第31話
王弟が怖いのか周りに集まっていた人達が解散していく。最後に残ったのは私とヘンドリック、フィーネの三人だけだ。
「今回の件、ヴァッサァ公にも話しておきますか?」
静かになった廊下でヘンドリックから尋ねられた。
フィーネを見ると「話して貰うべきです」と頷かれるが父に言ったら騒ぎそうだ。
「いえ、話さなくて結構です」
「リーゼ様!」
心配してくれるフィーネの気持ちも分かるけど父に出て貰うような場面じゃない。
「まだ学生のいざこざの範疇です」
「向こうは親が出て来ましたよ」
「私が何かされたというわけじゃありませんから。忙しい父に出て貰う必要はないです」
もしシェーン伯爵に罵倒されたとしても父の力は借りない。
父は良くも悪く影響力のある人。下手をすれば罵倒一回でシェーン伯爵の爵位が剥奪される可能性も出て来てしまうのだ。
「今回の事で伯爵もリーゼを敵視する可能性がありますよ」
「あれくらい分かりやすく敵意を出してくれるならこちらもやり易いですから」
ご心配なく。
そう笑えばきょとんとした表情を向けられます。
「親の権力に頼ろうとは思わないのですか?」
「自分の力だけで解決出来るならそれに越した事はありませんよ」
傷害沙汰になれば親に頼りますがそうじゃないなら自分だけで解決したい。
それに。
「私の父を巻き込むと面倒な事が増えそうですから」
「面倒ですか…」
「私、面倒な事ってあまり好きではないので」
「素直ですね」
肩を竦めながら笑うヘンドリック。つい先程まで冷酷な一面を見せていた人物とは思えないくらい物腰柔らかだ。
「正直な話をするとリック先生が駆け付けてくれて良かったと思いますよ」
「面倒な事を押し付けられる、と」
「言い方が悪いですね」
今度は私が肩を竦める番だった。
「公爵はともかくベルンには話した方が良いですよ」
「うっ…」
「ずっと黙っておける訳がないですからね」
「そうですね…」
ベルンハルトに話したらまた余計な心配をかけてしまうだろう。
心配だけで終われば良いのですが…。
私に何もしていないシェーン伯爵に被害が広がるのは避けたい。
あの方は娘を想っていただけなのですから。
「嫌そうな顔ですね」
「リーゼ様、あのへ…王太子殿下には伝えるべきですよ」
変態って言わなかった事は褒めてあげます。
目の前に居る人はベルンハルトの叔父なのだから。
「分かってますよ。ちゃんと話します」
「私が伝えておきましょうか?」
「それはやめてください!」
つい大声を出してしまいました。
周りを見ると誰も居らず安心して安堵の息を吐。他の人からベルンハルトに伝わる方が面倒な事が起きてしまいそうだ。
私から伝えないといけない。
「あの…」
驚いたまま固まっているヘンドリックに声をかけるが反応がない。
「ふっ…ははっ…!」
「え?」
「あははっ…!」
大笑いしていますよ。
というか昔似たような光景を見た気がするのですが。
「リック先生?」
お腹を抱えて笑う彼に首を傾げた。
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