~抱擁~
私の涙が落ち着くのを待って、私達はマンションに帰った。
移動中、朔夜は何も言ってくれない。
泣いてるときは抱きしめてくれているだけでいいと思っていたけど、落ち着いてくると言葉が欲しくなってきた。
朔夜は……私のことどう思ってるのかな……?
やっぱり最終的には殺すつもりでいるんだろうか?
でも、たとえそうだとしても……。
殺す前までは私と同じ気持ちでいて欲しいと思うのはおかしいだろうか?
……おかしいよね。
だって、好きなのに殺すってことになるんだもん……。
おかしいと思いながらもそれを望んでいる私が一番おかしいのだと思う。
それでも、この気持ちは変わらなかったけれど……。
とにかく、私は朔夜が好きだってことに変わりはない。
殺されるとしても、朔夜にだったら殺されてもいい。
そうすれば、私の気持ちは永遠のものになる気がするから。
私は車を運転する朔夜の横顔を見た。
朔夜……。
貴方の気持ちがどうであろうと、私の気持ちが変わることはないわ……。
その確固たる想いは、私を強くする。
ありがとう朔夜。
苦しくて切ないけど、同時に温かくて強い……こんな想いをくれて。
言葉にはしなかったけど、私は心の中で朔夜に感謝した。
マンションに戻ると、私はとりあえず顔を洗おうと洗面台のあるバスルームに向かった。
とにかくさっぱりしたかったから。
そうしたら、何故か朔夜もついてきた。
「朔夜も顔洗うの?」
「顔? 洗うのは体じゃないのか?」
朔夜の言いたいことがよく分からなくて、私は聞き返そうとする。
でも、それは言葉として出ることはなかった。
いきなり横抱き……つまりお姫様抱っこされたのだ。
「さ、朔夜!?」
「体洗わないなら、今すぐでもいいよな?」
え? 何が?
“?”マークを浮かべて目をぱちくりさせる私。
そんな私を朔夜はベッドルームに運んで行った。
え?
何?
まさか……。
予測した答えは多分当たっている。
ベッドが近付くにつれ、心音が早くなった。
ウソ……ちょっ、心の準備が……。
心臓がバクバクいってる。
『心臓が飛び出しそうだ』って表現あるけど……。
本当に飛び出しそうだ!!
って、微妙にパニクってる場合じゃない!
朔夜は私をベッドにゆっくりと降ろした。
そしてそのまま覆い被さってくる。
顔を真っ赤にして固まっている私。
朔夜は不敵な笑みを浮かべて私の顔を覗き込んだ。
「なんて顔してる。俺じゃないと嫌だと言ったのはお前だろう?」
「っ!?」
言った……確かに言った……でも。
「あれは勢いもあったっていうか……」
私は視線を泳がせて逃げ道を探した。
でも。
「勢い、ね。だが、今日は何を言おうが止める気はないぞ?」
朔夜は私に逃げ道を与えてはくれなかった。
もう覚悟を決めるしかないってこと?
朔夜の顔が近づいてくる。
細めた目は優しく私を見つめ……。
薄く開いた唇はほんのり赤く、私を欲情させた。
私はゆっくりと目を閉じ――。
唇が触れる。
覚悟は、優しい緩やかな雰囲気によって自然と決まった。
朔夜の節ばった男の手が、私の身体のいろんなところに触れる。
その動作一つ一つがとても優しくて、私は泣きたくなった。
この世の誰よりも、朔夜に愛されていると錯覚してしまいそうだから。
そんなわけ無いのに……。
でも、今の私はその錯覚を信じたかった。
それに、少しは愛されていると思う。
だって、少しも想っていない人間に、こんなにも甘く優しく触れたりしないでしょ?
だからいいの。
朔夜の愛が感じられるなら、私は朔夜に全てをあげる。
心も。
身体も。
血も。
命さえも――。
「朔夜……さくやぁ……すき……好きだよぉ……」
私は朔夜に全てを任せ、うわ言の様に呟いていた。
朔夜はそんな私に微笑みかける。
そして、返事の代わりに私の身体に口付けた。
好き……。
愛しい……。
SEXは、愛を確かめ合う方法の内の一つでしか無いけれど、今の私にはそれだけで十分。
だから朔夜。
今だけ。
今だけでいい。
私を貴方にあげるから。
今だけは貴方を私にちょうだい……。
かりそめでもいい。
愛を一つにして共有したいの。
その共有した時があるなら、繋がっていないときでも私は貴方を想い続けられると思うから。
少しでも、想ってくれていると信じられるから。
だから……。
気が付くと、私は朔夜の腕の中にいた。
朔夜は自分の胸に顔を埋めた私の頭を優しく撫でている。
幸せで……とても幸せで……。
このひとときがどんなに続いて欲しいと思ったことか。
でも、そんな訳にはいかないから。
だから、今だけ。出来る限り長く、このままで……――。
……。
しばらくして、朔夜が動いた。
身体を反転して、また私に覆い被さるような格好になる。
私は、少し離れてしまった朔夜の体温を名残惜しく思いながら、彼の真剣な眼差しを受けた。
「朔夜……?」
朔夜の意図が読み取れず、問う。
すると朔夜は何も言わず、私の首筋に顔を埋めた。
え?
首筋を舐められ、ゾクゾクと身体が震える。
そして2つの突起があてがわれた瞬間、私は朔夜の肩を押し拒んだ。
「イヤっ!」
血を吸われるところだった。
そうだ、私の心と身体をモノにしたら血を全部吸って殺すと言っていたじゃない。
朔夜になら殺されても良いと思った。
それでも死への恐怖はある。
それに、私はまだ肝心なことを成していない。
私は、拒まれて眉を
「朔夜……お願いがあるの」
私の真剣な眼差しを朔夜は無言で受け止めてくれる。
「十六夜を何とかするまで待って。私、両親の仇を打つまで死ねない」
十六夜の名前に朔夜が少しだけ反応した。
でも私は構わず続ける。
「何とか捕まえて協会に突き出すから……。それまで待って。……それまでには、覚悟を決めておくから……」
真剣な目で言ったつもりだった。
でも、実際は覇気のない弱々しい目をしていたかもしれない。
朔夜を拒んだ事で、嫌われてしまうんじゃないかと心の何処かで怯えていたから。
朔夜はそんな私に気付いただろうか。
その表情からは何も読み取れない。
ただ、静かな表情で「分かった」とだけ返ってきた。
そしてまた私達は抱き合う。
キスをしてくる朔夜は優しかったから、私のこと嫌ったりはしてないよね?
優しい時間は、まだもう少しの間続いた。
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