第6話
アレクシアと話し合ってから二週間、いよいよ本日はレオンハルトがグリモワール王国に入国を果たす。
「行きたくないわ」
「もう諦めなさいよ…」
王城に向かう馬車に揺られながら溢した愚痴に反応したのは前の席に腰掛けるユリアーナだった。
王族であるレオンハルトを出迎えるのは本来なら王族の役目。この国の王太子であるベルンハルトの婚約者として一緒に出迎える事になったのだ。
聞いたのは昨日の昼だった。
前もって聞かせて欲しかったが陛下と王妃様に文句を言えるはずもなく「了解しました」と返事をする他なかったのだ。
「ベルンハルトと結婚するのなら隣国の王太子と仲良くするのは当たり前の事なのよ?」
「分かっているわよ」
次期王太子妃として友好国の王太子と仲良くするのは当然の事である。それくらい私だって分かっているのだ。分かっていても憂鬱な気分になってしまう。
「私まで出迎える必要ってあるの?」
「あるでしょ。次期王太子なのだからね」
「シアに代わって貰いたいくらいよ」
「馬鹿じゃないの」
「ちょっとした冗談よ」
ベルンハルトに調べて貰った結果レオンハルトは半年前に起きた馬車事故のせいで記憶を失っているらしい。
記憶喪失の状態で隣国に留学する事は反対意見もあったそうだ。しかし本人の希望と環境の変化で記憶が甦るかもという考えの結果、留学に至ったというわけである。
つまりアレクシアが出迎えたとしてもレオンハルトは何も覚えていないのだ。
彼女を余計に傷つけてしまうだけだろう。
「アレクシアが気の毒よね」
アレクシアにはレオンハルトの記憶喪失の話を教えている。彼女は苦笑いで「しょうがない」と言うだけだったけど。全然しょうがないって表情じゃなかった。
「ゲームでレオンハルトの記憶が戻るのってイベントあったっけ?」
「主人公の告白シーンじゃなかった?」
ゲームのレオンハルトは最後に主人公に告白されてフラれるという場面で突如記憶を取り戻すのだ。好きだと言う主人公と過去のアレクシアが重なって見えて記憶を取り戻すという強引な展開だった気がする。
「あれは結構無理やりだったわね」
「最後のアレクシアとレオンハルトの結婚式シーンが良かったから気にしていなかったけどね」
何度見てもアレクシアとレオンハルトの結婚式のスチルは素敵だった。
「とりあえずレオンハルトに会ってみないと対策も考えられないわね」
「そうね…」
ふと外を見ていると王城が近くに見えてくる。
現実のレオンハルトはどんな人なのだろうか。
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