幕間1※エリーアス視点
試合前だというのに仲睦まじいベルンハルト殿下とトルデリーゼを見て胸が締め付けられる。
良い加減に諦めないといけない。
何度その気持ちにさせられたのだろう。頭では分かっているのにトルデリーゼを諦めきれない自分に呆れる。
「そうだ、ベルン様」
楽しそうにベルンハルト殿下に声をかけるトルデリーゼ。
半年程前から二人の距離は急激に縮まった。
その前まではギクシャクしているようだったのに一体何があったのだろうか。聞いたところで無関係の僕が知る事はないのだろう。
急に距離を詰め始めた二人に妙な焦燥感を覚えたのは記憶に新しい。
「ブレスレット、ありがとうございました」
そう言って嬉しそうにブレスレットを撫でるトルデリーゼ。そんな彼女を愛おしそうに見つけるベルンハルト殿下。
二人の間には誰も割り込めない空気が流れていた。
「リーゼに喜んで欲しかったからね」
「直接渡された方が嬉しかったですよ」
「次からは気をつけるよ」
トルデリーゼの笑顔をいつだって独占しているのはベルンハルト殿下だ。
僕やディルク達に笑いかけてくれる事はあるけど、ベルンハルト殿下に向ける笑顔は全然違う。恋をしている女の子の笑顔だ。
「辛いなら先に出ていた方が良いですよ?」
声をかけてきたのはトルデリーゼの専属侍女であるフィーネだった。僕の気持ちは本人以外みんな気が付いている。彼女も例外ではない。
優しい侍女の気遣いに僕は首を横に振った。
「辛いけど二人が幸せそうなら良いんだよ」
嘘じゃない。でも、本心かと尋ねられたら苦笑してしまうだろう。
出来る事なら邪魔をしたいと思っている自分もいるからだ。しかしそれを一番望んでいないのも自分である。
複雑な気持ちなのだ。
「次は王太子殿下との試合ですね」
「勝てたらリーゼ様に告白しちゃ駄目かな」
「それは王太子殿下に聞いてみたら良いのでは?」
しれっと返してくるフィーネに苦笑する。
全くもってその通りだ。
トルデリーゼ達の会話がひと段落したのを確認したフィーネは「それでは失礼します」と頭を下げて大切な主人のところに向かった。
「じゃあ、私達はもう行きますね。ベルン様もリアス様も頑張ってください」
手を振って出て行くトルデリーゼとユリアーナ嬢、そしてフィーネを見送った。
「僕達もそろそろ行こうか」
「はい…」
「リアス?」
「あの、ベルン様…。頼みがあります」
ベルンハルト殿下に頼み事など普通ならあり得ない。だけど、学園では身分は関係なくなる。今しかない絶好の機会なのだ。
「次の試合、僕が勝ったらリーゼ様に告白する許可をください」
ベルンハルト殿下は驚かなかった。笑いもしなかった。
ただ真っ直ぐ僕を見つめている。
「二人が想い合ってるのは分かってます。でも、僕は…」
トルデリーゼが好きだ。
義母に捨てられた僕を救い出すきっかけを作ってくれた人。
大嫌いだった愛称を捨てさせてくれた人。
僕に恋を教えてくれた人。
諦めきれない。可能性が無かったとしても伝えずに捨てきれないのだ。
「勝てたら好きにすれば良い」
ベルンハルト殿下は悩んだ末、告白の許可を与えてくれた。
勝てたらという条件付きだけど機会があるだけマシだ。
「言っておくけど負けてあげるつもりは毛頭ないよ」
「僕も負けません」
「そうか。お互いに頑張ろう」
僕は好きな人の為に戦う。
この試合だけは…。
「絶対に負けたくない」
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