魔法武装使いと学園生活
みない
プロローグ
四月も中程となり、ゴールデンウィークが近づいて、校内が浮足だっているような雰囲気に満たされている。
そんななか、入学してすぐと思われる真新しい制服に身を包んでいる少年は、何故か理事長室に呼び出されていた。
理事長室には先客と言うべきか、二十代の青年がコーヒーを飲みながら待っていた。
「急に呼び出してすまない」
理事長が窓の外を見るのを止め少年の方に振り向き、申し訳なさそうに続ける。
「申し訳ないのだが勇斗君、君には転校してもらうことになった」
入学して一ヵ月も満たない内に、理事長室に呼び出され、直接転校を指示されていた。
「転校……ですか? 自分何も悪いことやってないと思うんですけど」
校則を破っていない。遅刻が多かったわけでもない。ましてや犯罪に手を染めたわけでもない。なぜ理事長にそんなことを言われるかが、まったく分からなかった。
「申し訳ない。国からの要請だから、わたしにはどうしようもない」
(国からの要請? 俺にそこまでの価値があるのか? 成績が特別良いわけでもないし、スポーツができるわけでもない。なんで俺なんだ?)
理事長室に呼び出された少年。
「転校先だが、ここなのだ」
校長先生が手渡した紙にはこう書かれていた。
『転入指示書 下記の者を此処への編入を命ずる。初魄勇斗
最後の一文には見慣れない文字で何かが、たぶんサインと捺印と思われるものが記されている。
「最後の部分がね、ちょっと重要なのだよ」
〈C.Valit〉たぶんそう書かれていると思う。ただ、その続きは読めない。
「このシー・ヴァリトがですか?」
「いや、そのとなりに記されている、天剣の名前と刻印がだ」
コーヒーを啜るのを止め、青年が答える。
つまり、国家権力で強制されている。ということらしい。
「拒否権はないよ?」
先手を打つように、逃げ道を塞ぐ。
「人権侵害じゃないんですか?」
皮肉気味に問う。が青年は顔色一つ変えることない。むしろ溜息を吐き呆れかえっている。
「天剣相手にそんなこと言っても意味ないよ。特にあの人は
拒否権を与えない。いやそれどころか、俺が持っていないものを与えようとしている。
「それに、きみの幼馴染はそこに行っていただろ?」
確かに俺の幼馴染はそこに行ったはず。
初対面のこの青年がなぜ知っているのかに対して、意識がまったく向かなかったのは彼が当たり前のように言っていたからか、拒否することも思考することも諦めていたからか。
「わかりました。拒否権がないなら大人しく転入します。一ヵ月に満たない短い間でしたがお世話になりました」
勇斗は諦めてしぶしぶと受け入れた。
極東魔器装学園都市、ある者は最強を目指し、ある者は治療術の技術を学びに、またある者は興味本位でその場所に集まる。国がしかも外国の首相が強制編入させるなんて話は、前例がないどころか、異常なことだった。ここには入学志願しないと入ることが出来ないはずだから。
極東魔器装学園都市。
〈魔器装〉50年ほど前に謎の流星群の観測と共に、世界各地において発見された未知の武具。解析の結果、未知の素材によって製造されていることがわかった。そして、この〈魔器装〉がその一振りで一里余りを焦土に変えられる程度の力を持っていることが分かると、各国は戦争の道具としてこれを使おうとした。
それは同時に個人がミサイルを持つ同然なわけで、そんなものを個人が持つなんて危険すぎる。実際はその八割は各国が国単位で所有権を持っているので、そうそう持ち歩いている人はいない。
現代における人間が個人で持てる最強兵器〈魔器装〉の使い手及び、研究・開発者を育てるための教育機関。
一週間後。勇斗は学園都市の門の前に居た。外界と学園都市を隔てる巨大な門。
日本の学園都市は大なり小なりあるが、ここが国内外にある学園都市の中で最大規模、そしてその規模の大きさからか、海外からの留学生も多々いる。魔器装に関する場所は国によって管理されている。
荷物は前日に送ってある。ただ入る方法を教えてもらっていないからだ。
「どうやって入んだよ」
この門が開くことはないらしい。あくまで、形式として造ってあるだけの門。
回りには誰もいない。通用口には鍵がかかっていた。インターフォンがあればと思い、探していた時、通用口から初老の警備員と思わしき男性が出てきた。
「あの、すいませんここを通りたいんですけど」
「学園都市にかい? 通行証は持っているか?」
通行証? たしか昨日貰って、ここにしまっといたはず。
勇斗は持っていたカバンを漁ると、一枚のカードを取り出し男性に見せる。
「はいよ。確認した。ここを通っていきな」
詰所に戻り、近くのカードリーダーに認証させるとカードを持って戻ってくる。
男性は門番で昼食のために詰所を離れていたらしい。
通用口を抜けるとそこは聞いていた通り居住区らしく、たくさんのアパートやマンションが建っていた。
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