【短編】追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た

夏目くちびる

前編

 「……まぁ、そう言う事だから。お前クビな」

 「な、なんでだよ?」

 「なんでって。そりゃお前、このパーティに必要ないと判断したからだよ」



 俺は、狙撃手のキータ。王様より勅命を受け『ホーリーボゥ』を授かった、魔王を撃ち滅ぼさん為に旅をする冒険者だ。そして、今クビを言い渡した彼は勇者のシロウさん、言い渡されたのが回復術師のクロウだ。



 「ふざけるな!なんの説明も無しに解雇って、そんなのあり得ないだろ!?」

 「それがあり得るんだよ。俺たち、他の冒険者たちと違ってフリーランスでやってる訳じゃない、王様の命令で動いてるわけだからな。その証拠に、他の奴らは持つことの出来ない宝具を使ってるじゃねえか」

 「じゃあ、ホーリーロッドを渡せってことか?これは、俺に与えられた物だろう?」

 「渡せって言うか、宝具って王様のだし。俺ら借りてるだけじゃん。それに、お前説明したってどうせ理解しようとしないだろ」

 「……ならば、俺が渡した魔法のアクセサリーを全て返してもらうぞ」

 「いいよ、はい。おい、お前らも渡せ」



 そう言って、シロウさんは俺ともう一人のメンバーであるアカネに声を掛けた。俺は大人しくアクセサリーを渡し、アカネもそれに倣った。



 「シロウさん。あのアクセサリーなかったら、俺らのパワー半分くらいになるんじゃないですか?」

 「その通りだ。でも、今更もう遅いからな。俺は出て行くんだから、こいつを渡しておく義理はない」

 「なんでお前が答えてるんだよ。ほら、ホーリーロッドをこっちに」



 ツッコミながら、シロウさんが手を出す。



 「ふん、後悔するなよ」

 「はいはい。わかったから、お疲れ」



 言うと、クロウは『ホーリーロッド』を投げるように渡して、シロウさんに背中を向けてどこかへ歩いて行った。



 「おい、アカネ」

 「は、はい。なんでしょうか」

 「お前、あいつの事好きだったんだろ?追っかけなくていいのか?」

 「……その、そうさせてもらいます。これ、返します」



 聞くと、槍使いであるアカネはシロウさんに『ホーリーランス』を渡してクロウの後を追って行った。



 「いいんですか?シロウさん」

 「いいよ、別に。王様には、この辺も含めて報告済だ。それに、王様から受けた重要な任務なのに、男追っかけて出て行くような女は元々信用ならねえよ。次の町で、別の適合者を探して仲間にしようぜ」

 「そうですね」



 シロウさん率いる勇者パーティは、全員が宝具と言う特殊なアイテムを扱うことの出来る、『適合者』と言う一種の天才集団だ。しかし、あの二人をパーティから外したことから分かるように、適合者は何も一人じゃない。当然、シロウさん以外にもホーリーセイバーを扱える者がいるが、たまたま先代の勇者が死んで次に見つかった適合者が彼だったってだけだ。



 宝具は、適合者が扱わなければ本来の力を発揮できず、別の奴が使えばただ重たいだけの弱い武器となってしまう。しかし、俺たちが使えばたちまち光り輝く奇跡となり、悪の力を消し去る心強いモノとなるのだ。

 何故勇者が必要かと言えば、『魔王』の血を分けた『悪魔幹部』たちは宝具だけでしか倒すことが出来ないからだ。因みに、現在は一体目の『デビル・カチョー』を倒したところ。



 「それにしても、やっぱ適合者じゃないとクッソ重いっすね。次の町まで大変だ」

 「確かに。悪魔幹部も、もっと町から近いトコにアジト作れってんだよな」

 「言えてますけど、それじゃあ町滅ぼされちゃいますよ」



 俺の言葉に笑って、せめて次の町に着くまでクビを言い渡すのを待てばよかったと呟いたシロウさん。……あなた、早速後悔してるじゃないですか。



 × × ×



 「君も、勇者パーティで伝説を作らないか。……なんすか?これ」



 辿り着いた町の酒場に張り出した紙を見て、俺が尋ねる。



 「メンバー募集のポスターだよ。各パート限定一名、適合者以外にも何かスキルを持っていると尚よし」

 「バンドのメンバー探してんじゃないんですよ?もうちょっと厳しい基準で判断しましょうよ」

 「そうは言ったって、俺だって元々ただの消防屋だったし、お前だって植木屋だったじゃねえか」

 「そうですけど。それにしたってノリが軽すぎますよ。せめて冒険者限定にするとか」

 「厳しいと思うぞ。適合者、結構少ねえからな」

 「死ぬよりはマシですよ。タイムリミットにはまだ余裕もありますし、ちょっとは吟味しましょう」

 「わかったよ。ほんじゃ、冒険者、レベル3以上のスキル持ち、責任感。こんな所か」



 言って、出来上がったポスターを見てから、「まぁ、これくらいなら」と納得し掲示板に張り付けた。

 スキルとは、レベル1から5までランクを振り分けられている特殊な技術の事だ。その用途は、攻撃や防御から移動用、果ては心を乗っ取るような強力なモノまで多岐に渡る。

 因みに、俺は現在までにレベル3のスキルを四つ覚えている。



 「しかし、そう考えるとクロウって結構バケモンですよね。あいつ、確かレベル5のスキル六つくらい持ってましたよ」

 「すげえよな。やっぱ、天才ってのはいるもんよ」



 嘗ての仲間を称賛しながら、俺たちは酒を飲んでメンバーの応募を待った。そして、一週間後。



 「おぉ、適合者だ。名前は?」

 「アオヤです。現在冒険者で、レベル3のスキルを二つ使えます。責任感は人一倍あると自負しています」

 「ほんとかよ。じゃあ、俺たちが戻って来るまで何があってもこの場から一歩も動かないって約束できるか?」

 「いえ、出来ません。もし魔物がこの町を襲ったら、立ち上がって戦います」

 「はい、合格。おめでとう、君は今日から勇者パーティの槍使いだ」

 「いや、ちょっと待ってくださいよ!」



 その面接を見て、思わず声を上げて割り込んでしまった。



 「慎重に吟味するって言いましたよね?なんでそんなファッション感覚で決めちゃってるんすか?」

 「いいじゃねえか。それに、ファッション感覚で命懸けられる奴、中々いねえぞ、なあ?」

 「はい、僕はファッション感覚で命を懸けられます」

 「ほら、アオヤもこう言ってるじゃねえか。それに、もし嘘だったとしても俺の質問の意味を即座に理解して、的確な回答を返したんだ。頭も結構キレるぞ、なあ?」

 「はい、僕は頭も結構キレます」

 「ほら、アオヤもこう言ってるじゃねえか」

 「お前が言わせてるだけだろうが!……なぁ、アオヤ君。もう少し考えた方がいいんじゃない?勇者パーティって、結構ガチで命懸けて戦う事になるんだよ?フリーの冒険者とは訳が違うんだよ?」

 「大丈夫です。僕、これまでも命懸けてやってましたから」



 そう言われて、俺は黙ってしまった。



 「決まりだな。それじゃ、アオヤも一緒に魔法使いを探してくれ」

 「分かりました」



 そして、アオヤ君はシロウさんの隣に座って真似るように腕を組み、酒場のマスターに酒を注文した。



 「ゆとりかお前は!」



 そして、更に待つ事一週間。



 「おぉ、適合者だ。名前は?」

 「アオヤ、俺のセリフ取んなよ。名前は?」

 「モモコです。冒険者は駆け出しですけど、スキルはレベル4を五つ、回復も使えます。責任感というか、故郷を魔王軍に滅ぼされたので、あいつらを全員ぶっ殺したいと思ってます」

 「はい、採用。そんじゃ、次のダンジョン行こうか」

 「行こうか」

 「分かりました。全員殺していいですか?」

 「……ダメだ、こいつら」



 もうツッコむような気にもならず、俺は彼らの後を大人しく着いて行った。

 かくして、シロウさんの新勇者パーティは結成された。そして、まずは手始めに、彼らのお手並みを拝見する為に近くのダンジョンへ潜る事となったのだ。



 × × ×



 「殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 「おい、モモコ。お前一応ヒーラー兼ねてんだからあんま前出るなよ。と言うか、それぶん殴る武器じゃねえぞ」



 モモコちゃんは、低級の悪魔を見るなりもの凄い剣幕で駆け寄って行って、連中をホーリーロッドでボッコボコに殴りつけていた。文字通りの断末魔がダンジョン内に響くが、あれではどちらが悪魔なのか分かったモノではない。



 「シロウさん、あれやばくないっすか?モモコちゃん、完全に瞳孔開いてますよ」

 「まぁ、あれくらい血の気が多い方がいいかもしれねえな。仕方ないから、お前がヒーラーやってくれ。確かヒールスキル持ってただろ。足りない分はアイテムで代用しようぜ」

 「……俺、狙撃手なんですよ?索敵とかどうすんですか?」

 「それもお前がやるんだよ。安心しろ、攻撃には参加しなくていいから」

 「でも、それだと火力足らなくないですか?」

 「多分大丈夫だ、見てみろ」



 そう言って指を指した先には、このダンジョンにはいるはずのない『ミノタウロス』とタイマンを張るモモコちゃんの姿があった。



 「……あの子、口の中にホーリーロッド突っ込んで体内から爆破しようとしてますけど」

 「あぁ、でもやっぱちょっと力足りてねえみたいだ。負けるなありゃ」

 「お前、なんでそんなに冷静なの?」



 俺が慌てだしたのが分かったのか、シロウさんはストレッチをして戦う準備を始めた。



 「アオヤ、お前何が出来んの?」

 「結構何でもできますよ」



 何それ、アバウト過ぎない?



 「おっけ、じゃあ俺がモモコ助けるから、バックアップ頼むわ。キータ、お前はモモコに重点的にヒールかけて、後ろは見張っといてな」

 「ちょっと!」



 言って、シロウさんは地面を強く蹴ってホーリーセイバーを鞘から抜くと、ミノタウロスの腕を一閃切り裂く、筈だったのだが、モモコちゃんを手放させることしか出来なかった。

 やはり、アクセサリーが無くなってパワーが大分落ちてしまっているみたいだ。確かミノタウロスはデビルカチョーよりも弱いはずだから、この先は苦戦が続くかもしれない。



 「ほら、モモコ、大丈夫か?」

 「殺す殺す」

 「キータ!モモコ大丈夫だって!ヒールしてあげて!」

 「もう、絶対そんな事言ってませんよね!ライケア!」



 言いながら、俺はシロウさんの腕の中でうな垂れるモモコちゃんに回復を施した。ライケアは、レベル3の回復スキルだ。パラメータを数値化出来ないから詳しい数字は分からないけど、結構回復できる。



 「アオヤ、俺が引くまで足止め頼む」

 「オッケーです」



 言うと、アオヤ君はホーリーランスを構えてシロウさんと居場所をスイッチした。



 「バレッドストライク」



 アオヤ君は呟くように言うと、ミノタウロスの右足に風穴を開けてシロウさんが後陣へ下がるフォローをした。バレッドストライクはレベル3のスキルで、結構ダメージを与えられる。



 「キータ、モモコを頼むわ」

 「ちょっと待ってください、これ飲んだ方がいいっすよ」



 そう言って、俺は液体の入った瓶を手渡した。



 「パワーポーションか、アオヤの分もちょうだい」



 そして、アオヤの分のパワーポーションを受け取ったシロウさんは、素早く前線へ戻って再びアオヤとスイッチをした。



 「ほら、これ」



 入れ替わりの瞬間、彼はアオヤ君にポーションを投げ渡し、ミノタウロスの斧撃を迎え撃って弾き飛ばした。しかし、代わりにホーリーセイバーもシロウさんから離れてしまい、かなりのピンチとなってしまっている。



 「アオヤ、あれ取って来て」

 「いっすよ~」



 めちゃくちゃ軽いノリで剣を待つ間、シロウさんはミノタウロスの腹に拳を三発叩き込んだ。しかし、これが中々硬かったらしく、カウンターの一撃を顔面にもろに貰ってしまったのだ。



 「シロウさん!」



 思わず叫んでしまったが、シロウさんは吹き飛ばされないようにミノタウロスの右手を思い切り掴むと、遠心力を使って飛び上がりそのまま首に延髄蹴りを見舞った。



 「シロウさん、これクッソ重いんですけど。僕持てないっす」

 「マジか。キータ、モモコ大丈夫ならアオヤ手伝ってやってくれ」

 「だからなんでお前はそんなに余裕なんだよ!アオヤ君頑張って!君やれば出来る子でしょ!?」

 「じゃあ、もう一回頑張りま~す」



 すると、アオヤ君はシロウさんの元へホーリーセイバーをぶん投げた。なんでさっき出来ないって嘘ついたの?



 「サンキュー、アオヤ」



 言って剣に飛びつくと、彼は着地してから振り返り左足を切り裂いた。そして、返す剣で腹部を切り裂くと、臓物を引きずり出してブヂブヂィと千切った。



 「トドメ頼むわ」

 「りょです」



 アオヤ君は、その軽い返事からはおよそ想像も付かないような槍撃をミノタウロスの顔面に見舞い、頭部を丸ごと吹き飛ばす事で戦いを終わらせたのだった。……あのパワー、確実にレベル4はあるんだけど。

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