第1章 八歳

第1話

事故に遭って目が覚めたら異世界に転生って自分の身に起こると凄く複雑よね。

しかもハマっていた乙女ゲームの悪役令嬢。

そして幼少期時代からスタートって。

小説のお決まりのパターンだったとしても笑えないわ。


「夢じゃないのよね…」


ベッドの脇に置いてある手鏡で自分の顔を再度確認する。

ゆるふわの銀髪、つり目がちな琥珀色の瞳。形の良い薄桃色の唇に、鼻筋が通った整った顔立ち。

分かっていたけどやっぱり乙女ゲームの悪役令嬢トルデリーゼの顔ね。

前世に比べると凄い美少女っぷりだわ。


「リーゼ!」


むにむにと自分の頬を撫でていると大きな音を立てて部屋の扉が開いた。息を荒くしながら中に入って来たのは私と同じ銀髪を持つ、翠眼の美少年。

名前はアードリアン・フォン・ヴァッサァ。

この美形っぷりは正しく乙女ゲームの攻略対象者だわ。そしてトルデリーゼこと私のお兄様。

キャラデザが気合い入りすぎよ。最高ね。


「リーゼ!僕のリーゼ!目を覚ましたんだね!」


手を大きく広げて近寄ってくるアードリアンに怪訝な表情を見せる。

僕の、っていずれヒロインに惚れ込んで妹を追い出す人が何を言っているのでしょうね。


「リアンお兄様、うるさいですわ。病人なのですからもっと静かにしてください」


騒がしい声に頭がガンガンして顔を顰めた。

あ、つい本音が。

すぐに口を押さえるがアードリアンは驚いた表情をしていた。


「リーゼ、どうしたの…?」


驚くのも仕方ないわよね。

この世界の人達が知っているトルデリーゼという人物は基本的に喋らないし、表情も変えない。

前世の記憶を取り戻した私はその理由を知っている。ゲームの公式ガイドブックによると疲れる事をしたくないから無口無表情を貫いていたと書いてあった。

トルデリーゼは悪役令嬢にしては珍しい無気力人間なのだ。

よく考えたら無気力な子が主人公の女の子を苛めて婚約者の第一王子に断罪されるっておかしくない?

もしかして婚約破棄されたくて苛めたふりをしていたのかしら。

第一王子との結婚が嫌だったから?

それとも公爵令嬢でいるのに疲れたから?


「トルデリーゼの性格的にどっちでもあり得るわね…」

「り、リーゼ?」

「あら。リアンお兄様、まだ居たのですか?」


また本音が溢れてしまった。

きっと疲れているからだろう。

言い訳じゃないけど一応病人なのよ。身体が怠いの。単純にこの体に前世の私の意識が馴染んでないからかもしれないけど。


「り、リーゼが…」

「なんですか?」


流石に怒られるかしら。

取り繕う元気がないので出来れば説教はやめて欲しいところだ。


「リーゼが反抗期を迎えたぞー!」


は…?

ものすごい勢いで部屋を飛び出していくアードリアンに驚くしかなかった。

いや、だって、あれ。


「どうして喜んでるのよ…」

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