第94話 楓禾から稜弥と詠史へ

 -客間-


 自分の中で、許容範囲を超えた時、怖くなった時。逃げ出してしまう自分が嫌だ。



 怖くても、不安でも。


 この想いから逃げる訳にはいかないから……




「お母上様、お父上様。お忙しいのにお呼びだてしてすみません」


「大丈夫ですよ」


「暇にしていていた所だから、心配ないよ」



 逃げ出すというより、大切な事を伝える時などに緊張して話せなくなってしまうの。



『傍で見守っていて下さいませんか?』


 傍で見守っていて下されば、安心できるから。その想いを汲んで下さったお母上様とお父上様。




「稜弥様、詠史様。この先の事について伝えたい事があります」


「「はい」」



 私も、緊張しているけど。稜弥様と詠史殿の緊張感もヒシヒシと伝わって来る。



 深呼吸して心落ち着かせて……


(大丈夫。心配ない……)



「稜弥様。貴方には時に言い過ぎてしまう事がありますし、貴方も私をからかったりしますよね。稜弥様と私がこれまで築き上げて来た関係は心地良くて。二人だけの空気感があるわ。私が悩んでいたりすれば直ぐに察してくれて。的確な助言をくれる大切な貴方。 周りが見え過ぎて察するのは、時に心が疲れませんか? 吐き出したい時もあるでしょう? 私が心癒せる存在になりたいのです」


「楓禾姫様……」


 稜弥様が、綺麗な涼しげな瞳を涙で揺らしている。




「詠史殿。貴方は一人の時間を大切になさっている方よね。そんな時でも、私は心癒されたくて貴方の傍に寄って。詠史殿は話ししなくても、ただ傍に居てくれたり。私の話を聞いてくれたり。穏やかな二人だけの空気感があるわ。貴方にも、心穏やかにいられない時だってあるでしょう? 思いを我慢して溜め込んで、疲れてしまう事もあるでしょう? 私が心癒せる存在になりたいのです」


「楓禾姫……」


 詠史殿が、優しく綺麗な瞳を涙で揺らしている。



「私は、二人の手を離す事が出来ないのです。二人と一緒にいたいと願ってしまうんです。私は貴方方どちらかを選ぶ事など出来ません。 二人それぞれに心惹かれているから。私に真摯な想いを伝えて下ださった稜弥様と詠史殿からしたら、心癒せる存在になりたい。と言いながら自分勝手な事ばかり言う私を…… お二人の出した答えを私は受け止めますから……」



「お約束いたします。生涯、楓禾姫様の傍に居ると。お慕いしています。楓禾姫様」


「お約束いたします。生涯、楓禾姫のそばに居る事。お慕いしています。楓禾姫」


「「 約束したではありませんか?」」



 同時にそう言われた稜弥様と詠史殿。



「 約束しました…… これが私と稜弥様と詠史殿の三人の形なのですね」



「はい楓禾姫」


「はい楓禾姫様」



「私には、稜禾詠ノ国を治める桜王家の者としての責任があります。この先は、この瑠璃ノ島を治める者としての人生を歩んで行く事に決めました」

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