転校生初日に金髪ツインテールの女の子に告白してみたら虫唾が走ると言われたのになぜか好かれてしまった件

黒木耀介

走る

 未来は面倒くさいけど明るい。

 そう思う度、俺は彼女に告白したときのことを思い出す。



「虫唾が走りますわ」

 木ノきのみ木ノきのこは拒絶した。


 今日転校してきた女子生徒。金髪ツインテール、大きな猫目が特徴的な彼女は、クラスの男子が他の女子を気にもとめなくなるほど輝いて見えた。



 一目ぼれだった。皆が彼女に「憧れ」「あわよくば付き合いたい」と思う中、俺は彼女と付き合う未来しか考えてなかった。




 先生に促され、彼女は席に移動する途中、俺と目が合う。

 横を通りすがるとふわっと甘い香りが漂い、次々と生徒が彼女を目で追い始める。



 注目を浴びる彼女。俺は彼女をものにしたいと誓った。

 放課後彼女を呼び出し、絶対に告白を成功させて見せる。


 俺の高校生活、最高のバラ色にしてやる!!




「悪いけれど、今日初めて会って告白するような軽率な人は付き合う以前の問題ですわ」



 そう言って木ノきのみ木ノきのこは去っていった。



「なにがわるかったんだろう」

「まぁ……顔じゃない?」


 翌日の体育の授業中。友人の水田みなた水一郎みずいちろうに相談を持ち掛けた。

 体育は男女に分かれて行い、男子はサッカー、女子はテニスを行っていた。



 グラウンドの離れたところで女子たちが一生懸命ラケットを振る練習をしている中で一人、皆と違うジャージを着ている女子がいる。



 仙姿玉質せんしぎょくしつ、木ノきのみ木ノきのこ



 それに比べ、そばかすに細目、やせ型の体の俺では本来彼女に釣り合うことも、ましてや眼中に収まることもない。


「だが俺には負けない心がある」

「そこは単純にすごいと思う。結果報告ヨロシク」


 ぎゅっと拳を握って奮起させる。体中の血流が速くなるのを感じる。



 今日、もう一度彼女を口説く。そして──




「虫唾が走りますわ」

 落とされた。違う意味で彼女に振り落とされた。


 迦陵頻伽かりょうびんが、木ノきのみ木ノきのこ


 たとえ『虫唾が走る』という声だけでも、話してもらえるという実感が最高に嬉しかった。



「もう、こういうのはやめてくださる? 変な噂が立っても困りますの」

「あっ、ちょっと!」


 彼女は校門の方へ去ってしまった。



「どうだったー?」

 窓を開けて水田みなた水一郎みずいちろうはのぞき込む。


「残念ながら失敗」

「でしょうな。まぁ、でも……お似合いだと思うよ」

「え?」



 窓を乗り越えて外に飛び出してくる。彼は靴下のまま地面へと着地した。


「水一郎、上履きは?」

「蹴ったら外に飛んでいった。今から拾ってくる」

 そういうとその足で校庭の方へと向かっていった。



 彼が素っ頓狂とんきょうなことをするのは日常茶飯事だ。


 遅刻しそうだから木を上って教室に入ったり、おなかがすいたから調理室を借りてクラス全員分のケーキを焼いたり、どこか浮世離れしているので気にもならなかった。



 それよりも今考えなければならないことがある。

「明日こそ彼女になってもらうんだ!!」



 俺は校舎裏で高らかに叫んでいた。


 その時、立ちくらみで目の前が暗くなっていくのが分かった。

 空も、学校も、粘土のように変形していく。

 なんだか眠くなってきたと思った時にはすでにまぶたを閉じていた。




 目を薄く開けると闇の中で彼女が一人立ちながらこちらを見ている。



 鏡花水月、木ノきのみ木ノきのこ



 いつもはすぐ去ってしまうのに、この時だけはずっと俺を見ていた。

 初めてじっくり彼女の顔を見ることが出来る。はやる気持ちで体を起こそうにも、自由に動かない。

 もっとよく見たいのに、どんどんまぶたが重くなっていく。



 この光景を前にも見たことがある。

 不思議に思いながら闇の中で瞼を閉じた。



「はっ……」



 目を覚ますと俺は校舎裏の壁に寄りかかっていた。

 確か立ちくらみで倒れていたかと思ったのだが、誰かが地面を引きずって寄りかからせてくれた形跡がある。


 どうせなら先生を呼ぶか、保健室に連れていってほしかったがそこは問題じゃない。



「ぶるっ……寒いし帰るか」


 腰を上げて夕日に照らされながら帰路へ向かう。

 俺の隣には誰もいないが、そのうち彼女とこうして登下校するようになるのだ。

 夕日を背景に真っ赤に染まる交差点を待つのも楽しくなるに違いない。



 帰宅時間もあって車も多くなり、横断歩道の前に人が集まってくる。

 顔を上げると斜め前に一際可憐な子が立っているのに気付いた。



 八面玲瓏はちめんれいろう、木ノきのみ木ノきのこ



 どの角度から見ても人形のように整った顔立ち、風になびく金髪と甘い香りの広がりが鼓動を速くさせる。



 話しかけるか……いやいつもみたいに心の準備をしていない。

 でも一日に二度も会えるチャンスなんてない。今しかないんだ。



「あの──」



 声をかけた瞬間、人込みの中、彼女は道路に飛び出した。

 赤信号はまだ変わっていない。


 何が起きた。なぜ飛び込んだ。

 考えるよりも前に俺は走り出していた。


 間に合えと祈りながら、ぐんぐんと体が前に出る。

 倒れかけた彼女の腕を掴んで後ろに強く引っ張る。



 彼女を道路の外に追いやった反動で、俺の体が前に出てしまった。


 クラクションを響かせながら走ってくるトラックが視界に入る。





 刹那、頭の中に響く声に俺は従う。



 ──先に膝をつけ! 頭をそらせ!



 誰の声か知らないけど、俺だって彼女と付き合うまでは死ねない!



「うおおおおおお!!」



 膝をつけて前に動く体を止め、思いきり頭をそらす。

「ぐえ!」

 勢い余って歩道に頭をぶつけたが、トラックも寸でのところでカーブし、そのまま停止した。



 逆さまになった彼女が俺をじっと見ている。



 怪我はなさそうで一安心し思わず顔がほころぶ。

「へへ……」と笑うと、彼女はこちらを見て話し始めた。



「かっこいいいいい~~~!!!」

「へ?」


「ラノベで読んだ異世界転生みたいな出来事ですわ!! 実際には死んでないけど、でも本当にこんなことがあるなんて、夢みたいですわ~~~!!」



 俺は水一郎が言っていた「お似合い」という言葉を思い出す。


「あなた、私と付き合ってくださる!?」

「もちろん、ってえええええ!?」

「問答無用ですわ。それにあなただって私に興味がおありなのでしょう? なら付いてきてくださいまし!」



 嬉しい悲鳴。打ち付けられ、ひどい頭痛のまま首根っこを掴まれながら走って引きずられていく。



 こうして俺は初めての彼女を手に入れた。



 面向不背めんこうふはい、木ノきのみ木ノきのこ



 一にラノベ、二に漫画、以下ほとんど異世界転生という。


 もともと本を読むことも苦ではなかったので、彼女からオススメされた本を読みながら毎日楽しい帰り道を過ごしている。



「お二人さん」

 水一郎がスケボーに乗りながら俺たちの横を通り過ぎようとしていた。



「水一郎、スケボーは校則違反だぞ」

「近所にばあちゃんちがあるからそこまでだって。それより……」


 水一郎は隣の彼女を見た後、もう一度俺に顔を向けた。



「長かったな。おつかれさん」

「ん?」


 まだ告白し始めて三日目だった気がするのだが、それを聞く前に彼はスケボーに乗って先に行ってしまった。



「それより話の続きですわ。ちゃんとついて来れてます!?」

「あ、ああ、うん! もちろんだよ!」


「そういえば、名前を聞いていませんでしたわね」

「あ~昨日ばたばたしてたしね……俺の名前は土屋つちや荒土こうど

「……ええ、またよろしくお願いいたします。荒土」



 今日もまた面倒くさいけど明るい未来が始まる。

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転校生初日に金髪ツインテールの女の子に告白してみたら虫唾が走ると言われたのになぜか好かれてしまった件 黒木耀介 @koriy_make

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