から金を巻き上げた。
全ては人々に金という存在を知らしめる為だ。
金さえあれば大抵の物は買える。家だって車だって、人間ですら買える。
紅蓮姉妹を有能な僕として育てる為に買い、姉を半グレ組織のリーダーに、妹を自分の私兵の隊長にした。
金でできない事なんてほぼない。金野は金の無限のエネルギーに惹かれていた。
「俺は今まで吸われる側だった。今度は吸ってやるよ」
「今何て言いました?」
「何でもない」
金野の小声が里美に聞かれたが、声が小さくて内容が分からないと気付き、はぐらかした。
その頃、御殿場の滝ケ原駐屯地の極秘の部屋には、自衛隊の高官が死神部隊のメンバーと話していた。
死神部隊はメキシコで得た情報を頼りに、世界中でテロを起こしている黒幕を追っていた。勿論アドルフの指示で。
今回、アドルフの根回しで滝ケ原駐屯地を拠点として使えるように便宜を図ってくれた。
死神、レッドスナイパー、ラビリンス、ミィ、キラリは担当の自衛官から黒幕と繋がっている頭取についての情報を聞いた。
死神部隊は日本政府が特殊作戦群の代わりとして呼び出された。
もう頭取に特殊部隊の存在を知られ、作戦部隊を送り込めなくなったからだ。
「以上が情報だ。成功すれば期待通りの報酬を約束しよう」
「上から目線で物を言うな。弱者国家の犬が」
ラビリンスの挑発に自衛官が乗りそうになる。
それを死神が止めた。
『ラビリンス、口を慎め。我々は任務を遂行するだけだ。今回は少数ではなく、多くの人員を動かせる。政府や自衛隊が極秘に許可してくれた。必ずやり遂げるぞ』
「分かった」
「てかさー。その頭取って半グレと私兵構えてるんでしょ?何でそこまで放置したのかなー?もう日本じゃないじゃん」
「それはだな新入り、ヤツは色んな連中に金を贈ったからだ。金に興味がないヤツは少ない。受け取ったら頭取の支配下に置かれるのさ。それがバレてみろ、人生がオジャンになる」
「そっかー。上に立つ人って考えているだねー。あ、別にあなたの事を言っている訳じゃないよ」
キラリが一瞬自衛官を見た事で、自衛官の怒りが頂点に達しそうになる。
『気を緩めるな。どんな依頼であれ、任務に集中しろ。いいな?』
「了解」
「分かった」
「はいよ」
「はーい!」
曲者揃いの精鋭を束ねるのが黒い戦闘装備と赤いレンズのガスマスクで身を包んだ生粋の戦闘員だ。
3人は死神に従うケルベロス、任務になれば変わる。
自衛官はこの死神こそ一番の脅威だと感じているが、何故かそれを上に報告する気が起きなかった。
自分の影に脅されている気がして……。
翌日、温泉で体を癒した俺の元に電話がかかってきた。
相手は非通知……とりあえず電話に出た。
そして電話相手から一方的に話を聞いた。所々疑う箇所があったが、何も口出ししなかった。
俺からは何とも言えないが、この電話の返事は決まっている。
「分かった。最初は任せる。ぜひ金野をプレミアム・アウトレットから出してくれ」
彼らとはビジネス関係だ。利害が一致するなら一部協力する。
奴らの目的は恐らく世界でテロを起こしている黒幕だ。だけど、俺らの目的はその黒幕に繋がっている金野だけ。
金野にケジメを付けたら返す事を条件に後の事を任せてくれた。
話の分かる奴らだな……。
俺は電話を切り、後で皆に作戦変更を伝える事に決めた。
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