第15話 悲願
「まぁ、ええわ。竹子の話はうちより御影様から聞くとええねん。そや、話しを戻すとな、そんな一線から退いた竹子の後釜を決めるっちゅう事やってのは分かったやろ?」
「ええ」
「先代は竹子の鬼丸家、先々代は神貫家、その前はまた鬼丸家、さらにその前は鬼怒笠家やったんや。でもな、おもろないんは金剛家や。いやいや、金剛家に実力がないんやない。金剛家はどの代も素晴らしかったんや。どの代でも筆頭達と比べ遜色はあらへんかった。あとは人間性の問題やったんよ。金剛家は野心が強すぎたんや。それを御影様は危惧しとった。そやからな、実力的に問題なくても筆頭になられへん」
そこまで話すと鴉丸は咲耶へお茶を飲ませてやと水筒を貰うとぐびぐびと遠慮なく飲んでいる。そして、佳代へと飴までねだる。そんな時だけは、上目遣いで童女らしく可愛らしい姿になって。
しょうがなく飴を手渡す佳代へ、満面の笑みを浮かべて喜ぶ鴉丸を見て、この人は本当にうちらよりも年上なのかと疑ってしまう咲耶であった。
「そんでな、金剛家にとって待ちに待った次の筆頭決めや。今回こそはと息巻いとるっちゅう噂もちらほら耳に入ってきとる。そやから、仲良くとか友達とかそんな話しをしとる場合やないっちゅう事や」
確かにその話しを聞くと、先程の二人の会話は呑気過ぎたであろう。しかし、佳代には筆頭だの地位だのにほとんど興味がわかない。育ちの差もあるのかもしれない。かたやいつかは筆頭をと一族上げての悲願としている金剛家の娘と、妖魔退治から引き離し育てられてきた佳代。
「そげん言われてもなぁ……筆頭だのとかうちにはぴんとこんとよ。正直、筆頭とかになれんでん別に良かし」
汽車の窓の縁に肘をつき、飴を口の中でころころと転がしながらそう言う佳代を、咲耶と鴉丸は呆気に取られた様子で見ている。
「何言うてんねん、竹子の娘やぞ主は」
「うちはうちやけん。お母さんもなんも言わんで許してくれると思っちょるよ」
「せやかて工藤……否、佳代」
鴉丸はふうっと溜息をつくとちらりと咲耶へと視線を向けた。顎に手をやり何かを考えている咲耶。すると、ほんわりとした笑顔になって鴉丸を見た。
「私も筆頭にならなくても良いですわ」
咲耶まで何を言い出すのかと目ん玉が飛び落ちる程に目を見開き驚いている鴉丸と、またかといった様な呆れ顔をしている猫又。
「なななな……なんでやねん、筆頭やでぇ!! そな簡単に……」
「うちの祖母が筆頭をしておりましたが、その責務の多さと日々の多忙さに母も私もいつも心配と寂しさを感じておりました。私は自分の娘が生まれたとして、孫が出来たとしても、いくら名声名誉があろうともそんな思いをさせたくはありません」
はっきりとした強い意思のこもった眼差しで語る咲耶にやれやれといった表情を見せる鴉丸は、まぁええわと座席の背もたれにもたれかかった。
「でもな、決めるのは主らやのうて御影様や。主らがやりとうない言ってもな。それだけは承知しとってや」
鴉丸は二人にそう言うと着いたら起こしてやと一声掛けると目を瞑り眠ってしまった。
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