少女と始める大賢者への道
かなりつ
第1話 無能と呼ばれた男
「コロン、これを街はずれのガリバの鍛冶屋の所へ運べ! すぐに戻って来いよ!」
「わかりました」
「お前はいつも口だけなんだからな。帰ってくるの遅かったら承知しないぞ」
ギルドの下働きをしている俺は荷物を抱えて街はずれのガリバの元へ走る。
この重さとガチャガチャいう音からして中身は鉄鉱石だろう。
少しくらい雑に走っても問題なさそうだ。
「コロン、また走らせられているのか。そんなに急いで怪我するなよ」
「あぁ、大丈夫だ。本当に人使いが荒くて困るよ」
幼なじみのグッドルが笑顔のまま俺に声をかけてくれる。
俺はその目線を避けるようにしつつ、でも無視したことにならないように軽く声をかけて足早にその場から立ち去る。
いつから、こんなにも差ができてしまったのだろうか。
グッドルとは元々幼なじみだった。
僕とグッドルともう一人、幼なじみでこの街の戦士だったカリンは小さい頃から友達同士だった。
でも、成長するにしたがって3人の関係は変わっていった。
カリンは俺を置いて王都へ行き、グッドルはこの街では将来を有望とされる冒険者になっていた。
いや、置いてというのはおかしいかもしれない。
俺はカリンと一緒に王都へ行くつもりだったんだけど、結局声をかけてもらえなかったというだけだ。
走って、ガリバの鍛冶屋へ配達するがいつもと同じ言葉を投げかけられる。
「遅いぞ、コロン! どうせまた途中で道草をくっていたんだろ。そこへ箱は置いておけ。そしたら次はギルドへの納品用の剣がそこにあるから運んどけ」
店主のガリバは俺の方を見ないで、箱の場所だけ指さす。
「それは……別料金になりますが依頼書は提出されていますか?」
「あぁ? サービスでそれくらいやっておけよ。本当にクズだよな。お得意様には気を使えっていつも言われているだろ?」
また始まった。これはどちらを選んでも俺が怒られる。
「それとこれとは別だと言われてまして」
「黙れクズ。てめぇんの意見は聞いてねぇんだよ。金が必要ならてめぇが払っとけばいいだろ」
「申し訳ありません。ギルドチーフのルンバに聞いてからまた来ます」
俺はガリバの鍛冶屋から出ると急いでギルドに戻るため走りだした。
背後からガリバの怒鳴り声が聞こえてくる。
「てめぇ持ってっけって言っただろ。次顔だした時にはただじゃおかねぇからな」
最初から注文をしといてくれれば、こんな手間にはならないのに。
それを言ったところで、もちろん言うことを聞いてはくれないが。
走ってギルドへ戻り、チーフのルンバに今言われたことをそのまま伝える。
「てめぇお客様から言われてなんで商品持ってこないんだよ。またてめぇが取りに行く時間が無駄じゃねぇか。お得意さんなんだから料金なんて後払いでいいんだよ」
こんなことを言っているが、前回俺が荷物を運んで来た時には、勝手に運んで来るなと怒られ、金払いが悪いんだから余計なことをするなと怒鳴られた。
どちらにしろ正解なんてないのだ。
この二人は俺のことを馬鹿にしたいだけなのだから。
「そんなところで立っていないでさっさと荷物を取りに行ってこい。本当にお前って使えないよな。そんなんでよく冒険者ギルドで雇ってもらっているよ。てめぇがこの取りに行ってさぼってる時間は時給から引いておくからな」
俺がギルドからでると、グッドルとその仲間たちの話し声が聞こえてきた。
「おい、いいのかよグッドル。あいつお前の幼なじみなんだろ?」
「あん? いいに決まっているだろ。あいつはカリンに捨てられてからっていうもの、この街から怖くて出れなくなった臆病者なんだから。自分の人生を切り開く勇気がない奴なんて相手するだけ時間の無駄だろ?」
「それにしてはさっき声をかけてやってたじゃねぇか」
「そりゃそうだろ? あいつを見ているとこう気分が明るくなってくるんだよ。あの逃げまどう感じとかさ。無能なあいつを見ているともっといじめてやりたくなるっていうか。ゾクゾクしてくるだろ?」
「さすがに、そこまではわからないけど……」
「つまんねぇな。幼なじみではあるけど、あいつが落ちぶれれば落ちぶれるほど、俺は気分がいいんだよ」
「そうなのか。まぁあんなのよりも次のクエストを何にするかそろそろ決めようぜ」
ギルドから離れることで会話は段々と小さくなりやがて聞こえなくなった。
もうどうせ、取りに行く時間が時給から引かれてしまうのならゆっくりと取りに行く。どうせ早く戻ったところで因縁をつけられるのは変わらないのだから。
それから、ガリバのところで荷物を受け取り、これでもかっていうほど文句を言われてからギルドへと戻った。
さすがにグッドルたちの姿はなく、陰口を言われないことに安心したのも束の間、ルンバからは長時間説教をされた。
もちろんこの時間はお金が発生していない。
なんとも無駄な時間だ。
「おい、何時間かかってるんだよ。普通こういう時は走って行くもんだろ。そういうところが本当にダメなんだよ。あっもうお前が帰ってくるの遅いから、仕事は新人へ回したから帰っていいぞ」
「わかりました。お疲れ様でした」
ルンバへ荷物を渡すと、舌打ちをされぶんどるように荷物を取られる。
明日の仕事は荷物運び以外で探そう。ゴミ拾いとかあればいいんだけど。
ギルドの掲示板を見ると、薬草摘みや、隣町への警護、レッドラットの調査などがあった。
レッドラットの調査は報酬が段違いで俺が今働いている雑用の1か月分だった。
街の外での調査は危険も伴うので報酬がいい。このレッドラットも小さな子供くらいのネズミで、普段は温和な魔物だが空腹になると何でもかまわず食べてしまうという、危険な魔物だ。
その数が減っているらしいが……俺もできるなら街の外へ行ってこんな調査をしてみたい。
『ギルド長! レッドラットは無法者たちが大量に捕まえていて、街を襲わせるためだったみたいです』
『なに? そんな大事件が起ころうとしていたのか。全然気が付かなかったよ。この街にはコロンくんがいないとダメだな。これからもよろしく頼むよ』
なんて妄想をしながら掲示板の前にいたら、「てめぇそんなところにいると目障りなんだよ。ささっとギルドからでて行きやがれ」そうルンバから怒鳴られてしまった。
俺は、あの日……カリンという幼なじみが一人で王都に旅だってからこの街の外へ出ることができなくなっってしまった。
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