第31話
ベルンハルトにプレゼントを贈ると決めてから一週間が経った。今日はラント商会が屋敷に訪れる日だ。
エリーアス達からのアドバイスは揃いも揃って私からのプレゼントなら何でも喜ぶと思うだった。
ベルンハルトは王太子だ。私から贈り物をせずとも望む物は手に入ると思うけど何かあったでしょ。
「結局何を贈る事にしたの?」
朝早くから屋敷に訪れていたユリアーナに尋ねられる。
「万年筆ね。出来るだけ普段の生活で使える物が良いと思って」
筆はいくらあっても困らない。書類仕事が多い公務で使えるし、ノートを写す事がある学園生活でも活用出来ると思う。
時計を贈るという選択肢もあったけどベルンハルトが王家の紋章入りの懐中時計を持っている事を知っている。プレゼント候補からは即除外だった。
私の答えに「良いと思うわ」と笑うユリアーナに胸を撫で下ろす。
「それにしても実用品を選ぶあたり日本人って感じがするわね」
「そう?」
「普通の貴族ならアクセサリーを贈っておけば良いって感じがあるもの」
「それは偏見な気がするけど…」
確かにベルンハルトから貰う物ってアクセサリー類が多い気がする。後はお茶会で着る用のドレスだ。
そういう物を贈れば間違いなく喜ぶと思っているのだろう。
彼から貰える物なら何でも嬉しいので良いけど。
「リーゼ様、ラント商会の方がいらっしゃいました」
「すぐに向かうわ」
部屋の外からフィーネの声が聞こえてすぐに返事をする。
今日ラント商会を呼び寄せたのは母だ。
私が学園に入学する前に祝い品を購入するらしい。
居合わせて良かったのかと思ったが「一緒に選んで貰った方が良いわ」と気遣って貰った。
「ユリアンに会えると良いわね」
「来ているのは商会長よ」
「流石は公爵家。大商会の長が自らお出ましとは」
「だからユリアン君が来る事はないわ」
ユリアン君に会えたら会えたで嬉しいけど推しと直接話せると考えただけで動悸がしてくる。
まともに話せる気がしないので彼の事は遠くから見つめるだけで終わらせたい。
「推しは尊い存在。遠くから見つめるだけで良いの」
「公爵令嬢が平民を尊いって…。気持ちは分かるけどね」
人前では言いませんよ。
ベルンハルトには言っちゃいましたけどね。それで怒らせたのだから二度も同じ事はしない。
「ラント商会が来る事はベルンハルトに伝えたの?」
「一応ね」
「怒って居なかったの?」
「ベルンもユリアン君が来ると思っていないみたいだから何も言われなかったわ」
ただ目が据わっていた気がするけど。
部屋を出てユリアーナとフィーネと一緒に応接室に向かう。
「お待たせしました」
礼をしてから顔をあげるとぴたりと固まった。
どうしてユリアン君が居るのでしょうか。
助けを求めるようにユリアーナを見ると同じように驚いた表情を浮かべていた。
「トルデリーゼ様、お久しぶりでございます」
「あ、はい。お久しぶりですね、ラント商会長」
商会長から声をかけられて咄嗟に挨拶しましたけど視線はユリアン君に向いたまま。
彼は次期商会長だ。別に来ても不思議じゃないのだけどまさか本当に来るとは思わなかった。
「トルデリーゼ様、こちらはうちの倅でしてね。ユリアンと言います」
存じてます。
前世の頃は部屋にポスターを飾るほど好いていましたから。
とりあえず挨拶が先ですね。
「初めまして、ユリアンく…さん。トルデリーゼ・フォン・ヴァッサァと申します」
思わず君付けしちゃいそうだった。
別におかしくはないけど初対面の同い年の公爵令嬢に君付けされたら戸惑わせてしまいそうだ。
「こちらは侍女のフィーネと護衛のユリアーナです」
ぺこりと頭を下げるフィーネとユリアーナ。
ユリアン君は緊張しながらも二人に視線を向けてぺこりと頭を下げる。
緊張している姿も可愛い。
「アホっぽい顔になってるわよ」
見惚れているとユリアーナから背中を突かれ小声で言われる。
アホっぽい顔って…。
無自覚だったので忠告してくれたのは感謝しかない。そう思っているとユリアン君が挨拶を始めてくれた。
「お、お初にお目にかかります、トルデリーゼ様。ユリアン・ラントと申します。よろしくお願い致します!」
天使の笑顔を見せられた。
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