第31話
キッチンを出るとタイミングが良いのか悪いのか帰宅したばかりのアードリアンと鉢合わせる。
「おかえりなさいませ、遅かったですね」
「ただいま、ベルンの公務を手伝って居たんだよ」
頭を撫でてくるアードリアン。後ろから妬ましそうな視線を感じるけど家族なのだからこれくらいは許して欲しいところだ。
彼の視線が私の後ろに行く。
「お兄様、私の友人のフィンスターニス公爵令嬢です」
機会が無くアードリアンにはアレクシアの事を紹介していなかった。
「初めまして、フィンスターニス公爵令嬢。リーゼの兄のアードリアン・フォン・ヴァッサァです。どうぞリアンとお呼びください」
「お初にお目にかかります、リアン様。アレクシア・フォン・フィンスターニスでございます。私の事もシアとお呼びください」
家族と友人が挨拶をしている姿を見るのってむず痒いですね。
二人の挨拶が終わるとアードリアンの視線がユリアーナの方に向いた。
目が合うだけ揃って赤くなるのだ。そろそろ両想いだと気が付いて欲しい。
アレクシアは二人の様子を見た瞬間、察したらしく私のところにやって来る。
「あの二人って両想いなの?」
「気が付いていないのは本人だけよ」
耳打ちしてくるアレクシアに答えると「どうして教えてあげないのよ」と苦笑いを向けられる。
教えても良いのですけど当人同士の問題ですからね。
第三者が口を出すというのも無粋な気がする。
「お兄様、私はシアに屋敷を案内して来ますね」
「ユリアはごゆっくり」
私の自室とダイニング以外は案内していないのだ。
丁度良いとアレクシアを連れて二人のところから立ち去ろうとするとユリアーナに肩を掴まれる。
「ち、ちょっと、何してるのよ…」
「クッキーを渡す機会があった方が良いでしょ」
「だからって…」
「クッキーを渡したらこっちに合流してね」
良い機会だから告白して欲しいとは思いますが黙っておく事にしましょう。
にっこりと微笑んで「屋敷内だから護衛は大丈夫よ」と言葉を続けてアレクシアを連れて行く。後ろから拗ねたような声が聞こえたような気がするけど聞かないふりをした。
「二人きりにさせて良かったの?」
「フィーネ、あの二人に誰も近づかないようにしておいて」
「畏まりました」
フィーネは出来る侍女ですからね。
誰も近づかせない事は容易でしょう。
「私達はのんびり屋敷巡りでもしましょうか」
「リーゼっていい性格しているわね」
苦笑いのアレクシアに「気のせいよ」と笑いかけた。
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