第18話

王城に到着した途端、深い溜め息を吐く。

もう疲れたので帰りたい。これからお茶会に参加しなければいけないのが酷く面倒だ。

ふかふかお布団で寝ていたいです。


「リーゼ、手を」

「えぇ」


ベルンハルトのエスコートを受けながら馬車から降りると痛いくらいの視線を感じる。

そう感じるだけの人数がこちらを見ているのですからね。

分かっていたけど嫌な視線ばかりだ。

もう帰りたい。


「ベルンハルト殿下!」


一人の女の子が走って来ます。

文官をしている伯爵の娘だ。

王城で走る事も、許可なく王族に声をかける事も無礼な振る舞いに値する。

自身の娘が非常識な振る舞いをすると思っていなかったのだろう彼女の父親である伯爵は奥で驚いた顔をしていた。


「誰に許可を得て話しかけているのですか?」


笑顔なのに目が笑っていないベルンハルトは冷たい声を出す。

無礼ばかりの私が言えた事ではないですが彼女の行いは良くない。

言葉では失礼を重ねる私でも礼儀作法くらいはまともに行いますよ?じゃないと貴族社会で生き残れませんからね。


仲の良い人同士だったらルールは無視ですが、あくまで非公式の場での話。

身分が下であるユリアーナ達も個人的なお茶会では気さくに話してくれますが他所の家で会うと礼儀正しく接してくれます。


この脳内お花畑の子がちゃんと認識してるのか知りませんがここは王城、加えて今は大勢の目があります。

つまりは普通の家で行われるお茶会での礼儀より完璧な礼儀を求められる場なのだ。

彼女が話しかけた相手は王太子殿下。本来なら簡単に口を聞く事も許されないような雲の上の存在。周りの目も気にせず声をかけられる度胸だけは尊敬ものだ。


「だめ、ですか?」


うわぁ、あざといです。

可愛らしく首を傾げていますよ。

目を背けたくなるほどの無礼っぷりに苦笑いが漏れる。奥にいる彼女の父親に目をやると真っ青になって固まっていた。

彼が望んでいたのか知りませんけど出世への道は無くなりましたね、可哀想に。

小説に出てくるようなまともな親じゃなかったらここで図々しく出てきそうですけど、それをしないあたり良識はありそうなので余計に気の毒だ。

その良識を娘さんに与え忘れたのかも知れませんね。


「駄目に決まっていますよ」

「なぜですか!」


何故って自分の行いが許される事だと本当に思っているのでしょうか。

どんな教育を受けさせているのだと呆れてしまう。


「そんな事も分からないようなら登城しない方が良いですよ。二度と僕に近づかないでください」

「嫌です!」


呆れました。

優しい言い方をしたけど今のベルンハルトの言葉は命令と同義。

普通なら分かるはずなのに拒否をするとは。


「リーゼ様は仲良さそうにしてるじゃないですか!」


婚約者だからに決まってるでしょう。そうでなければ近づきません。


「リーゼ様だけじゃなく私とも仲良くしてください!」


これはあれですか?

電波系ヒロインみたいな感じですか?

主人公に会う前からこんなお花畑さんに会えるなんて笑っちゃいますよ。

それに少しだけ苛立つ。


「誰の許可を得て私の愛称を呼んでいるのですか?」


思った以上に低い声が自分から出てきた。

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