元祖魔剣少女

ちい。

プロローグ

「あんたば愛しとったとよ……」


 灰色の雲は空だけではなく地面まで飲み込もうとするかの様に分厚く、いつ雨が降り出してもおかしくなかったが、やはり、すぐにぽつりぽつりと降ってきた。


 次第に雨足は強くなっていき、強く吹く風のせいで空から降ると言うよりも、横から殴りつけられる様な降り方である。


 そんな悪天候の中に一人の少女が、何も無い草原に立っている。春か秋の晴れた日であれば、ぽかぽか陽気に照らされ、のんびりと昼寝をしたくなるような草原。


 しかし、横殴りの雨降りに、全身を濡らし、長い黒髪が顔に張り付こうが気にせずに一点だけを見詰めて立ち尽くしていた。


 少女の手には二尺八寸程と思われる刀が握られている。


 鬼切安綱(おにきりやすつな)。


 かつてとある武将が鬼の腕を斬ったと言う伝説の刀である。


 そんな少女の見詰める先にあるのは、一体の死体である。


 何故、それが死体だと分かるのか?豪雨とも呼べる雨の中、うつ伏せに倒れた人間はぴくりとも動かない。


 息をするのも困難な程の豪雨の中でである。


 その死体には三鈷杵さんこしょと呼ばれる密教法具が握られ、その三鈷杵には約三尺程の刃が取り付けられていた。


 三鈷杵を柄とした刀である。


 うつ伏せになっているため、顔は分からないが豪雨に晒され濡れてまとわりついた衣類のおかげで身体のラインが分かった。


 どうやら死体は女性の様である。


 少女はぱちりと刀を鞘へと納めると、死体へと深く一礼をした。そして、くるりと体の向きを変えると振り返らずにその場を後にした。

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