第42話 謎
現在
-屋根裏部屋-
屋根裏部屋には、楓禾姫の泣き声が、悲しく響き渡っていた。
楓禾姫の心情を想うと、稜弥、詠史、鈴も。悲しくて ……苦しくて……切なくて……
三人も、止まらぬ涙を流し続けていた……
「詠史殿……こずえ様の事…… 本当に申し訳ありませんでした」
ふいに、口を開いた楓禾姫の言葉に、稜弥、詠史、鈴。 それぞれが、こずえの事を思い、胸が押しつぶされそうになった。
「お父上様の母の……お母上様の乳母であり、私をこれまで、慈しみ愛して下さった、祖母の早月が『 ようやく……楓菜姫様の無念を晴らす時が来たのですね……』 そうつぶやいて教えて下さったのです。こずえ様は…… 騒ぎの中、気が付いた時には……」
『可哀相に……外喜殿に凛実の方に、嘘の伝言を 伝えるようにと、 命じられただけなのです。何も罪の無い子が…… 責任を取らねばと考えたのでしょうね…… 殿が部屋の中の状況を、確認した際にすでに…… お茶を飲み事切れていたと……』
早月より聞きし、悲しいこずえの最後……
この悲しき事件は、稜弥は父の勇に。詠史も父の基史より。鈴は母の凛実の方より、聞いていた。
その事で嘆き悲しむ楓禾姫の姿を見るのが、三人は辛らかった。
「楓禾姫…… 私は腑に落ちた事があるのですが……楓禾姫が、私の襖に絵を描く姿などを見ながら、時折じっと背中を見つめておられたのは…… 私が幼き頃も、城に登城していたのに。記憶を失っていたから……ですね?」
突然そんな事を話し出した詠史に、楓禾姫は面食らいながらも。
「 そうですね。 回数が少なかったかもしれませんが 。逢うたびに遊んだり剣術の稽古をしたりしたのにと…… 六年前に、姿を見なくなって…… 再び登城して来た時には『 初めましてと』 挨拶をしたものですから……こずえ様の事があったからだと。 私も……今は、腑に落ちたのです」
「父に、 悲しみのあまり一週間、熱を出して寝込んで。 回復した時には忘れていたから。 無理に思い出させる必要も無い。と。黙っていたのだ。と聞きました。 目を背けていた…… 父の嘆き悲しむ姿を見ている内に……私は逃げていられないと。 一年後に、真相を知る決意をしたのです」
「なぜ? 桜王家に関わったばかりに、こずえ様を亡くされたのに詠史殿は。稜弥様も。外喜殿の暴走止めるでもなく時折、私的な事を優先し、城を出て行く……と。 噂されているお父上様なのに……桜王家を見捨てる事なく、仕えて下さるのですか?」
「それは……」
鈴は、 言葉を飲み込んだ。
それは、稜弥も、詠史も楓禾姫を 大切に思っているから……守る為に傍いるのではないか……と。
そう思って稜弥と詠史を見れば、 分かりやす頬を染めている。
それにもう一つ 。
「楓禾姫は何も悪くはないのだぞ? 湖紗若も。 だから我々は守るのだ」
「鈴兄上様……」
楓禾姫は 嬉しくて涙が溢れた
「鈴兄上も 悪くはありませんね。 この所、鈴兄上様が お力を付けけて来た事に外喜殿が 危機感を抱いておられるのが分かります。私は、鈴兄上様と湖紗若様に何かしかけて来ないように……と…… 守る為に立ち上がる事にしたのです」
楓禾姫の強い決意。
「あのもう一つ……詠史殿のお父上は、庭師よね。『跡継ぎとして、私に弟子入りしました。せがれの詠史です』と紹介されたはずなのに。絵師なのは?」
「しばらくして、父は、体調を崩して登城を控えるようになりました。山乃家に、やましき事がある外喜は、父が登城しなくなり安心したはずです。自然と、庭師の皆は、私を山乃家の遠い親戚の子供として扱ってくれて。外喜に目を付けられないようにしてくれて。それは、他の家臣達や持女達も。おかげで、私は動き易くなりました。外喜は私を楓禾姫の遊び相手との認識しかないかと。絵師なのは、絵師に付いて1日修行した際に、絵の魅力に取り付かれたからです。そこから絵師になる本格修行を始めた。と云うわけです」
「そうなのですね……」
一瞬の間の後。
「楓禾姫様が、 おっしゃられた殿様の動きですが。私には、何か意味があってされている事のように思います。それから、詠史殿が私と鈴様を『お小さい時から楓禾姫と遊ぶ仲だったのだな…… 私は…… 湖紗若のお生まれになった頃、本格的に桜王家に仕える事になったからな』と、羨ましい。と言われ時、記憶を失くされていたとは分からず、その言葉を余り深く捉えなかった事を、お許し下さい」
それまで。黙って皆の話を聞いていた稜弥が口を開いた……
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