第8話 天川由良と笑みとLINE

「ねぇねぇ、前から思ってたんだけどさ。新島くんって、松平さんと仲、いいの?」


「いや?別に」


朝一番、前の席の女子高生、天川由良は俺に尋ねてきた。

いつもは『はにっ』と笑みを浮かべるはずだが、今日はそうでもない、どこか怒ったような表情だ。


「えー!?ほんとかなぁ?なーんか雰囲気良さげなんだよね〜」


「いやいや。ほんとにそういうの、ないから」


「ん〜。あ、そっか。じゃあ付き合ってるとか??」


なんなんだコイツ。「あ、そっか」ってなんだよ。露骨な煽り顔に腹が立つ。顔が整っている分、それも愛嬌に見えて、そう思うことにも腹が立つ。


「あのねぇ。大体俺は毎日、あいつに生活指導食らってんだぞ。仲良いわけないでしょうが」


「いやいや、毎日とかさぁ!普通仲良くなかったら無視だって!」


極端な話だ。

大体!松平明乃はこの学校一規律に厳しい人間で、その上生徒会長だ。


「そんなもん、あいつが『あいつだから』だろ?」


「え〜!?でも松平さん。新島くんにばっかり指導しに行って…あんなに嬉しそうにさー?ちょっと…妬けちゃうな」


「は?嬉しそう?妬ける?さっきからなに言ってんの?」


まじで。

天川も生活指導を食らいたいのだろうか。まぁ、何気に目立ちたがり屋な彼女のことだ。『毎日生活指導を食らっちゃう天然美少女キャラ』でも演じたいのだろう。


「あー。いや、なんでもないや、鈍感さん?ふふっ」


結局、いつも通り『はにっ』と笑う天川。体の内側をまじまじと見つめられているような感覚だ。見透かした目、というやつ、俺はこの目嫌い。


「そいえばさー。この前の土曜用事あるって言ってたじゃん?」


「ん?…あぁ」


「なに、してたの?LINEも出てくれないしさー?ちょっと寂しかった、なんて思ったりして…」


たしかに天川からの連絡は来ていた。

『もしもーし』『今なにしてるー?』『私はねー、漫画読んでるよー、少女漫画』『今出れない感じ??』『ぴえんの顔文字×6』…


最初に連絡を返せばよかったのだが、1、3回目で既に億劫になってしまい放置していた、というか今もしている。

天川にはどうしても俺の休日の予定を聞き出す目的があるように思える。


「家族の用事だよ。まぁ、あんま人に言わないでって言われてるから、詳しくは無理だけど」


「あー。それなら仕方ないよね。でもそっか。家族かー、良かった!」


「良かった?」


俺の服の袖を『くいくい』と引っ張って遊びながら「なんでもありませーん」と含みのある返事をする天川。


「ねー。悲しいからさ、今からでもLINE、返事して」


「えぇ?別にしなくても良くないか?」


「い・い・か・ら!!」


うっ。めんどくせぇぞコイツ。未読無視とか結構気にするタイプかよ。

色々とめんどくさくなって、従うことにした。


「ふふーん、私のいう通りに書いてね?」


「ん」


「行くよー?…『僕、新島齋は』」


「ええと。待て早い」


「遅いよー、ふふっ。『天川由良さん、あなたのことが』」


「『天川由良さん、あなたのことが』…めっちゃヤな予感」


「『ずっと好きでした』」


「…書けるかよ」


「むっ。怒るよ、書いてくれないと!」


やっぱめんどくせぇ!

ただ、天川はクラスのアイドル的存在。怒らせると後からもっと面倒だということは目に見えている。

ならば、腹を括るしか、ないのか…。


『ずっと好きでし…『ピロンッ』』


最後の一文字を書き終えようとした時、スマホの上部に着信を告げるバーが降りた。

そこには…

『花谷 ルカ

一昨日ぶりです、齋くん。あなたのお父様からアカウントを頂きました。

お怪我の程は如何でしょうか。件に関しましては本当にごめんなさい。お詫びと言ってはなんですが、今夜一緒にお食事に行きませんか?ご贔屓にさせていただいているレストランがありますので招待させていただきます。…その前に、デートもしたいです。これもお見合いの一貫、ですよね?齋くんの学校の門前で待っているので、放課後すぐ、来てくださいね?楽しみにしています、齋くん』


「…一昨日。お見合いって…なに」


超、バッドタイミング。

実際と文章で性格が全然違うのが怖い。

天川の目が完全に笑っていないのも怖い。


「…あー」


「放課後、門の前か。お見合い相手さんと。一昨日、私に内緒で会ってたお見合い相手さんと」


「…ごめん」



その後も天川の叱責は続いた。

しかし、これは更なる不運の予兆に過ぎないということを、俺は心のどこかで確信していた。

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齋くん、もうすぐ修羅場だね(ニッコリ)

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