いつか刺される俺とヤンデレ彼女どもとの日々。

一般大学生

第1話 新島という死骸

朝、学校に到着するとそこにはいつもの風景が広がっている。

別に誰かが挨拶してくれるわけでもないし、普通に手を挙げて「よっ」と言い合うだけ。

友達と遊んで、勉強して、普段通り家に帰る。

家に帰ればダラダラと過ごし、夜になると眠る。夜に眠れば朝が来て、朝が来れば学校に行く。


毎日を、ただなんとなく『灰色』に過ごしている。


特に記憶にも残らない、新鮮味のない日常に、焦ることもなく、時間に委ねて過ごしている。

でも、そんな俺の日常にひとつだけ、色づいたものがあるとするならば、それは…


「新島くん、おはよっ」


俺の座る席の後ろに遅れて座ったその人物、天川あまかわ 由良ゆらという存在かもしれない。


天川由良と俺は中学から一緒で、会えば少し話す、くらいの仲であった。


「あぁ、おはよぉ」


「ふふっ、『おはよぉ』って。眠そうだね」


俺の気楽な返事に目を『はにっ』と細めて、微笑んだ。


俺の無色な日常。そこに指す一点の虹。

俺は彼女を、天川由良を『友達として』好意的に思っている。

ただ、彼女の瑞々しいナチュラルボブや端正な顔立ち、発育した体を見れば、思わず目で追ってしまうけれど。


「新島くん、いっつも友達に囲まれてるよね。今日は…逃げてきたんだ」


「ん。まぁ、そーかな」


「そうだよね。一人でいたい時も、あるもんね」


「あぁ、まぁ」


「ふふっ」


一人でいたいことを納得した割には俺と会話をしたがる、へんなやつだ。


天川由良は校内、いや、国内で見てもレベルの高い容姿だ。才がなく、色だけを単備する彼女だが、寄ってくる異性は少なくないだろうに。俺のいったい何処を気に入って言い寄って来るのだろう。


「そういえばさ」


天川が『つんつん』と肩をつつき俺に構う。


「明日は土曜日な訳だけれど、部活動に参加していない新島くんは、ひょっとして予定が空いていたりするのかなぁ?」


なんだ、この女は。確かにこの天川由良という女の存在が、俺の日常を少し、ほんの少し色づけていることは認める。

しかし、俺の生活にのめり込んでくるのはやめていただきたい。


「あぁ、ごめん。明日は無理」


「へー。何かあるの?じゃあ明後日は?」


「明後日も無理。…いろいろあるんだよ」


「いろいろって…?」


「…」


深掘りする天川。

疲弊する俺。


「ふふっ。ごめんごめん。めんどくさい女だって思われちゃったかな」


「…あぁ」


「え〜。ごめんて〜!!」


わざとらしく俺の肩を揺さぶる天川。

体が近いせいで胸やらが当たるのがいただけない。


「おーっす、新島。と天川ちゃん。なに話してんのー」


もう時間的にはギリギリなのだが、一人男子生徒が到着した。彼の名前は小田切という。よく天川にひっついては気を引こうとしている男だ。

高校生にもなれば、女の機嫌を伺っていい顔をするヤツは星の数ほどいる。その内の一人がこいつ、小田切だ。


「んー。…なんだったっけかな?忘れちゃったっ」


「えー!そりゃないよ天川ちゃん!」


「ふふっ。たまに忘れちゃうこと、あるでしょ〜。まさにそれなんだよー」


本当にど忘れしたのか、はぐらかしているかは知らないけれど、曖昧な返事をする天川。


「なぁ、新島。なに話してたわけ?」


天川からは聞き出すことが不可能だと悟った小田切。それなら次は俺だ。

好きな女の関心には敏感になってしまうものなのだろう。


「ん?あぁ。なんか明日か明後日かに俺がよてi「ちょっと!」………なんだよ」


話を遮る天川。


「この流れで普通話す!?新島くん、空気読んでよ…」


「えぇ…」


普通にはぐらかしていた。


「えぇー。なんでよ天川ちゃ〜ん。俺に話せないことー??」


「そ!二人の秘密なんだー。ね、新島くん?」


え、俺?

正直こういうのははっきり言ったほうがいいと思うのだけれど。いやしかし、天川の『ゴゴゴゴゴゴ』が尽きそうな笑顔が怖い。


「あー、うん。そうだったそうだった。すまん小田切」


天川は俺の返事を確認すると『はにっ』と微笑んだ。薄くできたえくぼに視線を奪われてしまう。

対して小田切は悔しく、でも切り出せないといった、よくわからない表情をしている。


いっそ天川は小田切と付き合ってみればいいのではないか。小田切に処女でも奪われれば、また何か変わるのかもしれない。


「ねぇー由良ぁー」


少し気まずい雰囲気があったが、クラスメイトである坂本なにがしが天川を呼んだことにより、バラけることに。


小田切は、特に俺に用があるわけではないので俺を一瞥した後、自分の席へと去っていった。


「はぁ…」


ため息が溢れた。

女というものはどうもダメだ。男の判断を鈍らせるからいけない。

天川に話しかけられても迷惑だ。近寄られたくない。そう思おう。天川を見ていると、自分が不自由に思えて腹が立つ。殺してやりたくなる。


敷かれたレールの上を歩く人生だ。灰色の殺風景の人生だ。ちょっとした駅に、綺麗な花が咲いていればそれでいい。その花が欲しいわけではない。どうか、俺に不自由を自覚させないでくれ。

盲目なままで、いさせてくれ。


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