そもそも前世の知識ありで転生したことが奇跡

 男がこの世界で自我を持ってから数年。舌足らずではあるが,ある程度喋ることもできるようになり,歩き回り始めた時期。創作の世界と違って直ぐにその世界の文字を読むことが出来なかった男は,無難に絵が描いてある本を手に取ると近くに居た人間に読むようにせがみ文字を知っていった。

 同時に,自分の名前や身分も分かった。どうやら位の高い騎士の家らしい。らしいというのは,煌びやかな衣服を身にまとった人物が何度か家に来たことや,直接ではないにしろ最近やっと覚えた言葉から言えに来た人物の会話を聞き,そこから騎士かそれに準ずる職業であると考えたから。といっても,男は未だに父親の顔を見たことはない。見たことが無いのは,生活リズムが異なっている可能性があるのだが,男はそこまで頭が回っていなかったのか,父親に現状好印象を抱いてはいなかった。長男か次男かは別にしても一度くらい顔を見せるのが親であろう。そう考えていたからである。

 話を戻し,男の名前はジェームズ。ありきたりな名前であるが,お伽噺とぎばなしの英雄の名前や,キラキラネーム(この時代からあるかは別として)より何倍もマシだ。容姿は鏡などが無く,確認する術がないがよくある突然変異の黒髪などではなく茶に近い金髪の髪が視界に見えることから東洋系の顔立ちではなく,西洋系の顔立ちであろうことが予想された。男…ジェームズにとっては慣れ親しんだ黒髪ではないことが少し残念であると同時に本当に別人になってしまったことを実感させた。


 時が経ち,両手で数えるほど冬をジェームズは城の中で越した。服を着るときは複雑な礼服は侍女に手伝わせることや,食事マナーや普段の作法などをスローペースではあるが教育された。本来,ジェームズと同じ年頃の少年や少女はもう少しスパルタになってしまう場合もあるらしいが,ジェームズは文字の読み書きや発声に大分手間を取ったが作法については問題はそこまでおこらなかった為,本来の上流階級としての教育とはかなり違う。

 この原因をジェームズの家族や家庭教師は理解できるはずもないが,ジェームズは元は日本という島国に住んでいた社会人だ。日本語を何十年も話し,書いてきた。その知識が一から新しい言語の修得を邪魔していたのだ。この問題は,彼が青年になっても付きまとうことになる。


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 ジェームズ・(汚れがついて読めない) 帝国歴203~

 (文字が掠れている)家に生まれ,両親の才能を引き継いだ人物。存命。同世代に(塗り潰されている)が居たことで遅咲きの天才と評されているが,彼と同世代でなければ間違いなく帝国を牽引した人物であると評されている。

 

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