第5話 ●仕掛け ~ 過激にやりすぎた?

翌日は、トウリョのはからいで、採掘現場に訪れた。


そして、実際に採掘作業にも加わった。


何トンもある岩を切り出して、その中から【赤炎石】を見つけ出す作業は、体を使う労働が苦手なカナタにとっては過酷そのものだった。


午前中だけで体力が切れてしまい、午後は気力だけで体を動かしている、という始末だ。


だが、同じく作業をしたオオトリとコネクトは平然と作業をしており、現場の作業員からも一目置かれるほどの仕事量だった。


コネクトはともかくとして、オオトリがなんでそんなに動けるのかが不思議だった。


カナタがオオトリ本人に聞いたところ、


「え?動けるから動いているんですけど。逆になんで動けないのかわけわかりませんが。」


とカナタはマウントを取られてしまった。




そしてさらに翌日、鑑定のための出荷に同行させてもらった。


二日前(一昨日)と同じように、トウリョは鑑定人の店にくると、




「ジャジーさん、こんちは。石もってきたぜ。」


トウリョの声をきいて、店の奥からジャジーがでてきた。


ジャジーはトウリョがカウンターの上に置いた箱を慣れた様子で受け取った。


そして受け取ると同時に、トウリョに、これまた厳重に封をされた封筒を手渡し、箱をかかえて無言で奥に消えていった。


まるでデジャブである。




「ジャジーさん、スイマセン。」


ここで一昨日、オオトリに宣言していたとおり、カナタが大きな仕掛けにでた。


カナタは奥に消えようとするジャジーに声をかけた。


「私、カナタと言います。突然失礼します。」


「…。」


カナタの挨拶にジャジーは振り向いただけで、相変わらず何の一言も発しなかった。




「端的に言います。ジャジーさん、不躾なお願いなのですが、鑑定に同席させていただけませんか?謝礼は十分に致します。」


「あああ、あんた何いってんだよ!」


カナタの突然の申し出に一番慌てたのは、トウリョであった。


「そんなことして、こっちの仕事に影響があったらどうするんだ!スイマセン、ジャジーさん!スイマセン!」


そう言って、トウリョはカナタの口を遮った。


ジャジーはというと、カナタをしばらくの間じっと見たあと、無言で奥に消えようとした。




「あ、じゃあ、粗悪な石と判定された石を、優良な石の10倍の価格で買い取らせてもらっていいですか?」


カナタはジャジーから鑑定の同席に対しての返事がなかったので、別のお願いをした。


その言葉を聞いた瞬間、トウリョはカナタを無理やり外に連れ出した。


「一体あんたは何を考えてんだ!!」


トウリョはこれ以上ない、という声で、顔を真っ赤にしながらカナタに怒鳴りつけた。


「いや、そう言ったらどう反応するかちょっと見たくて。」


カナタはトウリョの怒りを全く気にせずに、涼しい顔で返事をした。


「前にも言っただろ!変な行動したら、オレの採掘する権利がはく奪されるんだよ!!!」


「でも、これくらいしないと調査が進まないかなー、と。」


「ふざけんな!そんな調査なんてしらねーよ!!あんた、今後はオレの前には現れないでくれ!こんなの営業妨害だ!!」


トウリョはカナタにこれ以上ないくらいの怒りをぶつけた。


「コネクトさん、あんたもあんただ!なんて人たちを連れてきたんだよ!オレは今後調査に協力しないからな!!!」


そう告げると、トウリョは急ぎ足で、その場から去ってしまった。




去っていくトウリョの姿を見て、コネクトは、


「スイマセン、スイマセン」と頭を幾度となく下げていた。


だが、カナタとオオトリは全く悪びれる様子もなく、平然と見送った。




「で、何かわかりましたか?」


「ええ、とても大きな収穫があったかと。」


ニヤニヤしながら質問してきたオオトリに対して、カナタは少し笑みを浮かべながら答えた。


「本当に分かったんですか?今後、トウリョに協力をとりつけるのは難しいですよ。」


余裕のあるオオトリとは対照的に、コネクトはオロオロした様子でカナタに聞いてきた。


「ええ、ほぼ予想していた反応でした。コネクトさんに教えていただいていた情報がとても役に立ちました。」


カナタがコネクトから教えてもらっていた情報というのは、鑑定士の規約に関してだ。


鑑定士は、


鑑定する際は、鑑定士以外の他の人間を同席させてはいけない。


また、粗悪な石と判定した石は粉々に砕いて破棄しなければならず、譲渡や売却をしてはいけない。


とある。


これに対して、どのように反応するかを見たかったのだ。


詳しくは、後々説明することとする。




「コネクトさん、次のお願いがあります。もしかするとこれで決着がつくかもしれませんので。」


そう言って、カナタはコネクトにまた一つのお願いをした。


「なるほど、その手がありましたか!」


その依頼を聞いて、コネクトは目を輝かせた。


コネクトもカナタの意図と今後の流れを察知し、これで解決するかもしれない、という大きな希望を得た。

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