走る

影神

優しい背中



僕は気が付くと、走っていた。



ここは何処なのだろう。



足は思考とは裏腹に、走る。



そこは、寒くもなく、温かくもない。



いったい、いつから走っているのだろう、



何の為に、何の理由があって。



何処へ向かっているのかもわからず、、僕は走る。



最初は平坦な道を。


ゆっくりと、ウォーキングのように軽く走る。



周りには僕以外、誰も居ない。



見事に殺風景な道だ。


砂利でもなければ、コンクリートでもない。


室内のような道でもなければ、、



一体何なのだろうか、、



謎の道が、ただひたすら続いている。



僕の視界はずっと誰かの背中を追っているようだ。


その背中を見ると、悲しく、見失ってはいけないような、

そんな感情に捕らわれながらも、僕は足を動かしている。



僕はどのくらい走ったのだろうか、



時間の概念等は感じない。


長くもなく、短くもなく、


走るという事に捕らわれ、背中を追いかける。



しばらく進むと、足を運ぶスピードが速くなる。



道はさっきとは違い、上り坂のような道に変わった。



前に重心を起き、爪先で蹴り上げるように、

軽快に進むも、足が重くなる感覚になる。



周りには苦しそうな息遣いがする。


さっきまでは誰も居なかったのに、、



でも、目には見えない。


きっと構っている余裕が、自分に無いからだろうか、



ゴールの見えない道でただただ、


誰かの背中を追い続ける。



頑張れば届く距離には居るが、


どうしても、届かない。



きっと、ゴールすれば、


全てが分かるような気がして、


ただ、走る。



道は遂に、崖のような道へ。



ここまで来ると、走るではなく、


登る。の方が正しい。



下は見えない。



何処まで来たか、どのくらいまで登ったのか、


自分でも理解の出来る範囲をとうに越した高さに、


武者震いをしながら挑む。



きっとこれで終わる気がして、


僕はひたすら崖を登る。



周りは雲のように、いや、霧の様な、


モヤモヤがあって、最初の道からずっと見えない。



ただ進めるであろう道は見える範囲で存在する。



そして、顔も知らない誰かの背中も、先に感じる。


額から汗が流れる。



あれ?


暑いのか?



また流れる。



暑くない。



頬が冷たい。



ポロポロとこぼれるのは涙だった。


これは、達成感による涙なのか?



ひとつ、またひとつと、登る毎に、頬に涙が走る。



だんだんとキツくなる。


苦しく、重い。



どうしてこんなにも、辛いんだ??



その時、今まで気にも止めなかった、


自分の足にふと、目をやる。



そこには無数のおびただしい手が、



僕の足を引っ張るかの様に、



びっしりと足にしがみついていた。



「帰りたい、、」



「戻りたい、、」



「やりなおしたい、、」



「連れてってくれ、、」



「返さない、、」



「一緒に、、」



「帰さない、、」



「一緒に、、」



「帰れない。」



「許さない。」



その言葉を機に、僕の体は宙に浮く、、



背中に差しのべた手は徐々に離れていく。



僕「嫌だ、、」



僕「嫌だ!」



僕「嫌だぁ!!!」



目一杯伸ばした手には、優しい、暖かい手が



『おかえり。』



僕「ただいまぁ、、」



眩しい光と共に、懐かしい香りが漂う。



貴女は、、、



君は、、、



『、、、、』



次に気が付くと病院だった。



機械に繋がれた僕の体は何とも痛々しいモノだった。



タイミング良く入って来た看護婦さんが、


慌てて部屋を飛び出し、誰かを呼びに行ったようだ。



私は記憶が無い。



どうしてこうなったのか、、



でもまあ、時間はまだあるみたいだから



少しずつまた進んで行こう。



歩いて、時に走って、



疲れたら休んで。



そうして、どうしても耐えられ無かったら、



手を高く、高く、差しのべよう。



誰かに届くかもしれないから、、






























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走る 影神 @kagegami

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