第17話

レオンハルトが学園に通い始めるのは一週間後から。その事は生徒達にも伝えられている為、どこか落ち着きがない様子だ。特に婚約者のいない貴族令嬢は自分磨きに時間をかけている。


「レオンハルトの婚約者の座を狙っているってところかしら」


ユリアーナの言葉に苦笑いが漏れたのは否定が出来ないからだ。

貴族令嬢は出来るだけ高位身分の男性との婚姻を望む。婚約者のいないレオンハルトがやって来るとなっては狙うのも無理はないのだ。


「王太子の婚約者って楽じゃないのに…」


狙うのは勝手だけど仮に婚約者になれたところで楽な生活は送れなくなる。毎日のように妃教育を施されて弱音を吐いたところでやめては貰えない。大変な思いをさせられるだけなのだ。

ユリアーナは苦笑いで「リーゼが言うと言葉の重みが違うわね」と肩を竦めた。


「みんな王太子の婚約者って立場しか見ていないのよ」

「ユリアは狙わないの?」

「馬鹿にしてる?」

「ちょっとした冗談よ」


ユリアーナはアードリアン一筋だ。

両想いなのになかなか進展しない二人を見守る側の気持ちにもなって欲しい。


「みんなが努力してもレオンハルトが興味を示している令嬢はリーゼなのよね」

「私はベルンの婚約者だからね」

「分かってるわよ。ラブラブだもの」


学園でもベタベタしてくるベルンハルトのせいで若干バカップル扱いを受けているのは納得いかないけど、彼を狙う人が減るなら別に良いかと思い始めている。


「何の話をしてるの?」


声をかけて来たのはアレクシアだった。

ユリアーナが「リーゼ達がバカップルって話よ」と返事をすると納得の表情を向けられる。

他の貴族令嬢と違って落ち着いた様子を見せるアレクシア。もうすぐ初恋の人と会えるというのに浮き足立つ様子がないのは中身が大人だからだろうか。


「シアはもうすぐ初恋の人に会えるのに落ち着いているのね」

「そう見せているだけよ。本当はドキドキしてるわ」


どこか悲し気に、どこか嬉しそうに笑うアレクシア。

複雑な思いを抱えている彼女の力になれたら良いのに。


「そういえばリーゼ達は彼に会ったのよね。どんな感じだった?」

「少し寂しそうに感じたわ」

「寂しそう?」

「私達がそう感じただけよ。他の人は誰もそんな事は言ってなかったわ」


うちの家族は怒っていましたからね。

アレクシアはよく分からないと首を傾げる。

その瞬間、授業開始のベルが鳴り響いてしまった。


「また後で聞かせてね」


アレクシアの言葉に頷いて席に戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る