第4話 人生諦めが肝心なときもあります、特に死にそうな時

 ちょっとした騒動の後、楽しい楽しい買い物の時間がやって来ました。死体を晒しておいてなんで買い物ですって?騒ぎになるまで暇だからです。


 それにせっかくのファッションの最先端を行く街なんですから、いい加減黒のインナーとボロのズボンばっかりなのも嫌ですし。


 拾ったこの子も白一色のワンピース……というにはシンプルすぎる……てか病院着みたいな服しか着てなくて目立ちますしね!

 

 幸いお金は拾ったので安めの服くらいなら幾らでも買えますのでショッピングです。とりあえずアンジェリーナの手を引き値札を見る限りそれなりに安そうで雰囲気のいい店に飛び込み、適当に物色します。


「あ、ジーンズあるんですか。でも動きにくいのは致命的ですし……ホットパンツくらいの丈ってあります?」


「うん?あるよー、ここらへんとかかな。あ、もしよかったら上着もこの辺とかオススメだよ。なんなら着て行くかい?」


 妙にカラフルな、それでいてとっ散らかっていない塩梅の奇抜な服を着た店員が気の抜けた声で返してくる。こういうところの店員さんがこうなのは古今東西変わらないのでしょうか。


「あ、買ったら着ていきますね。あとこの人の服見繕ってくれます?」


「あら美人さん、ふぅむ綺麗に焼けてて綺麗だし……モノクロで白多めにして目と同じ青をワンポイント……」


「あ、細かいところ全部頼みます、私よくわかんないですし」


 私はオススメされた赤の革製ジャケットにデニムのホットパンツを買い試着室で着替えて金を渡す。ぼんやりしているアンジェリーナを店員に押し付けて暫らく人混みを眺めた。


 うむ、ファッションの街だけあって変な奴らが多いですね。……なんだあの虹色のトサカみたいな帽子……あ、サンダーバードの羽使ってますね?さてはかなりの金持ちか。


 いつもスラムでうろちょろしているせいかなんとなくそこまで下品でない活気がある所は新鮮ですね。まぁ買い物が終わったら下品どころか連続殺人武者修行を行う羽目になるのですが。


「は〜いお嬢さん、お姉さん?のコーデ終わったよ!」


です、おお、めちゃくちゃ可愛いですね」


「ふむ、よくわかりませんが、いいのではないでしょうか」


 長い黒髪に褐色の肌、碧眼に白いノースリーブのインナーと長め黒ジャケット。下はタイトな黒のズボンですか、中々に決まってますね。


「ところでこれ丈夫ですか?」


「勿論!冒険者だってうちの服買いに来るんだから、いい素材使ってるよ。まぁその分ちょっと高くなるけど……」


「あ、大丈夫です、コンバットメイドスーツ並みとか言われたら困りますが」


「お、買うかい?1着だけあるよ?」


「出世したらということでー」


「あら残念、毎度ありー」


 さて、思ったより買い物は早く終わったので、お腹も空いたことですしその辺でご飯でも食べつつ現状確認をしましょうか。


 という訳で服屋の店員さんオススメの何やらお洒落なカフェへ、しかしメニューは結構ガッツリ系(パスタやお肉)。周りを見ると冒険者の方も多く、雰囲気だけお洒落な感じでいっぱい食べたい人が来る感じの店だということがわかります。


「ではでは、アンジェリーナさん。これから私は連続殺人武者修行を行う訳ですが、着いてきます?」


「言葉の裏に些か不穏な意味を感じ取りましたが見なかったフリをします。……私は現状では発動体、アルケミーキット、および銃や弾丸など戦闘に使用する物品を一切持っておりません。現状ではただの足手纏いにしかならないでしょう」


「ふむふむ、安いのなら全部用意してもそんなにかかんないな。じゃあそこらへんのギルドで一式揃えちゃいましょうか」


「2000G程度はかかりますが……」


「銃は後回しで発動体とアルケミーキットなら用意できるでしょう、多分」


「ふむ、支援役に徹しろと?」


「マテリアルカードも低ランクならそこまで出費にはならないでしょうし、操霊術ならそこまで魔力消費もしないでしょう?ルーンフォークなら尚更」


 HP変換、地味に便利な種族特徴ですよね。まぁマギシューよりコンジャラーの方が向いてると思いますがね?まぁ、データ的なあれそれは置いておいて。


「というか、いきなりほぼ犯罪紛いの事の片棒担ぐのいいんですかね。誘ってる私が言うのもなんですけど」


「構いません、先程の方に関しても運ぶ際の体の触り方が不快だったので私としてはスッキリしました」


「あ、貴女やっぱり仲良く出来そう」


「そうですか?あなたほど性根は腐っていないと生後数時間でも自負していますが……」


「そういうことを真顔で言える面の皮が良いですね、貴女の設計者かジェネレーターのバグはいい仕事をしてる」


 運ばれてきたミートソーススパゲティを食べながら、私はこの面白いルーンフォークの女の子を観察する。


 それなりに場数を踏めばまもちき魔物知識判定が出来なくてもざっくりと実力はわかりますけど。まぁ細かい能力なんてわかりませんが、人族くらいだったらどれくらいの実力かくらいは。


 ……まぁ普通にこの子めっちゃ強いですね!怖いなーアル・メナス、産まれたばっかの生き物がほぼ一人前の戦闘能力持って出てくるとか悪魔ですかね。そりゃ蛮族滅びかけますよ、まぁ今滅びかけてるのは私たちですが。


「で、ご飯食べたら色々用意してさっきの場所に戻って私たちは襲われに行くわけなんですけど、はいこれ」


 道場のアホ師匠なところへ行けるように片道分の切符代と紙に書いた地図、あと師匠お手製煙玉を渡す。


「なんでしょうか、これは」


「私が死にかけたらそれ使って全力で逃げて、うちの師匠呼んでください。まぁあの人弟子には甘いので多分すぐ助けに来るので」


「なるほど、理解しました」


 まぁそこらへんのチンピラに囲まれた程度で死にはしないでしょうが、万が一ファンブルという可能性もないではないですからね。それに、正直挑発しすぎたかなぁ……やばいのも来るかもなぁという懸念もありますし。


「では行きましょう。あ、お会計お願いします」


 ちなみに食事はちょっと高かったです、お洒落なカフェは場所代取られるのはどこも変わりませんね。


 閑話休題。


 アンジェリーナの装備を整え、財布がだいぶ軽くなったため補充とノルマの達成を兼ねて先程死体を吊るしておいた木まだ戻りました。


 ふむ、人だかりというほどでもありませんが、明らかに関係者っぽい人たちが数人死体を下ろしてますね。


 あ、こっち見た、顔怖いですね。いかにも場末のチンピラって感じ。


「お嬢ちゃん、見せ物じゃねぇんだ。さっさと失せな、それともこれの犯人に心当たりでもあんのか?」


 にやにやと笑いながら痩躯の薄汚れた男、おそらく人間がこちらにやって来る。ふむ、子供を心配してるにしては随分と下卑た雰囲気ですね?では一発ぶっ込んでみましょう。


「え、心当たりもクソも私ですけど」


(え、ちょっ、いきなり何言ってるんですかあなた。馬鹿なんですか?)


 アンジェリーナが私の背中を小突きながら小声で罵倒してきますがとりあえず無視します。


「……冗談言っちゃいけねぇ、お前さんみたいなガキに何が出来んだ?ん?」


「冗談かどうか確かめます?あ、返答はいいですよ、やるので」


 子供の心配するようなら別に何もしませんでしたが、どさくさに紛れてお尻触って来るような奴に慈悲はありません。


「えいやっ」


 無拍子先制判定成功で行われる魔力を込めた蹴り上げが男の顎下に直撃。爪先が下顎の骨を粉砕し、その先の頭蓋骨に致命的な破壊をもたらした感触確かめると、即座に崩れ落ちた襟元を掴み、地面に叩きつける。


「おごぁ!?」


「よし、三人目」


「だ、ダニー!? このクソガキ!」


 様子を遠巻きに見ていた仲間らしき男たちがダニーと呼ばれた男の絶命と共に即座武器をを取り、こちらへ襲い掛かろうとする。


「こちらが支援してからやってください、困ります」


「心配しなくても、相手はいっぱい来ますよ」


「そうじゃないのですが……まぁいいです」


 ため息を吐くとアンジェリーナは発動体の指輪を撫で、魔力を込め、呪文を唱えた。


「──操、第三階位の付。火炎、増強──炎撃ザス・ザルド・フ・ルド。フォレム・バルスト──ハイエンウェルフ


「ファイアウェポンですか、助かります」


「お礼より先にあちらを、来ています」


「知ってます」


 炎熱を纏った拳がナイフを振りかぶった男の鳩尾に捻じ込まれる。肉の焦げる音と匂いと共に男は吹き飛んだ。


「次」


 全体を見回すと残りは3人、少々アンジェリーナが心配だが先に殺せば問題ないと判断して駆け出す。


「舐めんなクソガキィ!」


「罵倒の語彙が貧弱ですよ、うちの師匠を見習ってください」


 タンっと軽快な音を立てて飛び上がり、魔力を放ち加速した回し蹴りが側頭部に。じゅう、と脳漿が蒸発する音が響いた。


「うへ、ばっちぃ」


「クソッタレ……!」


 大柄な男が着地の隙を狙ってスレッジハンマーのような武器を振り下ろす、が、普通に遅いので身を捻り避ける。


「食らえ目潰し!」


 実際の目潰しは指でやると痛いので、袖から取り出したるは寸鉄。眼球を破る勢いでやるのがコツって師匠が言ってました。


 という訳で左手で思いっきり目玉に寸鉄をねじ込み、その上から右拳を魔力を込めて叩き込む。


 あ、寸鉄脳に捻じ込まれちゃった、後で取り出すの面倒ですね。


「ひ、ひぃ……」


「あ、逃げます?逃げるなら別に追わっふぎっ!?」


 あとは怯えた奴一人。そう思って油断した瞬間、激痛が腹に走る。見てみればクロスボウのボルト、しかも刃が拡散して痛みを増幅させるタイプの物が突き刺さっていた。


「──今回復を」


「ぃや、いいです。逃走の準備を」


「しかし」


「まだ動けます、いやぁ、やっぱり適当に考えた作戦じゃダメですね。調子に乗りすぎました」


 刺さった方向にはそれなりに身なりの整った弩兵が数人、おそらく蜘蛛の構成員の中でもそれなりの地位の人間だろう。


 距離40、走って殺しに行くには少し遠く、その前に撃ち殺される可能性が数割。


 さて、普通に絶対絶命では? ううむ、誰のせいでしょう、不思議と可愛い自分の顔しか思い浮かびませんね、困りました。


「よし!逃げましょぅ──」


 さらに何かが横から突き刺さる衝撃と、そのすぐ後に走る激痛。


「っはぁ……!」


 あら、よく見たらスラムのバラックの屋上にも数人、耳生えてるしあれは……レプラカーンですかね?そりゃ気づかない訳です。


 と、色々思考を回していますが、激痛でそれどころではありません。


 視界が灰色だし、なんか体冷たいし、すごい吐きそう。


 ──あ、私、死にそう?




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