第3話 ●自己紹介 ~定番のヤツです

ノワールは町の中央部から、町外れにかまえている自身の自宅兼診療所へと歩を進めた。


町とは言っても、そこまで発展しておらず、とてものどかな雰囲気のところだ。


中心部から離れれば、川が流れ、田畑が多くあり、鳥のさえずりが心地よい。




改めて紹介すると、彼の名はノワール、歳は20代中ごろ、というところだろうか。


少し耳にかかるくらいの黒髪で、背丈は決して大きくなくないが、細身のため、見た目よりも背丈は大きく見える。


2年前にこの町に流れ着き、町はずれに診療所を営んでいる。


彼が、この町に来る前に何をしていたかは、だれにも話していない。




そして、昨夜のダイナーの治療をした不審者は、お察しのとおり、この青年ある。


ノワールは【稀能者】であり、普段はそのことは隠して生活しており、治療では能力は使わず、一般的な治療を行っている。


彼の能力は針を操り、人体に作用をさせる。


針の能力はいくつかの効果はあるが、昨日ダイナーに施した一般的には治療が不可能と思われる病(ケガも含む)を治してしまうものだ。


針を、ノワールだけがみることができる対象者の胸のあたりにある光体に刺し、その対象者自身の治癒力を極限まで高めて、あらゆる病やケガをいやしてしまうものである(ただし、すでに息絶えた人には効果はない。)




この世界で、ノワールのような能力はだれもが持っているものではなく、ほんの一握りの者がその能力を所持している。よって、だれが始めに言い出したのか不明だが、稀な能力、から、【稀能者】という造語で呼ばれている。


その能力は所持者によってさまざまで、能力を明らかにして多くの富を得ている者もいれば、ノワールのように頑なに隠している者もいる。




彼はその能力を示すときは、素性を隠して行っている。昨夜、マスクで顔を隠して行ったように。


素性を隠すのは、能力を悪用されないためだ。


この能力一つで、その国の軍の能力が飛躍的に上がることになり、使い方によっては無敵に近い軍を持つことになる。また、奇跡の治療法と銘打って、多くの人から大金を巻き上げることもできる。


そうしたことをノワールは望んでいない。




彼は、積極的に人とはかかわろうとはしていない。


というより、自らに深く関わりのないことには首を突っ込まないようにしている。


なるべくドライな関係を心掛けている。




というのは、ある意味表向きで、この男、実は生粋の『お節介焼き』である。


昨夜行ったダイナーの治療も、伝えきいた話からダイナーの容態が気になっており、だれに頼まれたわけでもなく行った。


また先ほどのカーゴの王都への護衛についても、穴だらけの計画を心の中で指摘せずにはいられなかった。


できれば、自らが同行したいとまで思っている。


だが、そうした性格が災いしてか、過去に様々なことに首を突っ込みすぎて、トラブルになったことが多々あった。


そのため、今は相手がどうこう、というよりも、厄介ごとにやたら首を突っ込まないよう自制するため、情報を遮断するために、「どーでもいい」と口にするようにしている。




ノワールは歩きながらカーゴの話を少し思い返していた。


最近盗賊団が王都を往来する馬車を頻繁に襲っていることは、ノワールも新聞等で知っていた。


ノワールがこの件に関して積極的にかかわることはないが、やはり、少しでも縁のある人に関係してあるので、安否は気になる。


「何事もなければいいけど…。」


とつぶやいたのち、


「どーでもいい…、か。」


と自らを自制する口癖をつぶやき、歩を速めた。

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