第74話 一生涯守るから、支えて欲しい

 -鈴の部屋-


 なずな……


 楓禾姫と湖紗若の消息が分かった安堵……からだよな。私の前に座り、溢れて止まらぬ涙を必死に……


「なずな。私には素の感情を見せてくれ」


「……鈴様?」


 楓禾姫と、お揃いの綺麗に刺繍を施した布で。涙拭っていたのだが、驚き過ぎたのか……動きを止めて私を見つめてきた、なずな。


「うん。私も安心した」


「はい……」


 先ほどの言葉に触れるでなく、かと言って、何かを言いたげな私に気付いていて、身体を強張らせて下を向いている、なずな。



「私に、楓禾姫の願いに応える器量があるだろうか?」


 可哀相に。泣き過ぎて、赤く泣きはらした瞳とまぶたで私を見つめ返して。


「鈴様は、稜禾詠ノ国の民を、一番に考える素晴らしきご領主になられます」



「なずなの保証付きか」


「はい」


「私は、これまで苦しい思いをしてきた、楓禾姫と湖紗若に幸せになってもらいたい」


「はい」


「私も、幸せになりたい」


「はい」


 途切れた会話……私は。


「ふぅ」


 息を大きく吐き出して。


(あぁ、ドキドキする)


「なずなと共に、稜禾詠ノ国を。民を幸せに出来るよう、頑張って行きたい。なずな私の幸せは、なずなが傍に居てくれる事。私を支えてくれないか?」


 実際には時は止まってないけど、時が止まってる。怖い程の静寂。


 潤んでくる瞳にて、なずなを見つめれば、やはり潤んだ瞳で私を見つめ返している、なずな。


「愛している。なずな。傍にいて欲しい」


 バカだ私は。肝心な言葉を言わないで。


「私に、どこまで出来るか分かりませんが、鈴様をお支えし、稜禾詠ノ国の民の為に尽力する事を。お誓い致します」


 凛とした瞳にて、 言葉を返してくれたなずな。


「 ありがとうなずな。 必ず幸せにする。一生涯守るから」


 その瞬間、なずなが大号泣して。 私はなずなを抱きしめると同じく大号泣して。


「なずなは、私の事を……?」


「愛しています」


 不安からそう尋ねと。 真っ赤に頬を染め、ちっちゃな声で答えてくれた。



 なずなが愛おしい……




『なずなと共に、稜禾詠ノ国を。民を幸せに出来るよう、頑張って行きたい。なずな私の幸せは、なずなが傍に居てくれる事。私を支えてくれないか?』



 私の心の中に、恐れ多くも 鈴様がいるのは、紛れもない事実。


 鈴様の決意の言葉に、 私を選ぶ為の優しき嘘があっても……幸せで。


 幸せなのに。直ぐに、お言葉をお返しする事が出来なくて。


『愛している。傍にいて欲しい』


 鈴様を、 一方的にでもお慕いしている。 私のような者が…… それでも、想いがどんどん強くなって行くのは止められなくて……



『なずなは、私の事を……?』


 どこか不安そうに尋ねられた鈴様の気持ちが……幸せで。


『愛しています』



 想いをお伝え出きた事が……幸せで。



「リン にいさま。なずなを なかせたら とんでいく」


「 脅迫だよな。これ」


「湖紗若様……」


 湖紗若様が、 残して行かれたという手紙。


 先程とは違う、幸せがこみ上げてきて。


「うふふ」


「 私の強敵は、稜禾詠ノ国でなく、民でなく、湖紗若だ」


 鈴様の、どこか、うんざりげっそりな呟きが面白くて。


「湖紗若が、 一回りも年下で良かったよ。なずな大好き若君め」



 もう、 笑いが止まらなくなっちゃって。


( 楓禾姫様。湖紗若様に幸多かれ……)


「 落ち着いたら二人で、楓禾姫と湖紗若に逢いに行こう」


「はい」



 楓禾姫様と湖紗若様に想いを馳せると、涙が止まらなくなって。



 今は、 冗談で気を紛らわせておられるけれど、 大きな責務を背負われた鈴様の緊張が、痛い程伝わってきて……


(鈴様を私なりの…… 内助の功でお支え致します)


 心新たに誓ったの……














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