六条さんの可愛さにはどうしても勝てない。~陰キャな俺が美少女と付き合うまで~

サリア

六条さんの可愛さにはどうしても勝てない。~陰キャな俺が美少女と付き合うまで~

「おーい」「おーい」「おいこら風見ー」


ん?あ、すこしぼおっとしていたみたいだ。

夏休み後の久しぶりの授業で疲労が多い。

とりあえず返事をする。


「なんだー東(あずま)」

「この前の授業のさ。数学の課題の答え見せてくんね?」

「だと思ったよ、いつも楽をするなっ!」


軽めのジャブを入れる。


「ひでぇじゃねえかよおー、ね?今日だけだから!」

「だめだ。当たり前だろ、数学は答えみてばっかじゃなんの勉強にもならないからな」


自分でも自覚があるくらいの陰キャの俺に声をかけてきたのは、イケメン、スポーツ万能、勉強…はお察しの通りのモテ男の東(あずま)だ。

こんな俺に何か通ずるものがあるんだか知らないが声をよくかけてくる、友人といってもいいやつだ。


「ねえ東―」

後ろの女子からモテ男のお呼びだ。


「いってやれよ」

「すまんな風見、あとで見せろよー!」


見せねえよ。と思いながらも、教室の黒板側に走っていく東をながめる。

さっき声をかけたのは、スポーツ系の快活とした女子だ。

いわゆる陽キャってやつ。

東もいつも男女含めた仲良しグループで行動していることが多く、クラスの中心の存在といえる。


その横に視線を向けると一人読書をする女子が目に入る。六条冬樹だ。話したことはほぼないが、クールな印象だ。髪はあり得ないように美しく煌めく銀髪。染めているわけではなく、母親がイギリス人らしい。うわさで聞いたな。これまで両手では数えきれないくらいの男子から告白を受け、それらを悉く(ことごとく)ぶった切ってきているらしい。



そういう俺も本を閉じる仕草や、髪を耳にかける仕草にドキッとする場面が今まで何回もあったんだが…つまり、俺もすぐに告りたくなってしまうぐらいには好きだ。


まあ、所詮高値の花だ。こんな陰キャと言って過言ではない俺と付き合う可能性なんてそれこそ何百万分の1あるかどうかというレベルだろう、いや絶対ないな。


しかし、今日も美しいな。





******



5時間目の授業が体育だった。外で、テニスだったんだが…いや、結果がどうなったのかって?考えるだけで悲しくなってくる。東はサービスエースとりすぎて、途中から手加減して打っていたな。あいつバスケ部だよな?うますぎないか。そういう優しさがモテの要因なのか。


校庭の奥にあるテニスコートでの授業が終わると、そんなことに思考を巡らせながら、一人早めに教室に戻った。


教室には誰もいない…と思ったんだが、すでに一人いたようだ。誰だ?女子は確か、ソフトボールをやっていた、はず。


「「あ」」


六条さんだった。なんとなく気まずいので声をかけようかとおもったが、やっぱり勇気が出ずにやめ、席に戻ろうとした。そこで


「風見くん」


透き通った声音で自分の名前が呼ばれる。


「次の生物の授業なんだけど、追加教材を運んでほしいって言われてて」


両手をあわせ、あ!っといった表情でこちらを見つめてくる。目を見てくる…うぅ眩しい!


「男手がほしいなあ、なんて思ってたんだよ。もしよければ手伝ってくれないかな?」


可愛く、首を少し傾けながら六条さんが言う。


「っあ、了解です」


なんだ。作られた可愛さには騙されないぞ、と思っていたのにもかかわらずトゥンクって胸に来てしまったぞ、可愛い女子ってのはこんな少しの会話をするだけで男子を落とせるのか?


あざとかわいい。いやどうなんだ。これは計算された可愛さなのか。

それとも外国だとオーバーリアクションを取ることが多いからこんな仕草が当たり前なのか?


なことを考えながらも、教室にある段ボールを両手で持つ。


「あ、ええとごめんね。そっち重い方だったんだけど」


申し訳なさそうに六条さんが言う。

段ボール持て、って言ったからこっちもつことにしたんですけど!

そもそももう一方段ボールじゃないじゃん…

そこもご愛嬌だな。


「あー。大丈夫です」


そう答えておいた。


「代わりに生物の教科書もつよ」


両手で持ってるし落ちそうだから任せるか。


「あー申し訳ない。おねがいしてもいい?」


「もちろん!頼んだの私だもん」


にこっと微笑まれる。ああ、眩しいっ。


「あ、ちょっとまって前髪ながいから階段あぶないよ?とめる?ピン持ってるけど」



???困惑してしまった。髪か。確かにそろそろ切らないとさすがにまずいなと思っていたところだった。

でも、ピンでとめる?はびびったな。だけど生物講義室は三階だ。確かに危ないかもしれない。ここは気をきかせてくれてるんだからとめさせてもらうか。


「っあーすみません。お借りします」


前髪を左に寄るようにして、ピンでとめさせてもらう。うん。よくみえるな。

高校入学してからこれまでずっと目元まで隠した髪型してたからな。

やっぱ髪は短くしとくか。でも面倒だなあ…


段ボールを抱え、立ち上がりながらそんなことを考えていると、隣の六条さんから声が聞こえないことに気づく。


「あれ?どうかしました?」


六条さんは茹でだこになっていた。それはもう真っ赤。ピンの使い方が悪くて怒らせてしまったんだろうか。それとも顔がひどかったのか。


「ん?どうしたんですか?早くいかないと怒られるんじゃ?」


気になって、顔を近づけて言うと、何故かさらに赤くなって


「え、ちょ近づかないでよ」


と言われた。


俺の顔をみてそのひどさをもって嫌われたのかな…と内心傷つきながらも、なんとか気持ちを落ち着かせて、


「さ、いきましょう」


と言った。


「うん、そうだね!」


と少し顔をうつむけ気味にしたまま六条さんが言う。


えぇそんなに……


 


階段を上がりながら、六条さんから話しかけられる。


「風見君ってさ。付き合っている子とかいるの?」


唐突になんだ。陰キャの俺に彼女なんてできるわけないだろう。むしろ彼女になってくれ。と思いながら


「え?いないですよ(笑)逆にいると思いますか?」


それを聞いて、六条さんは少し大げさに驚いたようなしぐさをした。


「え?いないんだ~、ふーん…」


ボソッとそのあと何かを言ったような気がしたが、小さすぎて聞こえなかった。



それから、両方とも黙り込んだままで階段を上がっていき、もうすこしで三階までのぼりきる!というところで六条さんが再び話しかけてきた。


「風見君ってさ。どうすればお互いがお互いのことを好きになれると思う?」


なんだ。急に恋愛相談だろうか。

六条さんは頬を赤く染めながら、うつむき加減で目を合わせてくる。

その姿がちょうど上目遣いになっていて、またも心臓をやられそうになる。


「カップルが成立するための条件ですか?」


「そうそう」


んんと、なんだろうか。少し立ち止まって考える。大したことは言えないけど日々見ている父母の仲良い姿を思い浮かべて答える。


「俺は…お互いがお互いがお互いを信頼できるって思う気持ちなんじゃないかと思います。

始めは容姿や雰囲気、共通の趣味なんかに惹かれるところから恋って始まることが多いと思うんですけど、長く続く関係を目指すなら、お互いが“信頼”できるかということなんじゃないですかね」


「偉そうに言ってますけど、俺は恋愛経験なんてないですし、父と母を見ていてそう思っただけですよ、気にしないでください」


六条さんは真剣な面持ちで俺の話を聞いていた。陰キャな俺が六条さんに恋愛のことなんかで相談を受けても、ためになるような話は出来ないし、むしろ六条さんに好きな人がいそうな雰囲気を感じて、気になる人が誰かのものになってしまいそうなことに悲しさを感じる。


「ありがとう、そうか信頼か!でも私はもうわかっちゃったな。」


なんて、俺にはよく理解できない意味深な言葉をおっしゃる六条さん。やはり、気になる人がいるけどアタックに迷っているということか。

こういう話を本人から聞くと、無性にむなしくなってくるな。いままで何人も男子からの告白をスラッシュしてきた六条さんが付き合うのか…どんなやつだろうか。悔しいな。

相手もうれしいだろう。こんなに綺麗で優しく、陰キャな俺にもしゃべりかけてくれる六条さんなら……



「手伝ってくれて、ありがとね!いままで二人でお話したことなかったけど、風見君のお話すごくためになったよ。私も頑張ってみようと思えたよ。」


またも六条さんは俺の目をしっかり見て話す。


「風見君、目をそらして話しているみたいだけど、私の目をちゃんと見て話してよ。そのほうがこっちも気が楽だし」


うぅ。可愛すぎて顔を見ているだけで恥ずかしくなっちゃうんだよ!こっちは!と叫びたくなった。


「うん、わかったよ」




その後ピンを返し、六時間目の生物を受けた。


下校中に思い返す。六条さんが赤くなっている姿、可愛かったなあ…



******



家に帰り、プログラミングの学習を再開した。


俺は、中学入学当初からネット上のプログラミングサイトを利用して、プログラミングを学習し始めていた。

いまではhtml・cssから始めjavascript、phpと呼ばれる言語にまで手を出し、自分でいうのもなんだが、相当腕が上がってきている。

母方の叔母にもその才能に目を付けられ、今では叔母の経営する洋服屋のオンラインサイトの作成を頼まれている。


けっこう良い小遣い稼ぎになってやりがいも上々だ。


夕飯を食べ、その後も集中してプログラミングを続けているといつの間にか午後10時を回っていた。


ああ疲れたな。

伸びをして、少し歩きに行くか、と思い立つ。小腹がすいたのでスイーツでもコンビニに買うのも目的にしようと散歩に出かける。


コンビニに向けて歩いていくと、なんだか騒がしい声が聞こえてきた。


何があったのかと思い見ると、コンビニの入り口付近に、2人のチャラそうな男に囲まれている制服女子を発見した。しかも、制服が俺の学校と同じだということに気づく。


金髪の黒い服を着崩している男が女子に言う。


「ちょっと一緒に遊ばない?」


茶髪の革ジャンを着ている男も続ける。


「少し遊ばしてくれればいいんだよ。金もこっちで持つから。な、くるよな?」


絡まれている女子が言う。


「やめてください。いきません今から帰るところです」


その言葉は聞き入れられず男たちはまだ絡み続ける。


「なこといわずにさあ」


「きゃ!やめて!ちょっと、はなしてください!」


やばい。ついに力ずくで連れて行こうとしている。

陰キャな俺。勇気を出せ。ここでいかなかったら一生後悔することになる。どうかふみだせ。俺の足。


ふっー冷静になれ、よく考えろ。ここでいっても力では勝つことが出来ない。周りの状況を確認するんだ。約100メートル先に駅がある。確かその隣に交番があって警察がいるはずだ。警察を呼びに行くか。いや時間がない。急がないと。

だが…いや注意をこちらにそらすだけでもいいんだ。なら声を出して注意をこちらに引き付ける。よし!



ッスー


≪お巡りさん、女の子を誘拐しようとしてるやつらがいます!!≫


その瞬間チャラ男たちが周りを見回してうろたえているのが手に取るように分かった。


いまだ!!!!

最近は全力で動かしたことなんてない自分の足を限界まで稼働してその女子の手を握り、走った。


「こっち!!走って!!!」


眩く光る街頭を横目でとらえながら、暗い道を走る。必死に走る。


「おい!まて!」


チャラ男たちはそうは言っているが、周りの状況を再度見渡して分が悪くなったと思ったのか


「っち」

「面倒くさくなったな、逃げるぞ」


といって走っていったらしい。緊張しすぎていたのか、そこでの記憶があいまいになっている。ただ、いつも大声を出していなかったのにも関わらず、自分が思っているよりも大きな声が出ていたらしい。

周囲を歩いていた人の注目が一斉に集まり、事がうまくいったようだ。


よかった。助けられて。

でも、必死すぎたために、助けた女子の顔すら見れてなかった。


「大丈夫ですか?」


と振り向きながら尋ねる。



助けた女子は、膝をついて下を向いている。先ほどまで暗くてよく見えなかったのだが、よくよく見ると、髪が銀髪のようだった。

そこでふと気づく。うちの学校の制服で銀髪の女子?それって…まさか…

落ちつけ俺。

顔をあげ、息を切らしながら女子が答える。


「はあ、はあ、ええ、助けていただいてありがとうございっっ!」


顔を上げて目に入ったのは予想通り、六条さんだった。俺の顔は六条さんと同じく一気に赤くなっていたと思う。


「ええっ?風見くん?!」


至近距離で目を合わせた。六条さんも俺に気が付いたみたいだった。

そこではっとした。プログラミングをしている時は髪を上げていたんだった。今も誰に見られるわけでもなし、このままでいいだろ。という考えで家を出た。今日の学校での会話がよみがえる。この髪型にして、嫌がられたことを失念していた。

咄嗟のことだったためにしょうがないと思いつつも、頭の中でぐるぐると何かが動き回っているようでうまく返答できない。


「ああそうですけど…。この髪型ですいません」


「ええ!なんで謝るの?助けに来てくれてほんとありがとう!!!怖かった…私ひとりじゃどうしようもなかったよ。ほんとありがとう…ありがとう…」


最後は泣き出してしまった。

俺は六条さんに腰をがっちり掴まれ、重心がぶれたため、しりもちをついてしまった。

六条さんの良い匂いがする。



二人でコンクリートの地面に座りながら話す。

六条さんの泣いている姿をかわいいと思ってしまう自分を抑えつつ、六条さんが泣き止むのを待った。



俺のこと嫌いじゃなかったんだっけと思いながら、話し出す。


「え?だって六条さん今日学校で顔真っ赤にして怒ってたじゃないですか、俺の汚い顔見せるなんて悪いことしちゃったなあって思ったんですけど」


俺は顔を真っ赤にしながらもなんとか答える。だが、六条さんにはそれがおかしく映ったようだ。


六条さんは涙でぬれた目元をぬぐいながら、笑って言う。


「えっ!なにそれ可笑しい。風見君。学校のことだけど、私だっていうの恥ずかしいんだよ!その…顔がかっこいいから、照れてただけだ…よ?」


「え?」




学校の中の最高カーストにいる六条さんが俺の顔がかっこいいだって?

聞き間違いかと思ったが、どうも本当らしい。

その言い方ってもしかして俺にも気があるのかな?って思っちゃうじゃん!!ああ、これだから六条さんは…と思いつつも、いやここしかない。勇気をだせ。今しかない。もしかしたら、俺の人生で好きな人とこんなに親しくしゃべれるのは今しかないかもしれない。当たって砕ける気持ちだ。いけっ!いまだ。告白するんだ!!と思う自分もいる。


だが、ここで神様が僕に力をくれたのだろうか。

その言葉は考えるともなくスッっと出ていた。


「六条さん。僕と付き合ってくれませんか」


出てしまった言葉に、自分も放心状態になりながら、それでもやはり六条さんの方を見る。


「え?え?ほんとにいいの?こちらこそ、風見君のこと気になってたよ。こんな私だけど付き合ってもらえる?風見君って本当にいろんな意味でカッコいい人だね、心の中が美しい人なんだなっつてことが今日だけでたっくさんわかったよ、嬉しい」


了承されてしまった。あの六条さんと、付き合えることになってしまった。

ああ、なんてことだ。自分が見ている景色なのに、ドラマでも見ている気分になる。

それからは互いにどうでもいいような、たわいのない話をした。

こんなに誰かと、緊張せずに話せたのは初めてだった。六条さんがかわいすぎて僕が言葉に詰まることも多かったんだけど…




話しながら無意識に考えていた。

世の中には不思議なことが多い。絶対にありえないと思っていたことが現実になったり、その逆で絶対できると思っていたことが出来なかったりする。

“絶対”なんて言葉信じちゃいけないな。

心の底から思った。




⋯――――「「恋人成立、しちゃったね」」



あの日、六条さんとそう言い合えて良かった。



やっぱり、六条さんの可愛さにはどうしても勝てない。

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