第7話 ●変身 ~ 他のなかったのかな?

「いやー、解決してよかったねー。やっと解決できたよかったよかった。まさかトウリョがそんなことやっていたなんてねー。」


一通りの話が終わったあと、領主のガメツがまるで他人事のように言ってきた。




「ガメツさん、あなたにはお伝えすることがまだあります。」


「トウリョさんがすり替えた優良な石はあなたの手元に行っていますよね。しかもあなたはその石を不正に他国に売り渡している。間違いありませんね?」


カナタの指摘にガメツの表情から笑顔が消えた。




「へー、何を根拠に?」


「根拠?ガメツさん、愚問ですね。ここまで明確に指摘する、ということはブラフではなく、明らかな証拠に基づいて指摘している、ということに気付いているでしょ?」


「この一週間、あなたも張らせてもらいました。そうしたらあなたが変装して、トウリョさんとやり取りしているところ。そしてあなたの屋敷から他国の人間が、夜石を持ち出しているところを確認しました。」


「あ、ちなみに夜張らせてもらった時は、フレックスタイム制を利用しましたので。」


そのカナタの指摘にガメツは表情を変えずに、ジっと聞いている。


それを見てカナタはつづける。


「規定には、粗悪な石と判定されたものは、


『鑑定人、領主、もしくは国が破棄する』とあります。


鑑定人のジャジーさんに確認したところ、粗悪な石の処理は、領主であるガメツさん、あなたに任せてある、と言っていました。」


「そしてトウリョさんが、優良な石と粗悪な石をすり替えるためには、粗悪な石が手元になければいけません。その粗悪な石ですが、ガメツさん、あなたがジャジーさんから処理を任されたものを、適切に処理せず、トウリョさんに渡していましたよね?」


「以上になりますが、何か反論はありますか?」


カナタの立て板に水の説明が一通り終わる。


相変わらずガメツは表情を全く変えず、何を考えているかその表情からは読み取ることはできない。




だが、少し間があったその後、


「コネクト君、この件は国王に報告するの?ボクは一応王の遠縁にあたるんだけどね。」


ガメツはコネクトに対して、自分の立場を利用した圧力をかけてきた。


「ガメツ様、今回の件は国王すべて報告させていただきます。お立場がどうか、という問題ではございません。わたしはわたしの職務を全うさせていただきます。」


コネクトは凛とした表情で、明確に返答した。


カナタはその言葉を聞いて、思わず心の中で手が痛くなるほどの拍手を送っていた。




「そっかー、報告しちゃうかー。そっかそっか、融通が利かないねー」


ガメツはボソボソとひとりごとを呟いたのち、


「コネクト君、相談なんだけど、その報告をしない、という選択肢はない?」


満面の笑みのガメツは上着の内側から、黒く鈍く光る金属を取り出して、要求してきた。


「ガメツさん、その手に握られているものは、銃ですね?」


カナタはなぜか自らに向けられている銃口を目にしながら質問した。


「そうだよ。しかもわが領地でとれた【赤炎石】で作っているもの。作ったのは他国でだけどね。」


笑顔でなかなか物騒なことを言ってくれる。


「えーと、で、なんで銃口はわたしに向いているのでしょうか?」


「ん、君が一番弱そうだし、一番むかつくから。」


こうした場合、報告をしないようにする要求なので、通常であればその対象であるコネクトに銃口を向けるべきものだろうが、なぜかカナタに向いていたことに対しての、その場にいた皆が納得するガメツからの明確な答えだった。




あたりに緊張が走る。


「あ、カナタさん、それじゃ、トウリョはガメツ様だとわかって石を渡していたってことですか?」


コネクトが疑問に思っていたことを、突如カナタ質問をした。


「いや、その可能性は低いですね。さっきトウリョさんの不正を指摘した時、彼はガメツさんのことを一度も見ませんでした。そこに協力関係が存在していたら、トウリョさんはガメツさんのことを恨めしそうに見るか、ガメツさんに食って掛かった可能性が高いです。」


(今、このタイミングで質問することか?)と内心思いながらも、思わずカナタは答えてしまった。


外面は平静を装いながらも、銃口など向けられたことなど、人生においてないので、正直言って心の中は大パニックである。


「まったく怖いねー、君は。やっぱりここで消えてもらった方がいいね。」


そう言って、ガメツはゆっくり引き金を引こうした。


(あれ?わたし、ここで死ぬのかな?)


カナタがそう思った時、




「あ、ちょっと待ってくださーい。」


その場に似つかわしくない、緊張感のない声がオオトリの声が響いた。


「少し、うちの社員に事務的な手続きを説明するので、少しだけ時間をいただいてもいいですか?大丈夫、すぐすみますので。」


その場にいただれもが呆気にとられてしまった。


こんな緊迫した状況でそんなことが許されるのかと思ったが、オオトリのもつ独特の雰囲気で、その場の空気が奇妙な形で緩んだ。


また、不覚にもカナタはそのオオトリの助け舟に心底感謝してしまった。


「カナタさん、右手を上にあげて、『借用』と言ってもらえますか?」


「え?『借用』?」


「はい、急ぎなので。今すぐ!」


「『借用』」


「声が小さい!もっと大きな声で!」


「『借用!』」


「もっと!!」


「『借用!!』」


「もっともっと!!!」


「『借用!!!!!!!』」


やけになってカナタが目いっぱいの大声をあげた次の瞬間、カナタの体が光、その光が収まったあと、カナタの体は戦隊もののヒーローのような白い全身タイツでおおわれていた。


「え?え?え?」


「ハイ、カナタさん、あとは任せました。」


「あ、ガメツさんおまたせしました。あとはごゆっくりどうぞ。」


狼狽しているカナタをしり目に、オオトリはガメツに感謝をし、コネクトとジャジー(いたんだ…)を連れて脇に退いて体育座りをした。もう観戦することを決め込んでいる。




「ちょっと、どうすればいいんですか、これ?!」


「単純な強化タイツですよ。使ってみればわかります。」


オオトリはどこから取り出したのか、缶コーヒーを片手に、カナタにあまり役に立たなそうなアドバイスを送った。


そんなこと言われても、と思いつつカナタは身構えた。




「なんかヘンテコな格好になったけど、別にかまわないか。」


そう言って、ガメツは引き金を引いた。


「パンゥ」という軽い破裂音の後、


「ボトッ」


弾丸は、カナタの腹部にみごとに命中したが、その弾丸がカナタの体を貫くことなく、カナタの体に触れた後、ゆっくりと手前に落ちた。


「え?」「え?」「え?」


オオトリ以外のだれもが、その光景に驚愕した。


「な、なんでだ?なんでだ?」


さすがのガメツも表情がこわばり、弾丸を続けざまにもう数発打った。


だが、いずれの弾丸もカナタの体を貫くことはなく、手前に落ちる、という光景が繰り返された。




「オオトリさん、あれはなんですか?」


「あれは、先ほどもいいましたが、強化タイツですよ。当社が誇る開発です。ほとんどの衝撃を吸収しますから、カナタさんは無傷ですよ。」


コネクトの小声の質問に、オオトリは少し自慢げに同じく小声で回答した。




「カナタさん、ガメツさんの銃取り上げて、捕まえちゃってもらえますか?でも殴っちゃダメですよ。それ力も通常の10倍になっていますから、過剰防衛になるので。」


オオトリの指示にカナタはガメツにゆっくりと近づいて行った。


「うわわわわ!」


ガメツは顔に恐怖を前面に表しながら、銃を乱射した。


だが、いずれもカナタには通用せず、そしてゆっくりとカナタはガメツの銃を取り上げた。


そしてガメツも観念したのか、その後抵抗することなく、騒ぎを聞きつけた衛兵に連れていかれた。




「カナタさん、お疲れさまでした。タイツを脱ぐときは、『返却』と叫んでもらえばいいですよ。」


カナタはオオトリの指示を全く無視し、どうせマイページにボタンがあるだろうと、マイページを開いてみると、案の定『返却』ボタンがあったので、それを押した。


すると、タイツ姿から元のスーツ姿に戻った。


「オオトリさん、大変助かりました。」


本来ならばここで、「なんで、この機能があることを、先に教えてくれなかったのか?」と言いたいところだが、ここは大人の対応として、感謝をすることとした。


「いやー、無事で何よりです。さすが私が見込んだ方だ。強化タイツも使いこなすなんてさすがですね。」


オオトリの誉め言葉にも、何か釈然としないカナタだった。


「あ、そうだ、このタイツは通常の10倍の力でることはさっき言いましたけど、その反動でものすごい筋肉痛がきますから気を付けてくださいね。」


とのオオトリの言葉が終わるか終わらないタイミングで、カナタの全身に強烈な筋肉痛が襲い、その場にうずくまっていた。


「そ、それは、先にいってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


カナタの絶叫があたりに響き渡った。


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