KAC2021 お題集 作灰猫
灰猫
お題1 おうち時間『退屈な僕らはダイスに縋る』
カラカラカラ。
使い古した小汚いノートパソコンの隣で、一から六個の点が刻まれた正四角形が小気味よい音を立てて転がる。
「まずは経歴Aから…」
インターネットを繋いだモニターの向こうから、十年来の友人の声がする。暇を持てました僕が、やったこともないTRPGを作る無謀な挑戦に手を貸してくれている。
「1.6…憧れの冒険者がいる。か」
三日ほど掛けて完成したTRPG用キャラクターシートのルールを試しているのだ。
「経歴とか技能とか、殆どコピペなんだけどさ」
「まー、しゃーねぇわ」
ゲームの舞台は犯罪と陰謀が渦巻く、魔都東京。進行はクトゥルフ神話TRPGを参考に謎解きをメインに据えた探偵物だ。
プレイヤーは、ゲームマスターが用意したシナリオを読み解きエンディングを目指す。個人で幅広く手を出すことは難しいと考え、謎解きに集中してルールを作り上げた。
「B…2.3。旅をしたことがない」
「冒険者に憧れていたけど、まだ旅を知らない。まぁ、普通の人だな」
賽の目に委ねられたのは、これから誕生を心待ちにされているキャラクターの経歴だ。経歴は六面ダイスを二つ振って、出た目に従って経歴表を当て嵌める。キャラクターが一般市民なのか、犯罪者なのか、狂信者なのかといった方向性はダイスの目によって大きく影響を受ける。
「一般人が事件に巻き込まれて、事件を解決するの面白そうだろ?」
「少年漫画みたいで、ロールプレイすんのなんかなぁ」
今回はキャラクターシートのルールが出来上がったので、お試しでキャラクターを作っている。
「ポトフ・ミロール…七歳の少年か、犯罪多発地域で何してんだか」
「それはダイスが教えてくれる」
カラカラカラ。
テーブルの上をダイスが躍る。
「お、ゾロ目の2.2。…家族から探されている」
「家出、誘拐って所か?」
旅に出たこともない七歳の少年が、家族から探されているという一波乱ありそうな経歴に最後のダイスロールを握る手が僅かに震えた。
「確かD表って」
「…ああ」
いま使用している経歴表には、A、B、C、Dの四つが用意されており、其々の表には、動機、家族、生い立ち、性格形成に関わる出来事や家族構成などが含まれている。
そしてDの経歴表は、性格形成と見なせる項目が多く用意されている。
「行くぞ…」
カラカラパチッ。
ダイス同士が触れ合い大きく弾かれた。
「出目は…5.6。…あ、銃で撃たれたことがある」
「ん~、まだマシか」
これでポトフ・ミロールのキャラクターシートは完成した。
名前:ポトフ・ミロール 年齢:七歳 職業:小学生
生命力:5/5 精神力:3/3
筋力:1 器用度:2 俊敏度:2 知力:2 幸運度:1
技能
博物学Lv1
持ち物
双眼鏡×1
所持金:500円
経歴
A:憧れの冒険者がいる
B:旅に出たことがない
C:家族から探されている
D:銃で撃たれたことがある
「前に試した時は、誘拐されて神の生贄になってたもんな」
胡坐を解いて足を延ばすと、仰向けに倒れ込む。限界まで伸びきったヘッドホンのコードが、ピンと張りノートパソコンが引っ張られた。
「おっと」
「どうした?」
「いや、パソコンがズレただけ」
ふーんと興味なさそな声の後、ズルズルと何かを啜る音がする。
「あー、伸びてるわ。で、経歴表の出目を元に細かい経歴作って」
「はいはい」
冒険小説を読んでいたポトフ少年は、小説の冒険者に憧れを持ち、いつか旅に出る事を夢見ていた。
ある日ポトフ少年は、いつもの様に近所の探検と言う名の冒険に出かけるが、家の傍にある郵便局に強盗に入った男が発砲した威嚇射撃が命中してしまう。
運悪く内臓を移植しなければ助からない程の傷で、移植できる臓器があったのは犯罪が横行する魔都だった。名前や住所も分からず緊急搬送されたポトフ少年は、なんとか生き延びたものの手術の代金を請求されていた。
その日から行方不明となったポトフ少年を両親は探すが、魔都にいるとは思いも由らず、今も彼を探している。
「センスねぇな」
「うっせ…七歳と旅に出たことがないが制限掛けてて思いつかんかった。この二つの所為で、家族が探しているをどうしようかと…」
こんにちはダイスの女神様。
今日も
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