第75話 永遠に終わらぬ苦しみを……

-楓希の方と陽の部屋-



「楓希の方、鈴となずなが一人前になるまでは楽隠居出来そうもありませんね」


「鈴殿となずなは、真面目で勉強熱心ですからね。直ぐですよ。決意したと同時に、陽、貴方に『領地の治め方を教えて下さい』と申してたでありませんか」



頼もしい、*大甥おおおいの鈴となずなが、稜禾詠ノ国を、これまで以上に発展させて行くのだろう。



楓希の方にとり、*源本家に嫁いだ、妹の凛夏りんかの娘の凛実の息子の鈴が、稜禾詠ノ国を 守ってくれるのなら、こんなに嬉しい事はなくて。



だからこそ、心配でならないのは、もう一人。楓菜の娘の楓禾姫と、湖紗若で。



「鈴殿となずなの成長を見守りつつ、楓禾姫と湖紗若に逢いに行く。二重生活を楽しみますかね。楓希姫」



「そうですね。爽が外喜の事を片付けたら、楓禾姫と湖紗若に逢いに行く。と申してましたしね。早速、一緒に行かせてもらいましょう。 そこには……」


涙を溢れさせた楓希の方を、陽は優しく抱きしめた……




*楓希の方の妹 凛夏


凛夏の娘 凛実(楓希の方の姪)


凛実の息子 鈴(姪の息子=大甥)



--


-山乃家-


「基史……こずえには、本当に申し訳ない事をしました。すみませんでした」


「殿様っ、どうか頭を上げて下さい」


その日、一国の領主が一家臣の家を訪ねて来た事に、詠史の父である基史は驚いていた。



六年前、娘のこずえの悲しき最後を迎えた時から、体調崩し寝たり起きたりを繰り返している基史。


「外喜を、流刑の地にて重労働を生涯。朝から晩まで休み無しにて働く刑に処しました。賃金を山乃家へ全額当てさせます。 お金で解決など出来る事ではないと重々承知しています…… こずえは 帰って来ないのですから……」


「こずえの未来を奪った罪を。こずえの無念、悲しみ……外喜には、 一瞬で楽になって欲しくないです。永遠に終わらない苦しみを味わせたい」


爽には、その気持ちが良く分かった。楓菜姫の無念、悲しみ…… 一瞬で楽になる方法なんて、与えたくなかったから……


「基史。桜王家の都合を優先し、こずえの事、事件についても、 門外不出に、箝口令を敷くなど。酷い対応をして申し訳なかった」



「稜禾詠ノ国の宝。楓菜様を桜王家も……詠史から聞きました。この数年、外喜を追い詰める為の証拠掴む為に動いていた事を。何もして来なかった訳じゃないないのですから。 謝らないで下さい。それに。早々と諦めた私に代わって詠史が。こずえの敵を取ってくれました」



「基史。 体を治してまた……素晴らしい庭を造って欲しい。以前とは微妙に違うのだ。基史の手入れした庭とは。だから再び……な」



「ありがとうございます。殿様」



愛する妻を。娘を…… 同じ悲しみを味わった……イヤ、 私以上に、悲しく、辛くて、苦しい思いをしてきた基史と、詠史。改めて外喜に対して。



許せぬ想いが湧いて来て。




(外喜。栄華を極めた人間から、一生涯働く身に。どうだ?悔しいか?お前の為に、何人も、何十人もが悔しい思いをして来たんだ。己のして来た事にきちんと向き合い、贖罪の為の人生を生きるがよい!)




爽は、 涙が溢れるのを止められなかった……










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