第1話 異世界転移したのにチートじゃないなんて
目が覚めると、そこは何も無い草原だった。
「んんっ……ここは……」
身体は無事なようだ。
手足が動く――――
これは、一体何が起きたんだ……
周囲の風景が駅前のそれとは大きく違っている。
いや、明らかに日本ではない気がする。
「そうだ! 皆は!」
慌てて起き上がり周囲を見る。
栗色の髪――――咲だ!
「咲! 大丈夫?」
オレは咲に駆け寄り体を起こす。
「んっ……あれ……」
良かった。大丈夫そうだ。
「ハル……ここ何処?」
「分からない。何処か別の場所みたいだ……」
駅前に居たはずなのに、今は全く別の場所に居る。
まるでアニメの空間転移でも起きたみたいだ。
これは、あれか? もしかして異世界転生とか異世界転移とか?
異世界転生だったら、勇者とか魔王とかチートスキルで無双できるとか……?
「ルリや皆が居ない、とにかく皆を探そう」
「うん……」
不安そうな咲を連れて、街が見える方角に向かう事にした。
しかし、本当に何が起きているんだ。
転移……転生……本当にそんな事が?
だが、現実にオレ達は全く違う場所に飛ばされている。
今は、皆が心配だ。
早く探して合流しないと。
「お、おい、ハル…… アタシ変なんだけど……」
「えっ、どうしたの?」
「凄い力が……呪力が桁違いになってる」
咲は鬼の末裔と呼ばれていたのだが、実際は殆ど力や呪力は持っていない普通の少女だったはずだ。
「何か、データみたいな……そう、ゲーム画面みたいなのが出るんだけど」
「えっ、どうやって?」
「こう、ゲームやってる感覚で念じるんだよ。口では説明しにくいけど」
これは――――まじに異世界転移キタ――――!!!!!!
これで、俺もチート主人公に! 元の世界では弱々だったけど、遂にオレの時代きたか!
いや、元の世界のオレがどうなっているのかとか不安もあるけど、とりあえず皆を集めてから元の世界に帰れるか考えよう。
咲に教えられるままに、そのデータ画面みたいなのを出してみる。
なになに……
職業:調教師
レベル:6
HP:60
MP:0
攻撃力:15
魔法力:0
防御力:25
素早さ:30
スキル:鬼寄せLv.10 鑑定Lv.1 調教Lv.3
えっ、ええっ…… これ、弱くないか? 弱いよな……
「うわぁぁー あんまりだぁぁー! せっかく異世界転移したのにザコだなんて!」
「というか、職業調教師って何だよ」
「はぁ、調教師……って、まさか、アタシを調教しようとか思ってるんじゃ……」
咲が顔を赤くして後ずさる。
「い、いや、調教師って馬の調教師とかでは?」
「異世界で馬調教してどうすんだよ!」
「確かに……」
咲にステータスを教えてもらったのだが……
職業:魔法剣士
レベル:120
HP:1,500,000
MP:1,200,000
攻撃力:60,000
魔法力:35,000
防御力:15,000
素早さ:12,000
スキル:神速剣Lv.10 魔法剣Lv.10 次元斬Lv.10 無限斬Lv.10
凄い……
レベルカンストしてないか?
完全にチートじゃないか。
「元気出せよ」
咲に背中をベシベシと叩かれながら、二人で街に向かって歩き出した。
異世界アニメが好きなオレには夢にまで見た異世界だったのに、職業が調教師なんて意味不明なのは酷い仕打ちだろ。
オレ達は、はぐれてしまった仲間を探す旅に出るのだった――――
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