幕間1※アレクシア視点

私アレクシア・フォン・フィンスターニスと一人称がわたくしから私になったのは五歳の時だった。

隣国であるメテオーア王国からの帰り道に私は酷い高熱に見舞われて、眠っている間に知らない世界の光景が見えた。

日本という島国で、高校と呼ばれる場所で私は教師をしていた。

趣味は乙女ゲームをやる事。


「この世界は…」


ようやく目が覚めた私はどうすれば良いのか分からなかった。

最後にやっていた乙女ゲームの世界に転生など普通ならありえない事だったから。


「まさかレオンルートの悪役令嬢になっちゃうなんて」


前世から大好きだったキャラの幼馴染。

そして推しキャラルートの悪役令嬢。

それがアレクシアだった。


「でも、もう好きになっちゃったのよね」


レオンハルトと過ごした時間は短いものだった。それでも幼いながら彼に惹かれるのに時間はかからなかった。

記憶を取り戻したってこの気持ちだけは変わらない。


「どうしたら良いの…」


結局どうするべきなのか分からないまま時間だけが過ぎて行った。

気がつけば私は十五歳になり、乙女ゲームの舞台である学園に入学する直前。


「大人しくしておきましょう」


これが私の出した結論だった。

レオンハルトがやって来て、ヒロインに惹かれたとしてもこの選択に後悔はないと思う。

本当はヒロインが攻略にミスして、レオンハルトが私を思い出してくれたら良いと思ってしまう最低な気持ちに蓋をした。


「どうなってるの…」


入学式の日、学園に行くと早速イベントが発生していた。

実際はゲームと全く違う展開が繰り広げられていたのだけど。

ゲームの初イベントはメインヒーローであるベルンハルトが転んだヒロインを助けるところから始まるのに。


「なんでベルンハルトはヒロインを助けないの…」


ベルンハルトが仲睦まじそうに連れて行ったのは悪役令嬢であるトルデリーゼだった。

こういう時に考えられるのは…。


「トルデリーゼも転生者?」


悪役令嬢に転生して断罪を回避するのは小説だとよくある話だった。

ただ普段のトルデリーゼはゲームキャラそのままといった感じでとにかく無表情。でも、ベルンハルトと話す時だけは幸せそうで。話しかける勇気もない私は彼女が前世の記憶を持っているのかどうか分からなかった。


「あのヒロインは間違いなく転生者ね」


ゲームの中では攻略対象者達とゆっくり恋を育む純真な少女という感じなのにここの世界では違った。

とにかく攻略対象者と絡もうとして失敗して嫌われてしまってる。

ゲームならここでレオンハルトとヒロインの恋愛は成就しない。彼は他の全てのキャラを攻略してから攻略出来るキャラだったから。


「でも、現実では分からないわね」


トルデリーゼやヒロイン、攻略対象者達がゲームとは違う動きをしている。それならレオンハルトがヒロインに惹かれる可能性だって普通にあるのだ。

タイミングが良いのか悪いのかそんな風に考え始めた頃、レオンハルトがこちらの国にやって来ると親から聞いた。


「どうするべきなのかしら」


それはトルデリーゼに話しかけられる前日の事だった。

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