第14話

解散と言われても部屋を出て行こうとする人は居なかった。どうしたのだろうかと首を傾げるがすぐに理由が分かる。どうにかしてベルンハルトとの繋がりが欲しいのだ。


「リーゼ、ユリアーナ嬢、ドンナー先生のところに行こう」

「えぇ」


席を離れようとするとユリアーナから「リーゼと話したがっている子達が居るわよ」と言われる。周りを見渡せば数名の男子生徒に見られていた。しかし今日は疲れてるのでお話はまた今度にして欲しい。


「疲れているから早く帰りたいの」


そう返すとユリアーナは苦笑しながら「分かったわ」と返事をする。疲れているのは主人公による襲撃事件のせいだ。

ヘンドリックに挨拶を終えたら帰らせて貰おうと三人で向かった。


「ドンナー先生」


廊下に出ると教室からそう離れていないところにヘンドリックの姿が見えてくる。ゆっくりと歩く彼を呼び止めたのはベルンハルトだった。


「ん?」


振り向いたヘンドリックは誰かに似ているような気がした。

気のせい?

考えてみるが誰と似ているのかさっぱり分からない。


「ベルン、どうかしましたか?」

「叔父上に紹介したい人が居るので連れて来ました」


ベルンハルトの呼び方が叔父上に戻っている。

叔父に紹介する場面だから間違ってはいないと思う。


「僕の婚約者のトルデリーゼ嬢です」

「知っていますよ。自己紹介は先程聞いたので改めて名乗る必要はありません」

「はい、分かりました」


笑顔で対応してくれる。

気を使われているのがよく分かる。


「私はベルンの叔父です。リックで構いませんよ」

「流石に先生を愛称で呼ぶのは…」


前世だと気軽に先生にあだ名をつけていた気けどこの世界では難しい話だ。


「叔父上、あまりリーゼに近づかないでください」

「君が私に紹介してきたのですよね?」

「親族なので一応です」


不満そうに言うベルンハルト。心配しなくてもヘンドリックは私を好きにならないし、私が彼を好きになる事はないのに。


「とにかくリックで構いません私は親しみやすい先生を目指しているので他の生徒にも呼んで貰います」


彼は王弟で公爵なのだ。

生徒から一線引かれていてもおかしくはない。親しみやすい先生を目指すのは良いと思う。


「では、リック先生」


他の人にも呼ばせるなら良いだろう。

そう思って愛称呼びをすると嬉しそうに笑われた。


「しかし変な勘違いされたら…」

「リーゼは近いうちに私の姪っ子になるのですから誰も勘違いしませんよ」


そういう問題なのだろうか。とりあえず他の生徒が呼ばなかったら呼ばないようにしよう。

それよりも勝手にリーゼと呼ばれている事が気になる。


「勝手にリーゼと呼ばないでください」

「ベルン、反抗期ですか?」

「違いますよ」

「別に愛称くらい良くないですか?」


ね、と顔を見られました。

ベルンハルトは不満そうだ。でも私の義理の叔父になる人だから別に愛称くらいは呼ばれても良い。


「授業中はやめてください」

「授業中こそ呼びたいのですが…」

「理由は何ですか?」

「トルデリーゼって呼ぶの長くないですか?」


思った以上にくだらない理由で苦笑いだ。

そもそも殆どの生徒が長い名前を持っていると思う。みんなの事も愛称で呼ぶ気なのだろうか。


「家名で呼んでください。ヴァッサァ、と」

「堅苦しいですね、却下」

「もうリーゼで良いです」


どう足掻いても愛称呼びにされそうな気がするので早々に諦めた方が良さそうだ。

別に減るものじゃないし、呼ばれるのが嫌でもない。他の生徒には上手く誤魔化せば良いだろう。


「リーゼ、良いのか?」

「疲れましたので」


残念そうにするベルンハルトには申し訳ないと思うけどこれ以上は本当に面倒臭そうだ。

しかし本当に不思議な人である。失礼な話だけど目の前に立つヘンドリックには王族らしさがないのだ。


「ベルンもリックで良いですよ」

「そうですね。そうさせて頂きます」

「用事は挨拶だけですか?」

「すみません。お忙しいのに呼び止めてしまって」

「いえ、全然。私は仕事早いので」


ヘンドリックは意気揚々と笑う。

やっぱり誰かに似ているような気がする。


「リーゼ、どうかしましたか?」

「いえ…」


私はどこかでヘンドリックと会った事があるのだろうか?

疑問だけが心の中に残った。

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