走れ!ヤマモト!宅オタの僕がマラソン大会に強制参加?僕はゴールに辿り着けるのか

四葉ゆい

第1話 禍は音なく僕の手を握る

 月曜朝のオフィスは慌ただしい。

 メールのチェックや朝イチの電話連絡。休み明けの業務ラッシュで人の事に気を回している余裕はない…と、思っていたし、そうあってくれ!と思っていた、が。

「ヤーマーモートー! ちょおこっち来いっ!」

 始業スレスレ、もしくはギリアウトな時間の出社。気づかれないようコソッとヌルッとフロアに滑り込んだはずなのに、大きな声で名前を呼ばれてしまった。

「ヒィっ!」

 いや、本当だったら「はいっ!」って返事、したかったよ? 僕も。

 怒気を含んだ声に身体を縮こませてフロア奥のデスクに歩いてゆく。

「おはようございます、東堂課長」

「声ちっせぇなぁ。月曜の朝くらいシャッキリできないのか?ってかこの課で一番の 若手がこの時間の出社とはいい度胸だ」

「すみません……、それより何か御用でしたでしょうか?」

 課長はますます小さな声になる僕の返事に被せるように続ける。

「言っておくが、は謝罪には該当しないから。今後一切オレの前では使用しないように。それより、コレだ!」


 課長は僕の鼻先に一枚の書類を突きつけた。


「あれ程ミスのないようにと言ったのに、早々に突き返されて来たぞこの書類」

 それは、昨日僕がほぼ半日かけて作った広報紙の原稿だ。

 そこそこ名の知れた中規模スポーツメーカーだけあって社員のほとんどは何かしらのスポーツで学生時代に名を馳せた人物やそれなりのスポーツ経験者ばかりだ。

 発刊当初は社員同士のコミュニケーションを図る目的もあったとかで人物にスポットライトを当て、担当分野のスポーツの解説を載せたり、現役時代の活躍についてインタビューを掲載したりする。スポーツ好きにはたまらない紙面構成だ。

 今回僕が担当した記事は大会名や、年代が多く出るので間違いがないように言われていた。その記事がチェックバックされてきたらしい。

 それなりに注意はしていたはずだけれども『超定時退社』に向け気が急いていたせいで見落としがあったのだろう。まずいな……。

 でも! 昨日は推しのアイドルグループがライブ配信オンリーでミニイベントを開催していたのだ。これは何にも代え難い事情とはいえないだろうか?

 僕のオタ活は最重要にして全てだ。グループメンバーのMinoriちゃんの為ならなんだってできる。ミスくらい、なんだっていうんだ。

「おい、聞いてるか?山本」

「……あ、はい」

「まぁ、とにかく、お前は他部署からも仕事にやる気が見られないと評判だ。その汚名は返上したいよなぁ?」

 はっきり言って自分が人にどう見られているかは割とどうでも良い。でも今この空気、この場所でどうでも良いという態度はダメ絶対!ということで、

「はぁ、まぁ……」

 かぎりなく曖昧に返事をしておく。


「そこでだ、来月開催される四年に一度のマラソン大会に広報課として参加して、レポートを書くように。あ、これ業務命令な」










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