おれはしらせたい

くにすらのに

おれはしらせたい

「俺、走らせたい」


「どうしたんだよやぶからぼうに」


 下校していく生徒達を悪友の川田と3階の窓から見送る。

 教室には二人きり。

 どんなにゲスい会話をしてもドン引きされることはない。目の前にいる川田を除けば。


「山本さんだよ。明らかに他の女子と一線を画す巨乳だ」


「まあ、そうだな。山本さんとすれ違う男子は必ず胸に視線がいく」


「だからさ、俺は見たいんだよ。山本さんがおっぱいをぼいんぼいんさせながら走る姿を」


「ああ、見たいな」


「なんでそんな冷めたリアクションなんだよ。川田だって見たいだろ?」


 ぼーっと山本さんの姿を見つめていた時にふと思い浮かんだ煩悩だが、川田ならそれを理解してくれと思ったのに裏切られてしまった。

 跳ねるように揺れるおっぱいは全男子の夢じゃないか。


「そんなの体育の時に女子の方を見てればいいじゃね?」


「バカッ! 山本さんは体育で本気を出さないんだよ。絶対にもっと揺れる」


「お前、普段から山本さんのこと見てんだ」


 川田の口元がニヤリと動く。


「勘違いしてるようだが俺はおっぱいにしか興味ねえぞ」


「それはそれで最低だな」


「だって俺、おっぱいがデカい以外の山本さんの情報知らねえし」


 むしろおっぱいが大きいというだけで好きになる方が失礼だとすら思う。

 恋愛感情はもっと内面を知った上で抱くのが礼儀だというのが俺の考えだ。


「もし山本さんのおっぱいがめっちゃ揺れるところを見れたら感想を教えてくれ」


「感想でいいのか? 実物じゃなくて?」


「俺はもっとおもしろいものが見たい」


 川田が言うとこの話題はおしまいになった。

 どうやら俺の本気が伝わっていないようだ。


***


「山本さんちょっといいかな」


「なあに?」


 次の授業は体育だ。

 男子は校庭でサッカー、女子は体育館で授業をするらしい。


 女子は更衣室に移動して着替えるのでちょっと急ぐ必要がある。

 そんな中、俺は特に用もないのに山本さんに声を掛けた。


「もうすぐ球技大会じゃん? どうせやるなら優勝したいから山本さんから見てバレーボールがうまい人を教えてほしいなって」


「私の意見でいいの? 文乃とか優香はうまいよ。私なんかじゃ動きに付いていけないくらい」


「へえ。ちなみに山本さんはどんな動きなの?」


「もうっ! いじわる言わないで。球技大会でも私の方は見ないでいいから」


「そんな風に言われると気になるなあ」


 レシーブのポーズをして山本さんを煽ってみる。

 もしかしたら俺に釣られてバレーボールの動きをしてくれるかもしれない。

 そうなれば眼福の到来。

 思い切りジャンプすれば間違いなくおっぱいが激しく動く。


「って、話してる場合じゃなかった。着替えるからもう行くね」


「教えてくれてありがとう」


「球技大会頑張ろうね」


 ニコっと微笑み山本さんは小走りで更衣室に向かっていった。

 おっぱいのサイズがサイズなのでおそらくちょっとは揺れている。

 ただ残念なことに、俺は山本さんの背中を見送る位置に立っていた。


「足止め作戦、詰めが甘かった……」


***


 山本さんがスマホを落とした。

 すぐに声を掛ければいいのに、俺はあえて数十秒待った。


「おーい!」


 と、スマホを振りかざしながら呼び掛けたら山本さんはきっと俺の方に向かって走ってくる。

 きっと俺の目的が揺れるおっぱいであることを知らずに眩しい笑顔で。


 だけど本当にそれでいいのか?

 

 足止め作戦の時、山本さんは俺に対して一切の疑いを抱かず親切にバレーボールが得意な女子の情報を教えてくれた。

 もし俺がレシーブのポーズで煽らなければあのままずっと廊下で話していたかもしれない。


 それくらい山本さんは良い人だし、おっぱいを抜きにしても可愛らしい人だと感じた。


 今までおっぱいしか見ていなかった自分が恥ずかしい。

 これが恋に落ちるということか。

 

 キミのことが好きになってしまった。

俺は知らせたい。

 

 彼女が落としたスマホを握りして俺は走り出した。

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