物書きあるある
鳥柄ささみ
物書きあるある
「あーもー、書けないーー」
一人呟いた言葉は深夜の静寂に掻き消される。
書けない。
書けない書けない書けない書けない。
なんとなく構想はあるというのに、途中で言葉の意味や繋がり、今後の登場人物の関係性など頭の中でグチャグチャと考えすぎて、どうにも書く気が起きずに、私はぐでーっと机に突っ伏した。
〆切は近い。
だから少しでも完結に近づけるように書かねばならないのに、いくら捻り出そうにも書けないものは書けない。
いや、正確に言えば書くには書ける。
だが、それではただの文字の羅列だ。
適当に地の文を増やしたり台詞を増やしたりしてもただ助長した文章になるだけで、クオリティは圧倒的に下がってしまう。
そんなことは誰も望んでないし、意味もない。
そこは作家としてのプライドとして、やってはいけないことだと理解していた。
だからこそ、こんなにも苦しんでいるのだが。
「あー、でもどうすればいいのよー……。誰か私の代わりに書いてくれないかしら……。どうして私の作品は私しか書けないのよー」
そんな無茶苦茶なことを言いながら、頭痛もしてきた頭を机にゴンゴンとぶつける。
「あー、つら。もう寝ちゃおうかなぁ」
いっそ諦めて不貞寝して翌日の自分にでも託そうかと思いながら、充電中のスマホに手を伸ばす。
「こういうときはインプット、インプット〜」
そう言いながら、何か創作意欲湧くものがないかなーと眺める。
SNSや動画配信サイト、創作系のサイトを順番にネットサーフィンしていくとあらゆる創作物が飛び込んでくる。
推しの作家さんや神絵師さんの作品を眺めて多少気分は高揚したが、今は〆切前の焦りのせいかどれもこれも琴線に触れるものはなく、新たな構想も湧かず、渋々スマホの電源を落として再び机に突っ伏した。
「確か、明日は打ち合わせ。明後日は雑誌のコラム取材に、明々後日はまた打ち合わせ。その次が〆切……。あー、もー無理ー! 無理だよー!!」
机に突っ伏したままジタバタして騒いだところで何か変わるはずもなく、ネタが降りてくるわけでもいい言い回しが出てくるわけでもなく、頭の中はぽっかりからっぽだった。
「どうすればいいんだー……」
苦しげに呟くも、時間は一刻一刻と過ぎてゆく。
そのときだった。
「はっ! きた!!」
突然の閃き。
これはイケる! と脳内で開花したインスピレーション。
そこからはもう、筆が走る走る。
誰にも止められないくらい、文字が次々と生み出されていく。
これならもう、いくらでも書けるのではないか!? というか、この内容神がかりすぎてないか!?? と我ながら自信過剰になりながらも執筆の手は止まらず、筆は走り続けた。
「ふぅ、書けたぁ……。さすが、私。やればできるじゃん」
ひとしきり書き上げ息をつくと、「これでもう大丈夫、明日また推敲しよう」とそのまま私は就寝した。
◇
「なんじゃこれ」
昨夜書いたものを推敲しようと文章を読み込めば、そこには重複表現や人称の間違い、誤字脱字やその他諸々見るに耐えない表現のオンパレード。
端的に言うと読めたもんじゃなかった。
恐らく睡魔もあったのだろうが、思考がきちんと働いてなかったのだろう。
ところどころ、ghkrtなど日本語にすらなってないところを見ると、半分寝ながら書いていたと言っても過言ではない。
「はぁ、人生そう上手くいくわけないよねぇ……」
結局、昨夜書いた文章はデリートキーと共に綺麗さっぱりなくなっていく。
そしてまたふりだしに戻ってしまった私は、打ち合わせの時間までうんうんと唸りながら、どうにか文章を捻り出すのであった。
物書きあるある 鳥柄ささみ @sasami8816
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます