世の中には3人同じ顔がいる。

大月クマ

同じ顔

 家のドアにカギが掛かっている。


 ――おかしいなぁ。誰かいるはずなのに?


 あいにく俺は、家のカギを持っていなかった。


 ――開けてもらうか……。


 チャイムを鳴らすと、家の中でトコトコと人の歩く音が聞こえる。


 ――いるじゃないか!


 なんでカギを掛けているんだ? 問いただしたいが、まあ家には入れるだけマシか。

 開いたドアから顔を出した男は、俺の顔を見るなり、


「わわわわぁー!」


 悲鳴を上げ、顔を引き尽かせて俺を突き飛ばした。

 そして、裸足のまま走り出して通りに飛びだしていったではないか。


 ――何だったんだ? あいつは……


 でも待てよ、どこかで見たことがある顔をしていた。

 今日も確か……そう朝、見かけた。洗面台の前の鏡、そこにいた奴にそっくりだ。


 ――それって俺か!


 よくよく考えたら、俺の顔だ。

 そういえば、世の中には3人同じ顔を人がいるという。

 俺が1人目。鏡の中にいた奴が2人目。つまり、あいつは3人目ということか……。


 ――だったら、何故逃げる?


 世の中には3人しかいないという同じ顔が、突然、目の前にいたのだから驚くことは判る。だが、逃げることではないだろう。

 話しかけてどんな奴なのか知りたいと、俺だったら思う。


 ――追いかけるか?


 通りへ飛び出すと、まだあいつの背中が見える。

 あれを脱兎のごとくと、いうのか。

 とにかく、あいつ、足は速いな。でも……


「待てよ!」

「くっ、来るなッ!」


 俺の声が届いたのか、あいつは一瞬、振りかえった。

 まるで化け物でも見るような顔だ。


「前を見ないと危ないぞ!」


 俺は、忠告はした。しかし、遅かったようだ。

 あいつが四つ角に差し掛かったときに、予期した通り、横から車が飛び出してきたのだ。


「アッ!」


 そして、車は急ブレーキをかけたが間に合わなかった。

 あいつは吹き飛ばされて、地面に叩きつけられて動かなくなってしまったではないか。

 だから、忠告したのだ。角を曲がるときには、車に注意しなければ、こういうことになるのだ。


「だッ、大丈夫ですか!?」


 車の運転手が慌てて飛び出してきたが、大丈夫なわけがない。

 吹き飛ばされて、衝撃で頭をかち割ったようで、地面に血の海になろうとしている。

 大きな衝撃音を聞きつけたのか、近所の人も出てきた。


「大変だ!」

「救急車! 救急車を呼んでくれ!」


 事故は俺の所為ではない。だって、あいつが、俺の忠告を聞かなかったからだ。勝手に逃げ出して、勝手に走って、勝手に飛び出しただけだ。


 折角、世の中には3人しかいないという同じ顔が、集まったというのに……。


 俺はどうすることも出来ずに、とぼとぼと家に戻ることとした。


 ――でも待てよ?


 帰り道に思い出したことがあった。


 あいつは自己像幻視ドッペルゲンガーではないか?

 世の中に3人も同じ顔がいるとはいったものの、世界人口は70億を越えているんだ。

 そこから3人が同時に会えるなんて、数学は苦手だが確率はもの凄い低いんじゃないか?

 だとすると、見たら死んでしまうというドッペルゲンガーだろう。どうやって俺が死んでしまうのか解らないが、ドッペルゲンガーが俺を殺す前にあいつを殺したんだ。


 ――これで、俺は死なない! でも……待てよ。


 もう1人、ドッペルゲンガーの可能性がある。


 鏡の向こう側の奴。あいつをどうすればいか……



<了>

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世の中には3人同じ顔がいる。 大月クマ @smurakam1978

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