第3話

 マンドラゴラは走っていた。

 崩れた街を駆け抜ける。夜明け前の最も暗いこの時間に、宛もなく叫び続けた。

 アパートが倒壊した時、彼は恋茄子マンドラゴラを外へと放り投げた。立ち上がる事もできない激しい揺れの中で。

 放り投げられた鉢植えは割れて、マンドラゴラはむき出しとなった。そして、マンドラゴラは走り出した。


「だずげて!!」


 マンドラゴラは叫ぶ。宛もなく駆け回る。晴れた日も雨の日も、嵐も雪が降っていても欠かさず水をくれた彼のために。


「だずげで!くだざい!!」


 マンドラゴラは叫ぶ。辛かった日も楽しかった日も変わらず自分に語りかけてくれた彼のために。


「だずげで!くだざい!!!」


 マンドラゴラは叫ぶ。しかし、回りの叫び声にそれもかき消される。震災で崩れた街では、誰しもが助けを求めていた。


「だずげで!くだざい!!」


 それでもマンドラゴラは叫びながら走り続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る