転生したらナイトメアだった上にデーモンルーラーの母親のお家に生まれた件〜みんなからめちゃくちゃ石を投げられてますけど私は元気です〜
ぶんぶん
第1話 転生したらスラムのガキでした
転生したら
こちとら一般卓ゲーマーだった成人女性ですが、気がついたら汚い路地裏で煤まみれで転がってました。視界が随分低いので、おそらく5〜7歳くらいでしょうか?
しかもナイトメアですよ、ナイトメア。気がついた時には汚い路地裏で浮浪児に囲まれて虐められてました、もう慣れたのでいいんですけど。
まぁ、私が前世の記憶を持ったなんて言い出す発狂をした人かもしれませんが、真偽がわからない以上私がそう言ってれば真実なのでそういうことにしておきます。
さて、そんなこんなで特筆することもなく転生してから2年くらい経ちましたが、基本的に子供なので仕事もなく、養ってくれるご飯のあてもないという貧困of貧困という惨状。
「やーい、角付き〜悔しかったら仕返ししてみろ!」
しかもナイトメアなので路地裏に住んでいる浮浪児たちから凄い虐められます。子供の虐めだからと甘く見ていると奴ら道端の石を平気で投げてきます。
流石、
「黙ってないでなんか言えよ〜!おらっ」
あ、なんで大破局後かわかるかですか? それはですね、どうやら私がいるこの街は『キングスフォール』と言いまして。
この世界、所謂中世ダークファンタジーっぽい魔法文明時代と魔動機とかいうファンタジー機械でバルバロス達を滅ぼしかけた魔動機文明時代があり、キングスフォールは魔動機文明時代……正確には魔法文明末期なのですが、とにかくそのあたりに出来た街なのですよ。特徴的な魔動列車の大きな環状線がありましたからね、間違いありません。まぁそれで冒険者ギルドなんてものもあるのですから、あ、これはもう完全に大破局後だなと。
…………さて虚空に向かっての説明という悲しい現実逃避をしていましたが、全身にぽこぽこと投げつけられる石がめちゃくちゃ痛いです。
「おりゃ!」
少し離れたちびっこの投げた1発がおでこに直撃、額が切れ血が流れる感触がします。めっちゃ痛い、いやこれ耐えられない、痛い。
「あっやべっ……?」
「…………」
突然に説明しますが、ナイトメアという生き物は、ゲーム的には穢れが1点ある代わりに人間より優位な能力と魔貌という特殊な能力を持ちます。後者は別に今はどうでも良いですが、簡潔に言いますと。
「えいっ」
「ぶえっ」
────思いっきり殴れば、同年代の子供くらいなら余裕です。思ったよりクリーンヒットです、一人倒れましたね。お、ビビってます、ボコボコにしましょう。
「ショーンがやられたぞ!この角付き女!なにしやがる!」
「人を殴ったら殴られるって教わらないんですかね、親がいなくてもそれくらいわかるでしょうに」
それに思い切り殴ったら物凄い手って痛いんですよ、だからやりたくないんです。
どうやらこの三週間くらいただただ虐められてた女の子が突然殴りかかってきて流石にびっくりしたのでしょう。ビビっている間に再度パンチです。
「ぶべっ!?」
「……あ、意外と楽しいですね、あなた達が私に石を投げる気持ちがわかりました」
転んだ子供に跨り顔面をべしべしと殴っていると、ビビってしまったのか周りの人間はいなくなってしまいました。
「……あら、お友達いなくなっちゃいましたね」
「…………」
「あ、結構お金ありますねあなた。貰っていきますよ」
返事がないただのしかばねのようだ……とは冗談にしても、本当に動きませんね。小石を握って殴ったのが良くなかったのでしょうか? まあ、知ったことではないので寝床に帰りましょう。
最近は魔動機部品の集まるジャンクヤードからほど近い下水道の入り口付近、そこある大きなパイプの中を掃除して寝床にしています。壊れているので汚水が流れることもなく、なおかつ下水道ということだけは知れ渡っているので誰も寄ってこない穴場なのです。
「ひぃふぅみぃ……90
パイプに敷いた藁にぽすん、と寝っ転がる。じくじくと痛む額にその辺の布を巻いてギュッと縛る。薬が買えるわけでもなくしかたなしの応急処置だ。
「ええと、パンの残りは後二つ……あそこのパン屋さんにはもう警戒されてますし、今度はどうしましょう……」
残りの食料を数えていると、ほとほと嫌気が差す。他人は敵でしかない、先の事はわからない、イラつくばかりで気晴らしに音楽も聴けない生活だ。
「はぁあ、どうしますかねぇ。全く、何も展望が思い浮かびません、いっそ死ぬというのともアリっちゃアリですが……」
簡易の藁ベッドに寝転がり、赤錆色の天井を見上げる。ああ、こんなところに転生させるような神様がいるなら音楽プレイヤーの一つくらいつけてくれればいいのに。
益体のないことを考えてボーッとして、もう寝てしまうかと目を瞑ったその時だった。私は首根っこを誰かに掴まれて「ぐぇっ」という声をあげてしまう。そのまま持ち上げられて運ばれてしまう。
「はっ!?えっ!?(なんで!?ここの場所知ってる奴なんていないはず、えっ人攫い?というか蛮族!?)」
まるで猫でも運ぶかのように持ち上げられていることから相手はそれなりに大柄、まさかマジの人攫いかもしれない。
「ちょちょちょ、なんですか!?というか誰ですか!?」
「んにゃ、なんだ起きてたのか」
「なんだじゃないですけど!?誘拐よくないですよ!」
「誘拐じゃねぇ、治療だ。頭の傷放っておくと膿むぞうちの道場来い」
少しいがらっぽい低い声、おそらくそれなりに年の行った男性だろうか。体勢が体勢のため顔が見えないから確証は持てないが……見える服装からしてそこまで裕福だったり、神殿務めというわけではなさそうだ。
「嘘でしょう、スラムのガキをわざわざ治すような神官な訳ないでしょう、あなた」
「神官じゃねぇがな、仕事柄その程度の怪我の治療くらいできるさ。それに、クソガキの顔面をボコボコにするような根性入った娘なんて滅多にいねぇからな、ちょっとくらい手助けしてもバチは当たるめぇ」
「……とりあえず、首を掴むのやめてください、苦しくて死にます」
「おお、すまねぇな、ほらよ」
体がふわりと浮いたと思うと肩に載せられて担がれる。お腹が押されてめちゃくちゃ苦しいが、さっきよりはマシである。
「で、なんなんですかあなた」
「ニルデスト流道場の師範なんぞやらせて貰ってる、ジョニー・マクガイアだ。嬢ちゃんは?」
「……名前はないです、角付きとしか呼ばれませんでしたし」
「なんだ、じゃあジェーン・ドゥだな」
「それ、名無しって意味でしょう、こっちでもそうなんですね」
ラクシアでも身元不詳者をジョン・ドゥと言うらしい。このラクシアの話かもしれないが、ちょっとした懐かしさを覚えて笑ってしまう。
「ん?お前もよそ者か?」
「はい?」
「いやなに、こっちだなんて言い方するもんだからよ。俺はアルフレイムじゃなくてテラスティアから来たもんだから、お前もそうかなって」
「違いますよ、そもそも私なんでここにいるのかも知らないんですから」
「ほーん、捨て子か」
「でしょうね」
「随分とドライだな、お前」
「性分ですので」
「ま、そういう奴は嫌いじゃねぇ。ほれ、ついたぞ」
辿り着いたのは古いが、それなりにしっかりとした平家の建物だった。周辺の治安のためかあたりに人は少ないが、建物自体はそれなりに綺麗に掃除され小綺麗な雰囲気である。
「そこらへんで座っててくれ、なんもねぇ場所だがな」
「どうも、人攫いの拠点とかですかここ」
「違ぇよ、一応は道場みたいなもんだ。奥は俺の家になってる」
(そういえばニルデストとか言ってたな……あ、ニルデスト流実戦殺法?)
ニルデスト流実戦殺法、入門するのに名誉点消費じゃなくて“減少”を要求される超卑怯な流派である。具体的には目潰しとか罵倒とかが得意。
「薬草の類ならいくつか備蓄があるからな、ほれ、おでこ見せてみろ」
「どうも、お返しになにすれば良いでしょう。一緒に寝ます?」
この男がどぎつめの変態である可能性もあると提案したが、うへぇと嫌そうな顔をして私の頭を叩いてきた、痛い。
「へっ、20年したら出直してこいクソガキ」
「ではどうしましょう、お金ないですけど」
「お前、弟子一号な」
「……は?」
「ニルデスト流戦場生存術ってのはよ荒っぽい技ばかりでな。となれば荒っぽい奴らの住む場所に居座りゃいつか門弟もできるだろとタカを括っていたが……」
私は周りを見る、用意された木人は新品同然のが二つにボロいのが一つ、なるほど。
「つまり閑古鳥が鳴いているんですね」
「おう、全然いねぇ。金はあるから問題ねぇが……大陸越えて新しい流派の一つ起こしたんだ、弟子の一人くらいいねぇと格好がつかんだろ?」
湿気った巻きたばこに火をつけながら目の前の男、ジョニーは私の頭をぐりぐりと乱暴に撫でつける。
「んで、面白い奴がいねぇかと散歩してたらお前だ!細っこい娘が年上のガキを殴り殺しかけてるじゃねぇか」
「で、丁度いいなと? …………わかりましたよろしくお願いします」
「おう、話が早いな。もっと駄々捏ねるかと思ったが、変なガキだなお前」
「いえ、丁度いいので」
どうせ生きていくなら力が必要なのだ、さっきの石を投げてきたクソガキもさっさと殴り殺しておけば面倒でなかったのに踏ん切りがつかなかった私が悪い。
ナイトメアだし、どこに行ってもある程度はこういう扱いを受けるだろう。
なので、強くなれる機会は逃さない方がいいだろう。目指せグラップラーlv15である、スカウトとレンジャーも必要だし、魔法も欲しいがまぁそれはおいおい。
という感じで私のラクシア生活は転機を迎えたのである。あ、家は配管ハウスのままですよ、住み慣れた我が家ですもの。
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