第21話 運命(さだめ)の決断

 

19年前 神無月かんなつき半ば


 稜禾詠りょうかえノ国 桜城


 楓菜姫


 の部屋


(私が……覚悟を持って 決断しなければならない事よね)


 その日楓菜姫は一つの決断を下した。


 まだ十六(三ヶ月後の睦月に十七になる)の少女には身を切られるような痛みの伴う決断だったが。


 そんな楓菜姫の様子を、心配げに見つめていた夫の爽が。


「 楓菜姫? どこかお身体の具合でも悪いのですか? どうしたのです?」


 そう尋ねると。


「爽…… 私達夫婦めおとになって1年が経ちましたね……」


「はい……」


「代々、女性が桜王家を、稜禾詠ノ国を支配して来ました。私が果たさなければならない最大の役目は跡継ぎを儲ける事です……」


 決心した事とはいえ、出来ればこの言葉を言いたくはなかった……出来る事なら自らが、 お慕いしている爽のお子を生みたかった……


「 いまだ、懐妊かいにんの兆しはなく……ですから……爽様、側室をお持ち下さいませ。そして……」


 爽は、驚きすぎて思わず 楓菜姫を凝視していた。 思いもよらぬ言葉であったし、深く深く 楓菜姫を愛していたから……


「 楓菜姫、お待ち下さい。私達が夫婦になってまだ1年ですよ? これから懐妊されるやもしれぬのに……側室など、時期尚早ではございませんか!?」


 爽は動揺つつ、ハッキリ、キッパリと己の意志を 楓菜姫に伝えた。



 楓菜姫は、驚いていた。


 普段は穏やかで、ほとんど己の意見というものを述べる事の少ない爽が。


『これから懐妊されるやもしれぬのに……側室など、時期尚早ではございませんか!?』


異を唱えてくれた事に。


 楓菜姫は。


(もう、そのお言葉だけで……大丈夫私は生きていける)


 そう思ったのだった。


*神無月 十月





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