ほうこう
時には、希薄であってほしいと思う。
名前が出るたびに。
かろうじて存在している心が氷柱で貫かれるように。
痛くて、熱が奪われる。
身体を縮こませる。
漂うしかない宇宙にあるように。
沈むしかない砂漠にあるように。
ただただ。
圧倒されて意思を奪われる。
恐怖だけでは説明できないものに。
家族の前では、勝手に涙が出た。
嗚咽ももらせずに、ただ静かに。
泣いて。
家族も泣いて。
泣く姿を見たくなくて。
でもどうしてか涙はあふれ出てきて。
あまりにひどい痛みと痒み、そして、苦い花の芳香によって強制的に意識を浮上させられたら、後ろに居たライアーさんから言われた。
おまえはこの世界の水と、もしかしたら、陽にも合わないかもしれない。
陽と雨は俺の鱗で作ったマントで全身を覆えば大丈夫だろう。飲み水はこの森の中に生きる植物がろ過したものを補給しろ。
ただし、どの植物でもいいわけではない。
口に含んで、痺れを感じない植物だ。
それを探し出せ。
竜としていきたいのだろう。
乾いた雑巾をめいっぱい引き絞る。
最初は注連縄ほどの大きさだったそれは、刺繍糸よりも細く引き伸ばされる。
どうだろうという疑問は跳ねのける。
ちぎれないように。
ちぎれないようにただ、同じだと言い聞かせる。
部屋を掃除するのと一緒。
身ぎれいにするのと一緒。
ただそこに食べるという動作が加わるだけ。
それだけなのに。
どうしてこんなにも動悸で心身ともに苦しくなる?
元の肌の色と感触がわからないくらいに、膨れ上がった赤や黄の発疹は、爪の先で軽く触れてだけでも、爆発して、中から得体の知れない液体をまき散らしそうだった。
痛い。
痒い。
手だけじゃなくて、顔も頭皮も同じなのだろう。
きゅるきゅると。
可愛らしい腹の音が出る。
腹が減ったと身体が訴える。
久しく感じていなかった空腹。
顔をくしゃりとゆがませたおかげで、要らぬ痛みを買ってしまった。
植物。
痺れない。
口に含む。
ああ、なんて、難題。
荒い息と、白い向日葵をまき散らしながら、少しずつ、歩き出す。
服で覆われている以外の肌の発疹のひどさを隠してはくれなかった、存在を感じないくらい軽く透明な鱗のマントは、それでも、どうしてか、少しだけ心強く感じる。
やっぱり、竜に憧れているからだろう。
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