第2話 幼なじみたちとの思い出 冒険者ごっこ

 俺たちが小さな頃、俺とカリンとグッドルはいつも3人で冒険者ごっこをしていた。

 カリンは剣士を目指し、グッドルは武闘家兼槍使いを目指していた。

 16歳となった今ではグッドルの槍の扱いはこの街でもトップクラスに入るといわれている。


 俺はというと……その頃、魔法使いか回復師を目指している途中で正直悩んでいる時期だった。


 まだ、現実の厳しさなんて何も知らなくて、ただただ自由に、街の近くの森で一緒に遊んでいるだけだったが、今考えればカリンもグッドルもあの頃から天性の才能があった。

 

 あの頃、森には新人冒険者たちが沢山いたおかげで危険も少なく子供たちだけでも、森の中に探索へでかけることができていた。


 俺とグッドルは二人ともカリンのことが好きで、お互いにいいところを見せよと必死だった。


「コロン、魔法使いにとか目指しているならもっと薬草とかに詳しくならないとダメだぜ」

 いつもなにかある度にグッドルは俺に絡んでくる。


「わかってるよグッドル! 俺だって結構勉強してるんだから」

「じゃあこれなんの草なのか知ってるのかよ?」

 俺に恥をかかせたいために、わざと色々な質問をしてくるが、俺だって負けてはいなかった。


「それはダルミ草だろ。腹痛の時に良く効くんだよ」

「じゃあこれは?」


「それはゲルマダン草だろ。歯痛の時とかに沈痛作用があるやつ」

「なかなかやるじゃないか」


「逆に聞くけど、これは何なのか知ってるのか?」

 俺が聞いた草は麻痺毒の草だった。この辺りでは珍しく森の中で見つけるのは稀な草だった。プライドの高いグッドルは知らないとは言わないと思いわざと聞いてやった。


「しっ……知ってるに決まってるだろ。それはポピロンの薬草だろ? 便秘の時とかに効くやつだ」

「へぇーそうなのかー知らなかったよー」


 俺はあえて知らなかったフリをした。カリンが目の前で聞いていたので、あとでどうにでもできる。

 あの頃はまだグッドルに対しても対抗意識を燃やしていた。

 どこかで彼が知らないことを馬鹿にしていた。


「ポピロンってこんな草だったっけ?」

 それに疑問を持ったのはカリンだった。


 実際、ポピロンの草とこの麻痺毒の草、テトロン草は形が少し似ていて慣れるまで見分けがつかない人も多かった。

 俺が知っていたのも本当に偶然だったのだから。


「さぁ俺にはわからないけど、グッドルがそう言うなら間違いないんじゃないの? なぁグッドル?」

「えっあっ、もちろんだよ」

「そうだよね! 最近少し便秘でさ。ちょど良かった」


 カリンはそれを躊躇なく口の中へ放り込んだ。

「お前それ何やってるんだよ! 今すぐ吐きだせ! それ麻痺毒草だぞ!」

「えっだってさっき便秘薬だって……」


 カリンの身体は急にガクガクと震えだして倒れてしまった。

 麻痺毒は呼吸さえ確保しておければ助かることができるが今はその道具すらない。


 助けるには、解毒用のダケノン草を見つけなくちゃならない。

 たしかこの森の中に……俺は一生懸命どこに生えていたかを思い出す。

 うん。三日前くらいに来た時には生えていたはずだ。


「おっ俺のせいじゃない。勝手にカリンが食べるのがいけないんだ。草なんて俺に見分けがつくわけないだろ」

 グッドルはそう捨て台詞を吐くと俺たちを見捨てて、その場から走って逃げだしてしまった。

「待て! お前がいればまだ助けることができるんだ! 戻って来い!」

 彼は一度も振り向くことはなく、森の中へと消えていった。


「カリン、ごめんね。俺がちゃんとあいつの間違いを指摘してやれば……少しだけ頑張って。俺がなんとしても助けるから」

 俺の頭の中には、最短で解毒草があるところまでの道順を思い出す。

 大丈夫。すぐに行けば助けられる。

 できればグッドルにもカリンを運ぶの手伝ってもらいたかったけど……逃げてしまった人間をあてになんかできない。


「カリン、少し動かすよ」

 時間を考えた時に、俺が一人で薬草を取りに行って往復するよりもカリンを連れて行く方が早い。

 俺が決断してからの行動は早かった。

 

 彼女を背負うと、一心不乱で森の中を突き進む。

 なんとしても彼女を助けるんだ。


 彼女の身体はガクガクと小刻みに震え、その震えが徐々に大きくなっていくのがわかる。この震えが大きくなっている時はまだいい。


 問題は震えが小さくなり始めてからだ。

 それは彼女の体力が限界をむかえたことをあらわす。


 急げ、急げ、急げ!

 彼女を背負いながら夢中で森の中を走る。呼吸がきつい。上手く息を吐けなければ、吸うこともできない。


 だけど、そんなことを考えている暇はなかった。

 幸いにも、ダケノン草の群生地はすぐ近くの場所にあった。


 俺は凶悪な魔物にも遭遇することはなく、覚えていた場所へと走りきった。

 頭は痛いし、呼吸が苦しいがやりきった。


 段々とカリンの震えが治まってきている中で一刻の猶予もないことがわかった。

 

カリンを地面に一端降ろして、急いでダケノン草を探す。

「たしかこの辺りに生えていたはずなんだ!」

 だけど、いくら探しても見つけることはできなかった。

 場所を間違っているのか?

 

いや、遊び慣れたこの森の中で道に間違うなんてことはない。

 ……もしかして、新人冒険者とか誰かに採られてしまったのか?


 この森の中には新人の冒険者が毎日沢山入っていた。その中にはもちろん薬草を狙って採る冒険者もいる。


 だから、昨日生えていたからといって、今日あるとは限らないのだ。

 なんてことだ!

 どうする? 今から街へ戻るか?


 いや、そんな時間はない。他に森の中で……俺はもう一か所、薬草があることを思い出した。ある! 大丈夫だ! カリンを救える。

 街へ戻って薬草を探すよりも断然そっちの方が早い。

「カリン、ごめんよ。またちょっと移動するからね。すぐに呼吸も楽になるから少しの辛抱だよ」


 俺がもう一度カリンを背負おうとすると、カリンは震える手で俺の服を掴み、首をゆっくりと横にフル。

「カリンダメだ! 諦めちゃダメだ! 今すぐ俺が助けてやるから」

 カリンの震えが徐々に小さくなっていく。カリンの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

 俺の呼吸は苦しくて、カリンの身体は弱ってきていて、もうダメかもしれないと一瞬心が弱りそうになる。

「うぉーーーーーー!」


 大きな声で叫び声をあげ自分を奮いたたせる。

 絶対にカリンを助けるんだ。


 俺がカリンを背負ったその時、目の前にはデビルグリズが現れた。それは子供一人が立ち向かえる魔物ではなかった。


 膝が震える中で、俺はカリンをもう一度しっかりと背負いなおした。

 なんとしてもカリンを助けるんだ。


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