第14話 岩寺 望美と◯ part1

高校生活に、特に不満がある訳じゃない。

何かが足りないわけでもないし、孤独なわけでもない。そもそも、何もいらないから欲しがる必要がない。

それは、強がりかもしれない。と、彼女を見て思った。本当は人肌が恋しくて仕方なくて、孤独をわかってもらえる人が欲しかった。そう、感じたことが嬉しかった。


♣︎


いつも通りの時間に教室に着いた。

いつも通り仲間と挨拶を交わし、他愛のない話をしながら席に着く。が、どうしても教室がうるさくて廊下に出た。廊下側の窓からは中庭が見下ろせて、女子生徒数人がキャッキャと写真を撮っている。

俺はその風景をボーッと眺めながら、昨日のルカの泣き顔を思い出していた。


のだが、


「あ、の…新島…くん…」


いつもより大人し気な様子で話しかけてきたのは天川。俺が昨日、泣かせた女。


「昨日さ、色々考えてさ…。やっぱり仲直りしたいなーって…」


何故だろう。俺と関わりたいなんて、本当に馬鹿だ。


「昨日は言い過ぎたよな、ごめん」


何故かカッとなってしまった放課後。俺は彼女に、出来るだけ外面で対応したい。


「あっ、そんな…。私、ルカちゃんがちょっと羨ましかったんだ。それで、つい」


「ルカが…?」


「うん。なんか私が見たことない新島くんがいて。それが羨ましくて。私さ、新島くんとは仲良しのつもりで…。でも最近さ、ルカちゃんとか生徒会長が新島くんと仲良しで、ちょっと…嫉妬っていうか」


たしかに、ルカや明乃との対応は、天川とは違う。天川は結構、繊細みたいだ。


「私、もっと仲良しになれるように頑張るね?…だからさ、私のこと拒絶しないでほしいな❤︎」


悪寒がした。

天川の瞳が全くぶれず、俺を見つめていたからだ。

天川がいつも見せる、『はにっ』とした笑顔は全くの別物に見えた。


♣︎ 


「新島くん!」



「新島くん!」


「新島くん!」




「新島くん!」





「新島くん!」


「新島くん!」「新島くん!」


「新島くん!」

   「新島くん!」 「新島くん!」


「新島くん!」

      「新島くん!」    「新島くん!」    「新島くん!」

「新島くん!」       「新島くん!」 


  「新島くん!」「新島くん!」        「新島くん!」     「新島くん!」   



「新島くん!」 「新島くん!」



    「新島くん!」

「新島くん!」

        「新島くん!」   「新島くん!」    「新島くん!」

             「新島くん!」「新島くん!」「新島くん!」


         「新島くん!」


えへへ❤︎


頭の中、新島くんでいーーーっぱい❤︎❤︎

もっとほしいな…

新島とくんの中も私でいーーーっぱいになってほしい❤︎❤︎❤︎❤︎


♣︎


6時間目のチャイムが鳴った。最近、本当にしんどいことばかりな気がする。明乃に生徒指導食らったり、この前のルカの件だったり、その次の日からの天川だったり…。本当に何故そこまで俺に構ってくるのか、それが不思議でならない。

それに…ちょっとめんどくさい。


気怠い身体をなんとか立たせて鞄を背負った。


「あ、新島くん」


まるで俺を待ち構えていたかのように前の席から立ち上がるのは天川由良。


「今から帰り?もしよかったら一緒に…❤︎」


「あ、悪い。俺今日、図書室だから」


「本借りるだけでしょ?そのくらい待つよ?」


「読んで帰るから」


「終わるまで待つよ?」


俺の返事をじっくりと伺う天川。そのねっとりとした視線に思わず身震いがする。


「いや…さ…」


「ん…?」


ゆっくりと近づき、服の裾を掴まれた。

周りの視線がちらほら。男子からの嫉妬の視線、女子からの好奇の視線。


「この前言ったよな。『しつこい』って。一人にさせてくんない?」


「あっ…。あ、あぅ…。ごめん。そんなつもりじゃなくて、私も仲良しに…」


「…………………俺もう行くから」


「う、うん。…また明日ね?」


最後の一言を、俺は無視した。無性に、天川から離れたい気分だったから。



だめだ、またうじうじ考えてる。今までのクールな俺はどーした。

俺は父さんの敷いたレールの上だけを歩く操り人形。そんな奴がこんな『カラー』と関わっちゃいけない。俺は『灰色』なんだから。


俺は、一人。一人。一人。…


ドスッ


「きゃっ…」


「あっ」


しまった!深く考え事をしていたせいで不注意だった。

気づけば俺は図書室の方まで足を進めていて、それで人とぶつかってしまったらしい。


「あっ、すみません。不注意でした…」


散らばった何冊かの本を拾い持ち主に返す。


「あ、いえ。…あ、あの新島くん?」


「…え?」


声のする方へ、つまり正面を向くとそこには一人の女子生徒。やや小柄で華奢な体格。ポニーテールに眼鏡と地味な見た目だ。

俺はこの女を知っている。確か、同じクラスの岩…岩…


「あの、岩寺いわでら 望美のぞみです。あ、ごめんなさいっ。そんなの知るかって感じですよね…」


「え、あ、いや。おんなじクラスだよね」


教室の隅でいつも本を読んでいる印象。ただ、一人でいることに抵抗がなさ気で、それでいて熱心に読んでいた。本当に本が好きなんだな、とどこか関心をしていた。


「私のこと知ってるんですね…」


と、自嘲気味にぼやく岩寺。俺はその顔を見て思わず声が出た。


「あっ…」


「え?」


「あっ、いや。知ってますよ…もちろん…」


彼女の瞳は驚くほど綺麗で、純粋で、そして『灰色』だった。


「あ、ごめんなさい。もう行きますね。ごゆっくり」


そそくさと本を角で揃えて抱えながら、立ち上がる岩寺。

俺はそのまま通り過ぎる彼女を見過ごせば良かった。

そのまま、何もないまま、何も起きないまま時間の経過を待てば良かった。良かった、のに。


「図書室、よくくるの?」


俺はどうしても、岩寺望美を『放っておけなかった』。

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星、ハート、感想よろしくお願いします。

読んでくれたそこのあなた!めちゃんこ良いレビュー書いてベタ褒めしてくれてもいいんですよ!!


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