えっちな後輩とぼっちな先輩がイチャイチャする話〜小学生の時の初恋の人同士が高校で再会する〜

神宮瞬

第1話 初恋の思い出

 

 その日は、夏の暑い日だった。

 僕は今にも泣きそうな小さな女の子と出会った。




 僕は地域のサッカークラブに所属していて、夏休みの間もクラブの練習のために隣町のグランドに通っていた。

 小学四年生の中では一番上手かったので、キャプテンを任されており、コーチから頼み事をされることがあった。


 その日、午後から始まる小学三年生の練習に人数が少ないので混じってもらえないかとコーチから頼まれた僕は、同じ学年のチームメイトが午前で帰る中、その頼みを受け入れた。



 三時間の練習の合間にある休憩時間。

 頭から水を被ってぐしゃぐしゃに濡れた僕は、小さな女の子と木陰に座っていた。


「何でこのサッカークラブに入ったの?」

「……お兄ちゃんが入るって言ったから」


 練習が始まってからしばらく内容を見ていると、チームメイトの和に馴染めていない子がいることに気が付いた。

 サッカーの練習に二人組になるものがあって、そこでもやっぱり一人だけあぶれてしまったその子は泣きそうになっていて、何か事情があるのか、この休憩の時に聞こうとしていた。


「お兄ちゃんがいるんだ。何年生?」

「双子」


 その女の子は他の場所で集まって休憩している少年たちの方に指を指した。


「えっと、青い服を着た子?」

「うん」


 双子のお兄ちゃんらしい少年は、他の子供と楽しそうに話している。


「お兄ちゃんがサッカークラブに入ったから一緒に入ったんだね」

「うん」

「じゃあ、サッカーは好き?」

「……あんまり」


 このクラブには女の子はほとんど居ない。小学三年生の中でも女の子はこの子しか居ないので、周りに溶け込めにくいんだろうと僕は思った。


「サッカーは楽しいよ! 見てて」


 僕は転がっているボールを一つ取って、ボール捌きを見せる。

 足裏を通して回転したり、脚を開いてボールを右から左に移すダブルタッチ、脚のアウトサイドからボールを瞬間的にインサイドに持ってくるエラシコ、ドリブルしながらボールを両足で挟んで蹴り上げ頭上まで上げるヒールリフト。

 落ちてくるボールをそのまま続けてリフティング。ボールの周りに脚を回転させたりして、最後は背中にボールをピタッと止めて、見ていた女の子に聞いた。


「はぁはぁ……どうだった?」

「すごい。すごかった!」


 泣きそうな顔が笑顔になっていて、そしてその顔がとても可愛かったから僕は照れてしまい、その女の子から顔を背けた。



 それから僕は毎回のようにひとつ下の学年の練習にも参加するようなった。人数は少ないままだったし、その女の子と話したかったからだ。

 その子はサッカーはあまり上手くなかったけど、楽しそうにプレーするようになって次第にチームの和に馴染めるようになった。


「くじょう君は将来サッカー選手になりたい?」

「うーん、サッカーは好きだけど、サッカー選手になれるのはもっと上手くないとダメだと思う」

「くじょう君はサッカーすっごく上手いよ」

「ありがとう」


 その女の子とはいろんな話をした。


「くじょう君と同じ学校だったら良かった。中学校も違うし……」

「高校は一緒になるかもしれないよ」

「ほんと? 一緒のとこがいい!」

「どこの高校行く? この辺で一番賢いのは五毛塚高校で――」

「くじょう君は?」

「五毛塚高校かな。行けたらだけど」

「じゃあそこ。約束!」


「くじょう君は漫画読む?」

「読むよ」

「どんなの?」

「キャプテン翼とかブラックジャック」

「知らない」

「サッカーの漫画とお医者さんの話だよ」

「そうなんだ」

「ことはちゃんは?」

「ドラえもん」

「おお、ドラえもんか。どの秘密道具が好き?」

「えっと、わたしは――」



 そして半年が経ち、春になった。

 このクラブでは小学五年生から違うグランドで練習するようなる。もう少し大きなグランドになるのだ。


 違うグランドは今までの場所からかなり離れているので、当然一つの下の学年の練習には参加できない。

 それを女の子、ことはちゃんに伝えると、嫌だと泣かれてしまったが、僕もことはちゃんと会えなくなるのは嫌だった。


 ことはちゃんと会う最後の日。

 ことはちゃんはお母さんと一緒に僕の所まで来た。ことはちゃんは泣いていた。


「ほら、ことは、くじょう君にこれまで良くしてもらったんだから、最後に挨拶しなさい」

「……くじょう君、これまでありがとう」

「どういたしまして。サッカーもすごい上達したね」

「それはくじょう君が教えてくれたから」

「本当にくじょう君、娘の面倒を見てもらってありがとうね。夏までは行きたくないって言ってて辞めようかって話をしてたんだけど、くじょう君のおかげで楽しくなったみたい」

「いえ、僕の方こそ、ことはちゃんといるのは楽しかったです。ことはちゃん、ありがとう」


 そうして、手を振ってことはちゃんはお母さんと帰って行った。

 僕も悲しかったけど、恥ずかしいので泣くのは我慢した。 



 一年経ち、下の学年とまた同じグランドで練習するようになった。

 ことはちゃんがいることを期待してたけど、もう双子の兄と一緒に辞めたそうだった。



 あの時は気付いてなかったが、あれが僕の初恋だったと思う。

 ことはちゃんと一緒に居るのは楽しくて、彼女の笑顔を見るのが好きだった。


 連絡先を聞いておけば良かったと後悔するがもう遅い。

 同じ地域に住んでるので、また偶然会うことがあればいいなと思った。



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