第24話 国土要塞化計画
さらに翌日。
私は、マーリンに、いわゆるおんぶ紐で括られて背負われていた。
ーーちょっと待って。この扱いは何(怒)
「にゃんで、こんなしゅがた、なの〜!」
私は、背中に固定された状態で手足をジタバタさせる。
「だから言ったでしょう? これから、この国全体を要塞化するために、国境線上に壁を作りにいくんですよ。時間がかかるから、マスターが疲れるだろうと、不安定な抱っこではなく、きちんと固定してもらったのです」
おんぶ紐で幼女を背負った、
ーー古の大賢者の威厳も何もないと思うんだけど……。
「わたちは、おるしゅばんで、いいじゃない」
こんな辱めを受けるのなら、お留守番をしていたいとごねてみた。
しかし。
「いやです」(キッパリ)
「ふえ? にゃに?」
「嫌だと言ったのです! マスターに、己が力、お見せしてこそ意味があるというもの! マスターがお留守番をしている中、一人で作業するなど、嫌です!」
ーー言い切った。言い切ったよ、この大賢者。
いやまあ、功績というものは、褒めて欲しい主人に見てもらってこそのものだという気持ちはよくわかる。
「だけどぉ……」
「嫌です」
マーリンは、一歩も譲ってはくれなかった。
「羨まし……、ん、ゴホン。マーリン殿にだけ作業をしていただいて、リリスはお家でお留守番なんて薄情じゃないか、一緒に行っておいで」
お父様にまで、後押しされてしまった。
駄々をこねて、どうしようもない大賢者様、みたいな表現をしてきたけれど。
実は、『国境線に沿って全て壁を築く』なんていう大事業を成し遂げた国家などないのだ。それを、マーリンが、一週間ほどあれば、作ってみせると申し出てくれたのだ。
ちなみに、私達とは反対側からは、カインお兄様が精霊を使って、同じく壁を作っていく。そして、合流する計画だ。
ただし、交通の要所などに設ける関所や要塞作りは、人やドワーフ達の手に委ねる。移民してきたばかりの人々に、仕事とそれに対する報酬を与えることも、人々にとっては大切なことだからだ。
その拠点となる箇所を除いて、壁を築いていく。
大仕事だ。
普通じゃできない。
「しょだね。マーリンのカッコイイとこ、ちゃんとみなきゃ、だね」
コツンと、マーリンの背中をおでこで突いて、マーリンの望みを承諾する。
すると、「ありがとうございます」と、それは嬉しそうな声がして、マーリンがふわりと城から飛び上がった。
「ねえ、こうじ、なんて、マーリンはイヤじゃ、ないの?」
壁を作るスタート地点に移動する間、私は、マーリンに尋ねてみた。
一大事業、誰にもなし得ない事業、そうは言っても、かつての大賢者様に、土木作業をお願いしているのだ。
「うーん、そうですねえ」
マーリンが、しばし、思案でもしているのか、言葉を途切らせる。
「私は、マスターに現世に喚ばれて、貴女と共にある時間がとても愛おしいのです」
「マーリン……」
「勿論、死して
「マーリン、しょんなふうに、おもってくりぇてた、なんて……」
マーリンの思いもよらなかった優しい言葉に、私は目元が潤んで、頬を涙が伝う。
「マスター泣いてはいけません。この姿勢じゃあ、涙も拭って差し上げられないんですから」
あ、そうか!
そう思って、私は、
「マスター……」
マーリンは、まあいいですけどね、と、半ば仕方ないと言った様子だ。
「なんだか、姿に心も引きずられてきているような気がしますが、そんな面が見られるのも幸せですよ」
そして、工事の開始場所に到着する。
「さあ、始めますよ!
すると、昨日の都市周りの壁を作った時と同じく、土がどんどん削れていって、堀ができていく。そして、削れた土は、レンガのような長方形の形に形成されて、どんどん積み重なっていく。所々に、防衛戦になった時用の、小窓も空いている。
戦の時は、ここから、魔法を撃ったり、クロスボウなどを撃ち込んだりするのだ。
召喚魔法で招ばれているマーリンの魔力量の限界は、私の魔力量の限界と同じ。私とマーリンは繋がっていて、私の魔力を持って、魔法を行使しているのだ。
だから、毎日、私が魔力を使い切る前に作業はおしまい。
そんな日々を繰り返して、やはり、最初のマーリンの見立てどおり、一週間程でフォルトナー王国は、国全体を要塞化することに成功したのだった。
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